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  • 執筆者の写真Teruaki Miyazaki

ドラテク

ドラの穴

ふざけた名前ですね。(^^;というわけで、ドラテクのほんとに基礎中の基礎を、順を追って紹介していこう、というのが、ドラテク虎の穴、略してドラの穴。(^-^; ただし、ドリフトの話はできません、私が全然できないから……。

つまり、グリップ専門なんです、そのつもりで。ドリフトしたい、って人はごめんなさい。(..;

さぁ、これを読んでまだわからないとは言わせない! ……となるといいですね~。

注意: ある程度車に慣れていて、教習所で習う程度の話がわかる人は、普通に「講義」のほうから初めて構わないですけど、自分が車のことなんかぜんぜんわかんね~っ! って言い切れる人は、「超初心者向け特別講義」から初めてもらったほうがいいかもしれません。普通の人はこっち行っても退屈なだけですから……。

超初心者向け特別講義

え~、みなさま、初めまして。講師の猫々と申します。

今日ここに集まって頂いたのは、車のことが全然わからないけど、とにかくドラテクを磨きたい! という超初心者の方たち……ですよね? 普通に車を転がせる程度の人なら、聞かなくてもいい内容ですので。

大丈夫ですね? じゃあ、始めましょうか。

とりあえずこの講義は、いろんな用語とか、ちょっとした注意点とかを一つ一つ説明して行くものですから、そのつもりで聞いてくださいね。あ、もう知ってる、って話は聞き流していいですから。

そんなわけで……テキストを開いてください。いいですか……?

超初心者向け特別講義 パワー特性

最初は「車のパワー特性」です。

いきなり難しい用語が出てきましたけど、あんまり気にしないでくださいね。話はすごく簡単ですから。

車のエンジンは、回っているわけですから、当然、回転数があります。この回転数は簡単に変化しますよね? 普通の車なら、まともに走れる範囲と言ったら1500回転から6000回転くらいじゃないですかね。そうそう、この回転数は「1分間に何回転するか」ですから、正しくは「毎分1500回転」と言うべきでしょうけど、まぁ、みんな使ってる用語ですから、ここは省略した言い方でいきましょう。

あと、本なんかでは「rpm」なんて言う言葉もありますね。意味は同じです。

で、です。

ある程度回転数の高いところを使ったことがある人はすぐに気づくことが一つあります。それは、一般的に、回転数が高いほうが加速力がある、っていうことです。特にターボ車はそうですね。

回転数ごとに、どのくらいのパワーを引き出せるか、その変化が「パワー特性」と言うものです。あ。「パワー」ではなく「馬力」というのが正確ですけど、だいたい「パワー」というと馬力のほうを言うことが多いみたいですね。

大切なのは、車というのは普通、高回転を回したほうが力が出やすい、ってことです。車によっては違うこともあるんですけどね。ディーゼル車とか一部の車は、下手に高回転まで引っ張ると大変なことになりますが、でも、普通の車はだいたいこの法則が当てはまります。特にスポーツカーはそうです。

とりあえずみなさん、高回転域まで回して、身体で加速力を覚えてください。どのあたりの回転数で一番力が出ているか。たぶん、これが問題になるのは2速が中心だと思うんで、2速で調べておいてください。

こうして、よく力が出ている回転数を「パワーバンド」と言います。パワーバンドをはずさないように適切なギアを選んだり、スピードを調整した走り方をすると、エンジンの能力を最大限に発揮できて、かなり乗りやすいですよ。

超初心者向け特別講義 熱ダレ

じゃあ、次ですね。次は、熱ダレについてです。

車、っていうのはですねぇ、熱源のかたまりなんですよ。ガソリンを燃やしているエンジンは当然として、ブレーキもミッションもデフも、とにかく駆動する部分は全部、摩擦で発熱します。タイヤ表面も摩擦熱で熱くなりますよ。これは駆動部を持った機械全てについてまわる、宿命みたいなものなんですね。

問題は、この熱が色々とイタズラすることなんですよ。というか、部品が熱を持てば膨張して変形しちゃうし、潤滑用のオイル類は変質して潤滑能力を失っちゃいます。タイヤも、融けてくればグリップ力を失いますよ、ちょうど表面が濡れたような状態になっちゃうからですね。

もちろん、車を開発する人もきちんと考えていて、普通の状態で考えられる熱には耐えられるような設計をしたり、油脂類の選択をしています。熱を逃がす工夫も色々してますしね。ラジェーターなんかまさに冷却が目的の部品だし、オイルクーラーとか着けてる車もありますよね。

エンジンに至ってはもっとすごくて、冷えているときより一定の温度のほうが調子がいいようにできているんですよ。つまり、熱でやや膨張した状態のほうがピチッと走れるんですね。まぁ、もともとガソリンを燃やしてるわけだから、当然と言えば当然ですけどね。

けれども、それにも限界があります。もともとの設計もある程度余裕を見ていますけど、やっぱり全ての状況に対応できるだけの性能を持った車を作るわけにはいかないんです。というか、そんなの無理です。スポーツ走行なんかだと特にそうですね。メーカーとしては、ごく一部の車好きのために特殊な装備を着けるわけにはいかないんです。

まず真っ先に問題になるのはブレーキでしょう。ほかが大丈夫でもブレーキがやられるケースはすごく多いです。

熱でブレーキがやられる現象は2種類あります。一つがフェード、もう一つがベイパーロックです。

フェードは、ブレーキパッドが熱を持ちすぎて摩擦力を失う現象です。

ブレーキシステムの仕組みはわかりますよね。(^-^; 簡単に言うと、車輪と一体化した金属の円盤があって、この円盤を別の部品、つまりブレーキパッドで挟み込むんですよ。強く挟むと円盤は停まろうとしますよね? そうすると車輪も停まるわけです。

問題は、制動力に摩擦を使っていることです。ちょっと考えればわかりますが、回転する板を無理に止めれば摩擦熱が発生しますよね? 多少の熱なら大丈夫なんですが、これが限界を超えるとダメなんですよ。ブレーキが効かなくなって、車が減速できなくなります。サーキットでものすごいブレーキングを繰り返したり、長~い下り道をブレーキかけながら降りてきたりすると、こんな現象が起きます。まぁ、最近の車は山下りくらいじゃフェードしたりしませんけどね、ブレーキシステムが強くなってますから。

フェードすると、ブレーキペダルの感触が「ぬるっ」としてきます。まぁ、一度経験すればわかりますよ、って、普通の公道ではやめてくださいね、停まらない車は凶器ですから。そうそう、いちどフェードしたブレーキパッド、表面が変質していて摩擦力が落ちている場合が多いんで、注意してください。しばらく使ってるとこの部分が削れて元通りになりますけどね。

でも、フェードっていうのはなかなか起きないんですよ。というのも、フェードより前に、もう一つの現象、ベイパーロックが起きることが多いからです。

みなさま、ブレーキペダルを踏む足の力は、どうやってブレーキシステムに伝わるかわかってますよね? 簡単に言うと、両側に注射器をつけた管を想像してもらえればいんです。管と注射器の中には水がいっぱいに入っています。空気は全く入っていません。片方の注射器を押すと、もう片方の注射器は出てきますよね? 片方の注射器をブレーキペダル、もう片方をブレーキシステムだと思ってください。

しかし、熱がたまって水が沸騰して、中に泡、つまりエアが入ると事態は変わります。ペダルを踏んでも、押す力は泡を押しつぶすだけで、ブレーキに力が伝わらないんですよ。

これはすごく危険ですよ。

ベイパーロックはよく「エアを噛む」なんて言いますけど、これが起きるとだんだんとペダルの踏み代が増えてきて、最後には底まで踏んでもブレーキが効かなくなります。

一度エアを噛んだブレーキは、しばらくすると少しだけ戻りますが、普通はそのままです。そんなときあ「エア抜き」をすることになりますけど、ま、その話は置いておきましょう。

次に痛むのがエンジンオイルでしょうね。この中には油温計を着けてる人もいるかもしれませんし、これから着けるつもりの人もいるかもしれません。だいたい、油温が130℃とか140℃とかになってくると、油の主成分が分解して潤滑性能がなくなっちゃうんですよ。この状態を、「オイルがタレる」なんて言いますけど、すごく危険ですよ。タレの前兆は油温や油圧からわかるんで、チューンドカーの人がこういうメーターをつけているわけです。

オイルがタレるとエンジンが壊れる可能性があります。前兆としてエンジンからひどい振動がやってくることがありますから、変だな? と思ったらとりあえず回転数を落とし、できるだけ早く停止してください。まぁ、この状態ではすでに手遅れだったりすることが多いんですが……。

ほかにも、ミッションオイルやデフオイルなんかも熱で痛みますが……エンジンオイルほど深刻ではないと思います。時々交換してやるだけでいいでしょうね。

そして、非常に深刻な熱ダレのもう一つ。それはタイヤの熱ダレです。

タイヤは摩擦で地面に食いついてることはわかりますよね? 普通は縦方向に転がっているんで、あまり摩擦がない、と思う人もいるかもしれませんが、そうじゃないんですよ。

例えば、ブレーキを踏むと路面とタイヤの間に強い摩擦が発生します。加速してもそうですよ。もちろん、カーブを曲がれば横方向に摩擦が発生します。というか、普通にまっすぐ走ってるだけでも摩擦は起きるんですよ、少しですけどね。

摩擦が起きると摩擦熱が発生します。これは誰にでもわかりますね。普通の状態なら、この熱は空中や路面に逃げてしまって、あまり問題にはなりません。でも、激しい走行をすると、だんだんと熱が貯まってくるんですよ。

これがひどくなると、タイヤの表面が融け始めます。こうなると、タイヤのグリップ力はどんどん落ちてきます。まるで表面がひどく濡れているような状態になるんですね。曲がることはおろか、停まることもできなくなるので要注意です。

タイヤのネツ熱ダレは、腕が上がってきて車の挙動に敏感になると、走っていてもすぐに気づきます。

タレたタイヤは、手で触るとひどく熱くて、しかも「しっとり」と濡れた感じがしますから、たまに触ってみるといいですよ。この状態で熱ダレを感じなかったとしたら、その人はまだ腕前が足りない、ってことですね。もっと精進しましょう、いえいえ、もっと慎重に走るようにしましょう。

とりあえず、熱ダレというとこの3つが中心ですかね。かなり重要なんで、ちゃんと覚えておいてくださいね。

超初心者向け特別講義 オーバーレブ

おつぎはオーバーレブについてです。

マンガのタイトルじゃありませんからね。オーバーレブは、ひどいと車を壊すことにもつながる現象ですから……。

車にタコメーター、ついてます? スポーツ系の車はついてるのが普通ですし、スポーツ系でなくてもついてますよね。

メーターのある人は、よ~く見てください。回転数の表示のどこかから、赤い部分がありませんか? これがいわゆる「レッドゾーン」ってやつです。

車のエンジンが回転数が高いほうが力を出しやすい、って話はさっきしましたけど、これには限度っていうのがあるんですよ。例えば、エンジンの以内部ではシリンダーが高速で上下に動いていますけど、回転数がどんどん上がると、上下させるのに必要な力がどんどん増えていきます……これは簡単な理屈ですよね? 回転数があまりに高くなってくると、最後にはこの作用が追いつかなくなって、普通なら動力を生み出すはずのこの作用が逆に抵抗になっちゃうんですよ。それに、様々な摩擦が多くなって、それも抵抗になる。そうすると、自然と回転数を上げられなくなってしまいます。

それだけならまだよくて、吸気バルブや排気バルブが、あまりの高回転についていけなくなって、最後はちゃんと開閉しなくなってしまう。最悪の場合、シリンダーと接触して壊れることもあります。ほかにも、激しい摩擦で接触部が壊れてしまうこともあるんです。

このあたりの細かい話は、みなさまにはすぐに理解できないと思いますから、横に置いておくとしましょう。とにかく、エンジンの回転数には上限があるし、回転させすぎて壊れてしまうこともあります。

もちろん、車を設計するほうは、そんな問題がおきないように安全装置を入れています。レブリミッター、というのがそうです。一定の回転数になったら燃料をカットして、それ以上回転数が上がらないようになっているんです。この回転数はかなり余裕を見て設定しています。

じゃぁ安心か、と言えばそうでもないんです。この燃料カット、というのが問題なんですよ。というのも、稼働中のエンジンから急に燃料を奪って、そこに残ったわずかな燃料だけ、という状態にしてしまうと、エンジンにはダメージがあるんです。詳しい仕組みは、空燃比とか、そいういう複雑な燃焼の話に入ってしまうんでちょっと割愛しますけど、とにかくよくないんです。

エンジンの回転の調子も急激に変化しますから姿勢を崩す原因にもなりますし、とにかくレブリミッターがかかるのは、害はあっても良いことは一つもありません。だから、回転数を上げすぎないように注意しないといけないんですよ。

きちんと回転数を管理できないうちは、レッドゾーンの少し手前までしか使わないように注意してください。

で、オーバーレブの話がこれで終わりかというと、そうでもありません。

踏み込みすぎないようにしていれば、それでオーバーレブを防げるかというと、実はそうでもないからです。

さてここで、ちょっと計算してみましょうか。私のFCは、時速45キロでだいたい3000回転くらいです。時速90キロにすると6000回転ですね。

ちなみに、レッドゾーンは7500回転くらいです。

もし、時速145キロで2速に入れてしまうと、どうなりますか? クラッチをつないだ瞬間、エンジンが後輪の力で回転して、単純計算で9000回転になっていしまいますよね? でも、うちのエンジンはこんな高回転には耐えられるようになっていないんです。

もちろん、クラッチをつないだときに駆動輪にブレーキがかかりますから、ここまで回転数は上がらないでしょうが、少なくともかなりひどいことになります。しかも、駆動輪はきっとロックする、つまり回転が停まって完全に滑り出すことになるでしょうから、車はあさっての方向に飛んでいってしまいますよ。

それはさておき、一つ言えるのは、オーバーレブはシフトミスでも発生する、ってことでうよ、ここ、重要ですよ?

だから、シフト操作は確実に、間違えないように行ってください。車を壊さないためにも、ですね。

超初心者向け特別講義 オーバーヒート

さて、つぎはオーバーヒートについてですね。名前くらいは聞いたことあるでしょう。まぁ、実際に遭遇する機会なんて滅多にありませんけどね。

オーバーヒートって状況がどんな状況か、わかりますか? 温度が上がりすぎた状態、ってことはわかっているでしょうが、じゃあ、何の温度か、というと、ピンとこないかもしれませんね。

基本的にオーバーヒートは、エンジン本体が熱くなりすぎた状態です。ただ、エンジン本体の温度を測るのは難しいですし、そもそも、温度が上がりすぎて真っ先に異常を来すのが、冷却水です。こいつが沸騰してしまう。

温度管理での最大の問題が、この冷却水の沸騰ですから、オーバーヒートと言うと普通、冷却水が沸騰して「吹いて」しまった状態を言います。

車には水温計がついてるのは知ってますよね? 自分の車のどのメーターが水温計か、念のために確認しておいてくださいね。この温度が高くなりすぎると、オーバーヒートというわけです。

ただ、車載の純正の水温計はあまりあてにならないので注意してくださいね。なぜかというとこの水温計は、温度にあわせて敏感に反応するようにはできていないんですよ。

水温が低いうちはどんどん、「適温」めがけて上がって行きます。でも、ある温度、多分70℃くらいだと思うんですけど、このあたりになると、突然「適温」のところに貼りついたまま、動かなくなります。モノの話だと、120℃くらいまで、そのまま動かないとか言いますね。

普通、水温計が110℃をこえたら、そろそろ危険ゾーンに入ってます。120℃なんてのは、ほんとに危機的状態ですよ。だから、純正の水温計が動き始めたらもう、終わりだと思ってください。そのくらい、純正のは頼りにならないんです。

じゃぁ、どうしてそんな設計になっているかというと、実際に水温っていうのはけっこう、簡単に上下するんですよ。車のことをなにも知らない人が、「普段より水温が高い!」と言って騒ぎ始めると、メーカーとしてはかなり厄介です。でも実際は、80℃から100℃の間ならいくら動いても全然問題ないんです。ターボ車できちんとオイルクーラーを取りつけてあれば、100℃、場合によっては110℃に達したってまだ大丈夫なこともあります。でも、知らなければびっくりしますよね? そんな、「よく知らない人」のために、こんな状態にしてあるんですよね。

だから、車をチューンしてあったり、スポーツ走行したり、とにかく車をシビアに管理したい、っていう人は、水温計を取りつけるんですよ。

まぁ、みなさんもつけておいて損は無いかもしれませんね。問題はそれだけのお金を出す価値があるかどうか、って点になるでしょうけど……そうですねぇ、ターボ車でブーストアップあたりを始めると、そろそろ欲しいかもしれませんね。初めのうちは別にいらない、って人が多いですね。初心者なら黙っていても危険ゾーンに入ったりしませんから。車に負担をかけるほど猛烈な走り方はできないんですよ、腕がつくまでは。

じゃぁ、温度が上がるとなにが困るか、ということです。

エンジン自体も、あまりに温度が上がると壊れてしまいます。ただ、どこかが融けたり焼けたり、といったことはまずないですね。それよりも、エンジン自体が熱で歪んでしまって、もうもとに戻らなくなってしまうことがあります。

こうなるとそのエンジンはもうダメかもしれませんね。普通に走ってる分には大丈夫でしょうけど、あちこち痛んでて、簡単にオーバーヒートするようになります。

でも、ここまでダメージを与えることはほとんどないです。ハチロクみたいな古い車で、しかも冷却系が痛んでて調子悪い状態で、それでも無理に走らせたりすれば別ですけど、最近の車はまぁ大丈夫ですよ。

それと、大きな問題なのは油温ですね。

エンジンオイルって、わかります? エンジンっていうのはとにかく、ものすごい摩擦が発生するんですよ。とにかく摺動部が多いから、あちこちで摩擦が起きている。もちろんエンジンは金属のかたまりだから、そのままこすったらあっというまにボロボロになってしまいます。というか、金属だけでエンジンを組んで、摩擦対策をなにもしないで動かしたら、エンジンをかける前に摩擦で壊れてしまいます。

だからエンジンは、その摺動部にオイルを使うんです。油があれば滑るし、すり減りも最低限ですみますからね。これがエンジンオイルです。

でも、オイルはあくまでオイルだから、熱には弱いんです。高熱にさらされると分解するし、最悪、燃えてしまいます。だからエンジンでは、オイルを常に一定の温度に保たないといけないんですよ。このあたりはさっき、「熱ダレ」でやりましたね。

実を言うと、エンジンの中で一番弱いのはオイルなんです。一応エンジンは、オイルの熱を逃がすようになっていますし、積極的にオイルクーラーをつける車もありますよね。でも、これにも限界があるんですよ。油温やエンジン本体の温度がどんどん上がっていくと、ついにオイルは限界の温度をこえてしまいます。

そうすると、「熱ダレ」でやったみたいな現象がおきます。つまり、オイルの潤滑性がなくなって、エンジンブロー、つまり壊れちゃうわけです。

オーバーヒートを起こさないためにはどうすればいいかというと、油温と水温を下げることですね。水温、っていうのはつまり、今のエンジンはみんな、エンジン内部に冷却水を通して、それでエンジン本体を冷やしているんですよ。こうすれば油温が上がるのも、エンジン本体が熱で歪むのも防げます。水温を、そうですね、だいたい80℃くらいまで下げてやれれば、かなりいい状態になります。

そのために、ラジェーターの改良をしている人なんかもいますね。

あとは、オイルそのものを冷やす。オイルクーラーですね。

でも、こんなチューンはすぐにはできません。お金だってかかりますしね。多層ラジェーターとか大容量オイルクーラーとかつけると、軽く十数万にはなりますよ。

それよりも、水温や油温を見て、温度が上がりすぎたら回転数を抑えるとか、そんな走り方のほうが有効でしょうね。レースの世界じゃそれだと困るんで、いろんな機器をつけるんですけどね。

でも、それでも足りないこともあります。ちょっとでも水温を下げたい、そんな時もあるでしょうね。そんなときは、車のヒーターを外気取り入れにして、温度を最大にしてやってください。なぜかと言うと、このヒーターの熱源は、実は冷却水だからなんですよ。ラジェーターだけじゃなくて、ヒーターからも冷却水の熱を奪ってやれば、少しでも温度が下がりますから、いい結果になります。電力やパワーに余裕があればファンを回してやればもっと冷えるでしょう。まぁ、夏場はなかなか、そんなわけにもいかないでしょうけどね。

あとは、高いシフト、だいたい4速くらいで低回転運転をしてやる。5分か10分も走っていると、水温も油温もかなり下がりますよ。走れなければアイドリングしておきます。こっちは時間もかかりますけどね。

じゃあ、エンジンを止めたらどうか? という疑問が出ると思います。熱源を絶つわけですね。

でも、これは絶対にやめてください。というのも、エンジン本体の温度は、絶対にエンジンオイルより高くて、普通、その温度はオイルに致命的なくらいになっているからなんです。

エンジンが回っている間は、エンジンの力でオイルは循環しています。ある場所で油温が上がっても、すぐに冷えたオイルと混ざって、案外なんとかなるもんなんですよ。でも、エンジンを止めてしまうと、エンジンのそばにあるオイルだけが熱くなってしまい、最悪、エンジンが焼き付いてしまいます。

ターボ車のタービンはもっと深刻ですよ。というのも、ブーストをかけまくった場合、タービンの温度はエンジン本体より高くなっていることが多いんです。回転するタービンの根元はやっぱり摩擦が発生していますけど、この摩擦を消すのもエンジンオイルの役目なんです。完全に熱くなった状態で急にエンジンを止めたために、タービンが焼き付く、なんて言いますね。実際にはここまで深刻な事態になることは珍しいんですが、少なくともオイルにはよくないし、メーカーだってブーストかけたあとはいきなりエンジンを切らないでください、って言ってるくらいです、厳しい状況におかれるスポーツ走行ではなおさらですね。

そうそう、この話、オーバーヒートしなくても重要ですよ。アフターアイドリングなんて言いますけど、ターボ車では一般的ですね。走行後はしばらくアイドリングしておくわけです。普通に乗ってる間はアフターアイドリングなんていらないんですけど、高速道路でずっと高速走行して、パーキングエリアに入っていきなりエンジンを切ったりするとマズいことがあるらしいですよ。最低1、2分はアイドリングしておいたほうがいいかも。

え? 私ですか? まぁ、今のところ怖い状態になったことはないですね。まぁ、神経質になる必要はないんじゃないですか? ただ、気に留めておけばいいだけで。

じゃぁ最後に。実際にオーバーヒートしたらどうするか、ですね。

まず、とにかく車を停めてください。それ以上の走行は危険ですから。そしたら、アイドリングしたままです。絶対にエンジンは切らないように。ついでにで、ヒーターを最大、ファンも全開にしてしばらく待つ。そのとき、車のドアを開けておいたほうがヒーターの風の通りもいいですよ。エアコンをつけるとエンジンに負担をかけますけど……このくらいならいいんじゃないですかね。でも普通はエアコンつけたりしないですけど。

あと、可能な限りはやく冷却水を補充すべきでしょう。もっともこれは状況次第なんですけどね。ここらの判断は簡単では無いと思いますので、素直に救援を呼ぶほうが良いかもしれません。

よく、エンジンフードを開けておく人がいます。より熱を逃がすためですね。どのくらい効果があるかは、実を言うとよくわからないんですよ。それどころか、閉じておいたほうが冷却ファンの空気の流れがよくなって、冷えやすくなる、なんて言う人もいます。ま、大差はないみたいですし、どっちでもいいんじゃないんですかね。ただ、交通量のある道路の場合は、故障車だ、ってことをアピールするためにエンジンフードは開けたほうがいいかもしれませんね。

どのくらい待てばいいのかは状況次第ですけど、まぁ、10分も待てばかなりいいほうじゃないですか? 油温計や水温計がついてれば、その温度が落ち着くまでですね。

ま、実際にこんな状況になることはまずないですけどね。

そんなわけで、改めて強調しておきますね。

オーバーヒートはかなり深刻なトラブルで、時にはエンジンを痛めることすらあります。みなさんも温度管理には注意しましょうね、長く車に乗るためにも。

超初心者向け特別講義 外気温とタイヤのグリップ力

どんどん行きましょう。お次は、タイヤのグリップ力の変化に関する話ですね。

タイヤがどのくらい地面に食いつくか。その限界を決めるのは何だと思いますか?

サイズ? 横幅? 銘柄? 足回り? もちろん、それらは全部、大切な要素です。路面のコンディション、なんてのもありますね、晴れとか雨とか雪とか砂とか。

でも一つ、重大なことを知っていて欲しいんです。それは、温度がタイヤに与える影響です。

温度と言っても2種類あります。一つはタイヤの温度、一つは外気温です。まぁ、外気温は路面のコンディションの一部ですけどね。

タイヤが熱を持ちすぎるとタレて、グリップ力がなくなる、って話は、さっきしましたね。表面が融けてきて、濡れたような状況になってしまうわけです。

でも逆に、冷えすぎるとダメなんですよ。と言うのも、タイヤは若干、熱を受けて柔らかい状態になったほうが、路面の凹凸を捕まえやすくなります。それに、若干ですけど、路面に貼りつく作用もあります。アメリカのドラッグレースのタイヤなんかすごいですよ。表面を融かして接着剤みたいな状態にして、ほんとに路面に貼りついちゃうんです。

つまりですねぇ、冷えた状態のタイヤ、要は「暖まっていない」タイヤというのは、けっこう食いつかないんです。このことは頭に置いといてください。

特にレース用のタイヤなんかひどいですよ。普通に公道を走っているだけでは、冷えすぎで食いつかないどころか、表面が硬い状態のままで、無理に走るとボロボロになってしまう。

普通のタイヤはここまでひどくありませんが、いわゆるハイグリップタイヤの中には、雨や雪に極端に弱いものもありますね。これも同じ理由です。

で、外気温です。

普通、外気温が10度くらいになってくると、温度はあまり問題にはならなくなります。まぁ、暑くなるとタイヤがタレ易くなりますけど、このあたりはちゃんと管理できていれば大丈夫。

このくらいなら、少し走っただけでタイヤの温度はちゃんと上がって来ます。だから、春先から秋にかけては、タレだけを気にすればいいことになります。

でも、気温が下がって、路面温度が下がると、なかなか難しい状態になります。細かいデータがあるわけじゃないんですけど、私の経験からすると、外気温が5度あたりを下回ると、たとえ路面が乾いていてもタイヤのグリップ力はどんどん下がってくる感じです。2度あたりだとかなり悲惨ですよ。信じられないくらい食いつかなくなります。これは、タイヤの表面が暖まりにくくなるからですね。

冬場、北のほうにあるサーキットとか、深夜の峠道なんかを走っているとき、このことをきちんと理解していないと大変なことになります。路面を見て普通通りに走っていると、確実に刺さります。というか、実際にこれで刺さる人もけっこういるんですよ。

だからわたしは、車に外気温計を着けてます。旅行なんかで高い場所に行ったり、冬場に移動したりするときは、よく温度を気にしますね。みなさんも着けろ、とは言いませんが、標準で外気温計の着いた車もあるくらいですから、少し意識した方がいいですよ。

それと、外気温がもたらすもう一つの問題があります。なんでしょう?

はい、そこの人。今、言いませんでした? 正解です。路面凍結ですよ。

それと、凍結しないまでも、結露することなんて珍しくないです。

だいたいどのくらいで結露や凍結が始まるかは、その道の環境によって変わるので、実際、なんとも言えないところがあります。良く晴れた冬の夜だと、橋の上なんか4度くらいから凍結が始まることがあるし、5、6度で結露することも時々見ます。山のほうは湿気や風通しなどなど、いろんな条件が絡みますから、もっと複雑ですね。でも2、3度あたりからかなり危ないですよ。

もちろん、昼間の湿度が高いと結露しやすくなります。まぁ、凍結は湿度が高いとおきにくいんですけどね。このあたりはほんとに注意してくださいよ。

そうそう、どうして0度から凍結しないのか、って思った人、いますか? それはですねぇ、気温というのは地面から離れた場所で測るんですよ。でも、アスファルト路面なんかは、空気よりも熱が放射されやすくて、何度か低い温度になっているんです。ま、細かい理屈はいいですよ。でも、実際に路面は凍結しますからね。橋なんか、裏側からも熱が逃げるから、普通の路面よりもずっと凍結や結露しやすいです。

凍結や結露した路面を見分けるのは案外簡単です。道を走っていて、雨も降っていないのに路面が濡れているように見えたら、重症の結露や凍結ですね。なんとなく「しっとり」して見えるうちでも、けっこう危険です。もしもそんな場所を見つけたら、とにかく慎重に走るしかないですね。

それと、結露や凍結は、一度気に全域で起きるわけじゃなくて、場所によって結露や凍結しやすい場所とそうでない場所があります。いちど見たら、別の日にもその付近から始まると思っておいてください。ま、100%そうだ、というわけじゃないですけど、普通はだいたい、同じ場所から始まるんです。

路面がキラキラ光って見えたら、もう終わりですね。凍ってます。普通に走るのだって危険ですよ。

ま、このあたりの事情はきちんと頭に入っていれば大丈夫ですから。でも、冬場はいつも意識しておいてくださいね。

特別講義: 安全に練習するということ

ようこそみなさま。特別講義においでくださいまして、ありがとうございます。今回は、普段の練習メニューとは別に、練習することそのものと、その中での安全確保について少しお話しさせて頂きますね。

というのも、やっぱり多いんですよ、練習中の事故。

いくら練習したいって言っても、車を壊しちゃ意味がないし、自分が大怪我をしたり、ましてや誰かを巻き込んだりしたら大変です。そんなことはわかっていますよね? なのに事故はおきています。

私自身も色々と経験していますし、いろんな事故を見てきています。ただ、そこからいくつかの傾向が見えてきていますし、色々な人が事故を起こさない練習 についての意見を持っています。だからここで、そうした「安全な練習」について、皆様にきちんと考えて頂きたいと思います。

みなさん、忘れないでくださいね。車というのは膨大な運動エネルギーを持った鉄のかたまりであって、簡単に人間を殺すことができます。そんな危険なシロモノを振り回すのですから、きちんと注意するのは当然のことですよね?

さて、まずよく言うのが練習場所ですね。

一番の理想は、クローズドコースで行うことです。 ほとんどはサーキットですよね。中には、誰にも迷惑をかけない広い土地を持っている幸運な人もいるかもしれませんけど。地域によっては、安い値段で一日走 行できるいいサーキットなんかもあったりして、こんな場所で練習できればどんどん腕も上がるし、良いことずくめです。もちろん、クローズドコースでも事故 が起きることはありますけど、その確率は公道よりもずっと低いです。少しお金はかかりますが、事故を起こしたときのことを考えれば保険みたいなものですし、一日数千円程度ですから、そんなに高いとは思いませんね。

でも、そういった恵まれた状況にない人も、当然います。そうすると自然に、練習場所は公道、ということになってしまうでしょう。

私自身も公道で色々な練習をしてきたのは事実で、それは素直に認めますが、その私だからこそ、公道での練習はあまりよくないよ、と言いたいです。というのも、公道での危険をたくさん見てきているんですよ。私自身も色々ありましたし、実際、他の走り屋との事故も経験しています。

せめて、広場など、他交通の心配のない場所で練習するように心がけてください。もし公道で何か練習したいと思ったら、とにかく細心の注意を。自分が少しでも危険だな? と思ったことはしないようにしてくださいね。それから、自分たちが危険な行為をしているという自覚もですね。

さて、ここからは話をいくつかの段階に分けてさせて頂きましょうか。

最初は、ほんとの初心者の方、ですね。免許を取ったばかりとか、マイカーを初めて持ったとか、そんな人です。

こういう人は、ドラテクの練習以前の問題でしょう。最初にするのは、とにかく車に慣れることですよ。別に峠や埠頭なんかに行くな、とは言いませんけど、普段の街乗り以上の走り方は絶対にダメです。 そもそも初心者の人って、街乗りですら危険な運転をしていることがありますよ? それを峠でスピードを出そうとすれば、簡単に事故を起こします。18歳に なる前から走り屋に憧れているような人もいるでしょうし、そういう人は車を持ったらすぐにでも走りに行きたいでしょうけど、ここはじっと我慢です。ギャラリーに徹してください。実際に車を持つと、それまでとはギャラリーしていてもそれまでとは全然変わりますよ。他人の走り方から学べることがずっと多くなります。そんなことを色々と感じながら、将来のためにじっと我慢して欲しいんです。

どのくらい我慢するかは人それぞれでしょうけど、少なくとも、色々な操作、例えばシフトチェンジとかを無意識に行えるくらいにはなっていて欲しいです。 いちいち、「あ~、クラッチ踏むんだっけ。それからシフトは、一度ニュートラルにして……」とか考えるのではなく、左手や左足を意識することもなく、「~ 速にシフトチェンジする」という一連の動作になるまで車に乗ってください。

どのくらいでしょうかね。熱心な人なら3、4ヶ月くらいでかなり慣れると思いますよ。普通はだいたい半年くらいかな、と思いますね。

車に慣れたら、もうそろそろ練習場所に繰り出してもいいころです。でも、とにかくゆっくりですよ。ほとんどのコーナーをブレーキを踏まずに行ける程度で、走ることやそのコースに身体を慣らしてください。あ、ブレーキを踏まない、という意味ではないので注意してくださいね。直線でのスピードを落として、コーナーでもほとんど減速せずに済むような、そんなゆっくりした動きをして欲しいんです。

ここでの目的は、とにかく、これまでやったことのない「走る」という行為に目や身体を慣らすこと、コースを覚えることですね。コースを走るということ自体、もっと言えばコース自体に恐怖を感じているうちは、何の練習もできませんよ。

とにかく、なんとなく怖くなくなってきたな、というくらいまで慣らしてやってください。もしも公道なら、対向車とのすれ違いや、他交通の状況について目を慣らすようにしてください。カーブミラーの見え方やライトの光の見え方、見通しの悪い場所などを覚える。それまでは、いつ対向車が来ても平気な走り方をしてください。

コースを覚えれば、次の段階です。

やっぱり最初にするのは、「直線でスピードを出す」「コーナーの手前でスピードを落とす」という、メリハリの効いた運転をすることです。こうして、いつも一定の「だらっ」とした運転ではなく、色々な動作によって車の状況を常に変化させることを覚えてください。

この感覚を覚えたら、そろそろ、「ドラの穴」の範囲に入れると思います。

ここまでは、ほんとにのんびりした、もしかしたら大きな我慢が必要かも知れない練習になります。車に慣れてからでも、コースやメリハリの練習に1、2ヶ月はかかるんじゃないですかね、熱心な人でも週末だけ、なんて人は、何ヶ月もかかる かも。だから極端な話、免許を取ったばっかりの人なら、最初の1年は身体を慣らすことと、フルブレーキやヒール&トゥ、ハンドルの握り方なんかの基礎的な 動作を身につけることに費やされてしまうかもしれませんよ。

そんな悠長なことは言いたくない、友達と走りに行きたい、という気持ちもわかります。でも、とにかく何であれ、「慣れていない状況」というのが、本人が考えているよりも遙かに危険なんだ、ってことを認識して欲しいんです。

初心者は技術や経験がないから、自分がいかに危険な状況にあるのか理解できないことが多いんですよ。

悪いことはいいませんから、自分がおかれた状況を理解できるようになるまで、けっして「速く走ろう」とは思わないでくださいね。

こうした期間が過ぎたら、ようやく本格的な練習ですが、ここでひとつ、覚えておいて欲しいことがあるんです。

それは、多くの練習は、全開走行ではなく、余裕のある状態でしかできない、ということです。

というのも、自分の限界ギリギリで走っていると、自分の動作に目を向けることもできないし、何かミスしてもその原因を探るのがすごく難しくなるんですよ。それに、事故を起こす確率も格段に上がります。それよりも、余裕を持った状態で少しずつ自分の走り方を変えたり、色々な動作や状況を経験する。そうした練習の成果を、実際に全開走行してみて試して行くわけです。

もちろん、全開走行を全くしなければ何の勉強にもなりません。けれども、常に全開走行では、いつも危険に身をさらすだけですし、なにより、上達が遅れることになりますよ。特に練習を始めたばかりのころはそうなんです。

腕が追いつかなければ、いずれ危険な状況に陥ります。

ドラテクにこだわる人たちの間でよく言われる言葉を一つ、頭に入れておいてくださいね。

「低速でできない動作は、高速では絶対にできない」

ゆっくりとした動きで、とにかく様々な操作をきちっと覚えて欲しいんです。全開走行はそれからでも間に合いますから。

そうそう、私としてはこの「全開走行」は、必ずクローズドコースでやって欲しいですね。というか、クローズドなら、全開走行できる時間がかなり多いですよね。そうでなくても、何度か本物の全開走行を経験しておけば、普段の練習では全開走行をする必要はなくなります。ある動作がどんな結果を招くか、車の挙動を感じ取りながら頭の中でシミュレートできるようになるんですよ。まぁ、始めたばかりの人には難しいでしょうけど、そうですねぇ、3、4ヶ月、あるいは半年も車の挙動を勉強していると、だんだんと車の動きに関する自分自身のセンサーが敏感になってきて、「あ、今の動作を全開走行でやったらスピンしてたな」「お、今のならタイムが縮まりそうだ」とか、わかってくるようになります。こういう状態になれば、かなりゆっくりした速さでも練習できるようになるんですよ。それこそ、普段の街乗りの安全運転だって可能です。

普段からそうした動きを慣らしておいて、サーキットに行って実地で試す。こうしたサイクルができれば、事故もぐっと減ると思いますね。いくらなんでも、2、3ヶ月に1回くらいならサーキットに行けますよね? ヘルメットなんかが必要だから初期投資は少しかかりますけど、それさえすめば、1回あたり高くてもたった2、3万のことです。車にかけているお金を考えれば、十分に安いと思いますけど。

最後に、一言だけ、練習についての鉄則をお伝えしますので、よ~く覚えておいてくださいね。

がむしゃらに走り込むだけの人は、絶対に上達しません。そういう人を待っているのは重大な事故だけです。常に今の課題に目を向け、一つずつそれをつぶしていった人が、遠回りに見えても最終的には「凄腕」の仲間入りができます。

そんなわけで、今回の講義はここまでです。みなさん、自分自身、そして周囲の人のためにも、安全にはくれぐれも注意してくださいね。ご拝聴、ありがとうございました。じゃぁ、本講義でお会いしましょう。

特別講義: 鼻の向きを変える

おはようございます。みなさま、おそろいですね。じゃぁそろそろ始めますか。

最初に一つ触れさせていただきますが、この講義は、最低限、荷重移動とか、フルブレーキとか、横Gに対する限界とか、アクセルとステアでの姿勢制御とか、そういう最低限の技術が身についている人向けの内容です。もしそういう話がまだできていない、という人は、申し訳ないですが、今日は話だけ聞いておいて、まず基礎的なところを練習するようにしてください。

えっと、今回のテーマは、まぁ、タイトルの通りですが、車の向きを変える方法、という話です。

なんだか漠然としてますよね。

あ~、もしかしてこの中で、ハンドル回せばいいんじゃないの? と思った方、今回の話はもうちょっと複雑ですから、よ~く聞いてくださいね。

さて、車がコーナーリングするには、車体の向きを変えなければいけません。

そんなことはわかってますよね。

普通考えるのは、やっぱり前輪の向きを変える、つまりステア操作をする、ってことでしょう。もちろん、曲げる動作の第一歩はやっぱりステア操作でして、こればかりはどんな上級者も変わりません。

ただ、その後のちょっとした動作で、車の向きの変わり方が色々と変化します。ここが車の面白いところでして、同時に、こいつを勉強すると、コーナーリングスピードはより上がって行きます。

どうしてか。

このあたりは、本講義の第八講でも少しやりました、スライドと関係があります。忘れちゃった人はテキストを見ておいてくださいね。

この講義では、車というのは前輪だけで旋回するより、後輪を軽く滑らせて四輪とも使って曲がったほうが速い、と説明しました。しかし、口で言うのは簡単ですが、実際に後輪を流せ、と言われても色々困ってしまうのは確かでしょうね。

熱心に練習してる人の中には、ここらへんの感覚がそろそろ身についてきてる人もいると思います。でも、まだわからない人もいるんじゃないかと思います。特に、いわゆる「ベタグリ」で走ってる人は、なかなかこのあたりがつかめてこない。

全然車輪を滑らせないようにする「ベタグリ」が実は遅いことは、第九講で少し紹介しましたね。これは、車輪を軽く滑らせないと上手に車体の向きが変えられないからです。

コーナーインで車体の向きを変える、よく「鼻を入れる」なんて言いますが、こいつができないと、そのあと、車体の向きを変える仕事がすべて前輪に行ってしまって、非常に苦しい思いをすることになります。FRや4WDならプッシングアンダー、FFならアクセルでのアンダーが出てしまい、こいつとの戦いになる。

しかし、車輪を滑らせるのは怖いかもしれません。スピンを経験している人は特にそうですね。

今回は、そんな人たちに、上手に「鼻を入れる」方法のなかで、一番簡単なやりかたをちょっと紹介します。

では、前置きはこのくらいにしましょうかね。

よく、ですねぇ、ドラテクのことについて語るとき、こんな言葉を聞きません?

ブレーキで曲げる

というやつです。

まぁ単純に言うと、フロント荷重を作って、フロントタイヤのグリップを高めてスリップアングルを抑えると同時に、リアを外に滑らせてやる、というやつですね。ブレーキ残しをきちっと使ってやらないとできないから、ブレーキで曲げる、なんて言い方をするわけです。

しかしながら、ブレーキだけでこいつをやってやるワザは、実はなかなか見えてこなかったりします。けっこう車速が乗っていないといけない、というのがその最大の理由だと思うんですけどね。

とりあえず、この方法には2種類あります。FFのようにまさに「ブレーキで曲げる」方法と、FRのように「アクセルで曲げる」方法です。どちらも、最初 にブレーキでフロント荷重を作ってやるところは同じなんですが、そのあとのちょっとしたコツが違うので、別々に紹介しますね。

ちなみに、4WDの場合はよりFFに近くて、フロント荷重+ブレーキで一気に鼻を入れてやるんですが、完全にFFと同じというわけでもなくて、後輪の駆 動力を生かしてFRチックな曲がり方もします。中間的、というよりは、独特のタイミングがあるので、とりあえずFFチックな方法を覚えておいて、色々研究 してみてください。

まずはFF的な方法ですね。

アクセルで後輪を滑らせることができないFFは、とにかくフロント荷重になっている時に全てを解決しなければなりません。これが、FFには鬼の突っ込みが必要だ、と言われる所以ですね。

コツとしましては、まず、フルブレーキとブレーキ残しで、徹底的にフロントタイヤの限界を使い切る練習をしてください。そしたら、普通よりも少しだけ余分にハンドルを切ります。

こうすると、フロントが少しだけ横滑りしますね。この「少しだけ」が重要なんですよ。完全にブレーキングアンダーを出したらダメです。特に4WDの人、気をつけてくださいよ。それをやると一発でコントロール不能になって壁に突き刺さります。

こうして、軽~くフロントを逃がした状態できちっと旋回してやると……自然と後輪も流れます。その瞬間を予期して、先回りしてステアを少しもどし、アクセルを開けてやると、四輪を軽く流しながら綺麗にコーナーリングして行きます。

えっと……なんだか納得していない人がいるようですね。(^-^; それはきっと、同じようなことをしても後輪が流れないからでしょう。

その理由は二つです。

一つは、ステア操作が足りないことです。もう、コーナーのインに突き刺さるくらいのつもりで一気に車体の向きを変えてやって下さい。その勢いで後輪を滑らせてやる気持ちです。どうせ車体はアウト側に膨らんでいきますから、それを見越した操作をしてやらないとダメですよ。

もう一つは車速不足ですね。とにかくこのコーナーリング中は、車速が乗っていないとできません。とにかく、少しずつ車速を上げていって下さい。練習が正しければ、やがてこの領 域に届くはずです。ただ、この領域というのが案外高くて、何か壁のようなものを突破しないといけないかもしれませんね。ぜひとも頑張ってください。

ちなみに、車速が充分でないときにどうやって後輪を滑らせるか、という話ですが、それを聞かれたらもう、サイドを使ってください、としか言いようがないですね。(^^; もっとも、サイド引きもある程度の車速が必要なんで、そう簡単には行きません。結局、ジムカーナみたいな競技はFRが楽だ、というのは、このあたりに理由があると思って頂ければ。

まぁ、うまい人はFFでもちゃんとやってみせるんですけどね、今のみなさまにいきなりそれを期待するのは酷というものでしょう。

FR的な方法は、これと少し違います。

と言っても、動作の前半はFFと似ています。フルブレーキから、前輪の力を使い切ったコーナーイン、少し余分なステア操作での軽いアンダー、ここまでです。

ただ、FRの場合に少し違うのは、フロント荷重が残っていて、かつ、後輪が滑り出す前に一気にアクセルを開くことです。後輪が滑り出すのを待っていると、たいがいは手遅れになります。手遅れのタイミングだと一気にスピンモードになってしまいますよ。後輪が滑るのを見越して早めに、一気にアクセルを踏むようなタイミングが良い、ことが多いと思います。まぁここらは経験と研究ということで。

こうして、フロント側で発生したアンダーステアを、後輪を滑らせて打ち消してやります。そうすれば、綺麗に四輪を流してコーナーリングできます。

そうそう、アクセルを踏むとき、ステアは戻さなくてはいけません。これも、後輪の動きを見越して、早めに操作することですね。遅いとスピンになります。FFと比べ、FRはアクセルとステアの関係が少し違います。FFはあくまで、後輪を滑らせてやるために、アクセルを踏んだ時には少しステアが残っていないといけないんですが、FRの場合、後輪に駆動力が発生した直後にステアを正面に向けることを基本と考えて下さい。ゼロカウンターってやつですね。ここを基準にして、あとは経験と研究で修正して行くのが良いと思います。

これは、初めてやるにはけっこう、度胸がいるかもしれませんよ。とにかくFRの場合、フロント荷重がきっちりかかっていさえすれば、どんどん後輪を流して行けますから、FFみたいに死ぬ気で突っ込む必要はないかもしれません。もっとも、ある程度は車速がないとダメなので、やっぱり車速を上げていく練習は必要でしょうけどね。

とにかく最初は、スピンモードに入るのを怖がらずに練習してください……あ、ほんとにスピンしないように気をつけてくださいね。(^-^; 無茶しないで真面目に練習していれば軽いタコ踊りくらいですむはずですから、とにかく丹念な研究が大切ですね。先を見越して、というキーワードさえ忘れなければ、いずれはコツがつかめてくるはずですから。

さて、こうして二つの駆動方式ごとの「鼻の入れかた」について紹介しました。

最後に一つ、付け加えておきましょう。

こういう練習なんですが、タイヤがショボいほうがやりやすいです。ハイグリップタイヤだと上手にタイヤが流れてくれないばかりか、流れ始めた時にはものすごいスピード、しかも一気に飛んでいくから全然制御不能、なんて事態になりかねません。

しかも、タイヤが食いつくほど、きちんと曲げるためには車速を上げてやらなければいけません。これが一番重要ですよ。

よく、タイヤが食いつきすぎると曲がれない、なんて言い方をしますが、まさにこういうことですね。タイヤというのは食いつけばいい、というものでもなくて、ステージや車、腕前に合わせて、一番曲がりやすいグリップ力というものがあるんです。

最初は、これよりも少しグリップ力を落として練習することをお勧めします。ただ、ブレーキも効きにくくなっていますから、あくまで慎重にお願いしますね、事故ってしまっては洒落にならないですから。とにかく、コーナーに意識を集中して、直線では無駄なスピードを出さないようにしてください。

それから、ある程度の腕がついてくると、あまりに食いつかないタイヤは不向きになって来ます。色々言いますが、いまのスポーツタイヤの性能って言うのは、今の車の車重やパワー、車速に対して、けっこう適正なものになってるんですよね。あまりに食わないタイヤはここらのバランスが崩れてるってことになりますから、そういう状態で長く練習を続けるのは、バランスの良い車の挙動を知るための妨げになりかねません。上達にあわせて徐々にタイヤの性能を上げて行くのが理想だと思います。

それでは、今回の講義はここまでです。なんか感覚的で曖昧な話ですが、まぁ、正直言って仕方ないと思います。とにかくこういうのは、走って走って走り込んで、身体で覚えるしかないですから。

でも、こういう操作を自然にできるようになったら、一気に速くなりますよ。ですからみなさん、頑張ってください。

では、講義を終わります。

特別講義: ライン取り考

少し遅くなりましたが、講義を始めさせて頂きます。

皆さんおそろいですね。では。

さて、講義案内でも少し触れさせて頂きましたが、この講義は第六講あたりまでは終わった人向けです。まだロールした車体の挙動とか、そういうのがよくわかってない人、いませんよね? もし今ひとつだとしたら、とりあえず今回の話は頭の中に入れておく程度にしておいて下さいね。普段はあまり意識しないで下さい。車の挙動のイメージがつかめてきたら、改めて研究してみてください。

では。

今回のテーマですけど、ライン取りについてのもう少し細かい話です。

タイムを叩き出すためのライン探しについては第九講で扱っていますが、これはそのもう少し手前、車をいかに効率よく使い切るか、という話です。

その中で、複合コーナーや路面が乱れている場合を除いた、つまり、平らで路面の荒れていない、均一な単一コーナーという想定で話を進めさせて頂きます。これ以外の場合は、単一コーナーの技術の応用で対応できますからね。

とりあえず。

最初に大変に失礼なことを申し上げます。

本講義では、ライン取りについてなかなか始めなかった理由について、第五講で軽く述べさせて頂きました。

いわゆる「アウト・イン・アウト」の形のラインというのはですねぇ、車の挙動を理解していけば自然に形作られてくるんですよ。

それを理解しないで、いくら上級者のラインを真似しても何の意味もないんです。

しかし実際には多いんです。とりあえずアウト・イン・アウトをやってるんだけど、その間の車のコントロールがメチャクチャで、本当にライン取りを理解してるの? という人が。

みなさんはどうですか? なぜアウト・イン・アウトなのか、理解して走っていますか?

理解できていると思っている人も、この講義の話をじっくり聞いて、自分の走り方をもう一度見直してやって下さい。

では本題に入りましょう。

第五講では私は、コーナーリングを5つのフェーズに分けました。

おさらいしてみましょう。

まず、直線でのブレーキングですね。ここはフルブレーキングなので、特殊な状況以外では深いことを考えなくていいです。

え? 特殊な状況って何か、ですか? まぁ簡単に言うと、このフルブレーキング区間に勾配があったり、路面が荒れてたり、緩いカーブになっていたりです ね。こういう場所でのブレーキングは、ひたすら走り込んで感覚をつかむしかありませんが、要は、ブレーキが効きにくくなって普通より手前からブレーキング を開始しないといけないことや、ブレーキが弱いことで荷重が乗りにくくなる場合があることとかを意識していればいいと思います。

逆に上り坂だと、ブレーキが効きすぎてコーナーインでは荷重不足になったりすることもありますが、ここらも研究するしかないですね。

むしろ重要なのは、どこからブレーキングを開始するかですね。まぁ、この話はあとでしましょう。

次は、ブレーキを残した状態でのコーナーインですね。

ここで忘れてはいけないことがあります。コーナーリング中、フロント荷重を使って効果的に旋回できる区間はここだけだ、ということです。

つまり、必要な旋回を、この区間でしておかないといけないわけです。

どちらにしても、コーナーリング全体の姿というか、ライン全体の形は、この区間で7割がた決まってしまいます。そのくらい、コーナーインは大切なんです。

次はニュートラル状態での旋回の持続です。ここは特筆することはないですが、基本的に舵角は一定です。この区間で無闇にステア操作をしてはダメです。

と言うか、車に一定の横Gをかけて、車速をあまり変化させずに旋回を続けます。

それから、出口に向けての加速です。いきなりアクセルを踏まない、というのはもう説明しましたね。

最後は直線での加速です。ここはただ加速するだけなので、あまり気にしなくていいでしょう。

ここまではもう、みなさんもわかってらっしゃると思います。

問題は、これらのフェーズをどう組み立てるか、です。これがなかなかできない人がいるんです。

では、それをどうやったらいいか、ですね。

それはですね。これは中嶋悟氏の受け売りなんですが、コーナーは出口から攻めろ、ということです。

実を言うと、こんな単純な話でもないのですが、概念的には間違っているわけではないので、この方法をご紹介しましょう。

ここで問題とするのは、4番目のフェーズ、旋回しながらの加速です。ここをどうするかを決めれば、コーナー全体の形を決定することができます。

なぜ5番目の直線加速でないかと言うと、ここでは問題になることは何もないからですね。

このフェーズでは、車はまだロールしています。別の言い方をすると横Gが残っているということです。

ロール中にアクセルを踏むと挙動を崩しやすいというのはもう、第六講でご説明しました。しかし、ちゃんと加減をわかっていれば、この姿勢の崩れを最低限に押さえ込むことができます。

横Gが最大で、タイヤが限界になっているとアクセルは踏めません。踏めば駆動輪が滑り出すでしょう。FFなら所謂パワーアンダーになるし、FRならプッシングアンダーかパワーオーバーに入ってしまでしょう。

ここから横Gが減って行くについれ、つまり、旋回半径が大きくなるについれ、より大きな加速力をかけてゆくことができます。

もちろんこのフェーズでは、旋回半径を少しずつ大きくして直線加速に移行して行くわけですから、この現象には何の問題もないわけです。むしろ、旋回半径が大きくなって行くにつれ、だんだんとアクセルを踏めるようになって行くわけですから、その加減を覚えて可能な限りアクセルを踏むようにすればいいでしょう。

問題になるのは、どのくらいのはやさで横Gを減らして行くか、です。基本的には、あまり長々と横Gを残さず、素早く姿勢を立て直したほうが加速しやすいですが、コーナーの形状によってはそれができないこともありますし、このあたりは加減を身体で覚えて下さい。

そうそう、この加速のフェーズでは、アクセルを底まで踏めない区間と踏める区間があると思います。その意味では、このフェーズはさらに二つに分けられる わけですが、このあたりは正直、言葉で説明してもあまり意味がないんですよね。みなさん、それぞれの区間で車がどういう動きをして、どう扱えばいいか、身 体で覚えてもらうしかないです。

とにかく、フル加速状態になったら、それまでとは少し挙動が違う、ってことを覚えておいて下さい。

それから、このフル加速状態では弱アンダーになっていると理想的だと言われます。それは、オーバー傾向になることで加速力を無駄にしないほうがよいからです。それから、特に後輪駆動車で若干リアを流した状態になっている場合、弱アンダーにしておかないとグリップ力が戻ったときにタコ踊りになってしまいますよね。

さて、このときに注意することがもう一つあります。

今、横Gによってかけられる加速力の上限が決まってくると言いましたが、実際にはこれより強い加速力がかかっていても、旋回は可能なんです。

この状態だとどんなことが起きるのかを軽く説明しましょう。

余分な加速力をかけると普通、駆動輪は多少滑ります。ただし、FR車の場合はプッシングアンダーを出すこともありますね。

こうしてタイヤが多少滑っても、グリップ力はまだ残っていますから、ちゃんと車は旋回しますし前にも進みます。どのくらいまでなら滑らせて良いかは、まぁ、熱心に研究してみて下さい。

ただ、こうして「タイヤを少し滑らせる」加速では、滑らせない時に比べ、車体はどんどん外に膨らんでいきます。従って、アウト側に余分な空間が必要になるということですね。

まぁ、これは余談としましょう。

ここのフェーズでは、一つの選択をしないといけません。それは、加速開始時点でどのくらいアウト側に余裕を持つか、です。

強い加速をするほど、アウト側に余裕が必要になりますよね。また基本的に、アウト側に余裕を持たせるほど、はやい段階から加速を開始することができます。

これは第九講でもお話しするのですが、強い加速力を確保するためには、コーナーインの車速を抑え、クリッピングポイントを奥に持って行き、出口に余裕を持たせておく必要があります。

逆の言い方をすると、アウトに余裕を持たせるほど、コーナーインではより手前からブレーキを踏み、車速を落として進入する必要があります。こうしてやらないと、アウト側に充分な余裕を与えられなくなってしまいます。

とすると、どんな状態で、どんな姿勢で、どんな加速をするかによって、コーナーインを変えてやる必要があるわけです。言い方を変えれば、自分が想定した場所、想定した車速、想定した横Gの状態を作り出すためには、どうやってコーナーに進入すればいいかが自然に決まってくるはずです。

これが、コーナーは出口から攻める、ということですね。

どちらにしても、コーナー後半で加速すれば、車の軌跡をアウト側に膨んで行きます。加速させれば加速させるほど、アウトに膨らむ量が増えて行く。

とすれば、最大の加速力を得るためには、当然、コースをアウトまで使い切ったほうがよいわけです。これが、アウト・イン・アウトの最後の「アウト」ですね。このことを頭に入れた上で、できるだけ手前から加速する、というのはどういう意味なのかを考えてみて下さい。

さて、アウト・イン・アウトの残りの二つですね。

「イン」については、今の説明で3分の1は説明したことになります。アウト側に余裕を持つためにはできるだけインに寄ったほうがいいのは当然の話ですよね。

そうすると、この「イン」の理由の残り半分と、最初の「アウト」についてが残るのですが、ここまで来ればもう、説明するまでもないですよね。(^^;

コーナーの形を決めるために、4番目のフェーズの形が決まったとします。そこに素早く車を持っていくためには当然、旋回半径は大きい方がいいわけです。

これがわからないなんて人はいないですよね。(^-^; 旋回半径が大きいほどコーナーリング速度が稼ぎやすいわけですから。

この図を見てもらえば……いや、見なくてもわかるでしょうけど、このA点が決まれば、最大のの旋回半径でアプローチするためには、コーナーインをアウト側からするしかありません。

それからもう一つ。「イン」の理由の残り3分の2ですね。

一つは、インをついたほうが走行距離が短くなるということです。ほんのわずかな距離でしょうが、0.1秒を争う世界では、この差は大きいですよ。

それからもう一つ。このコーナーリングの図をもう一度見て下さい。コーナーインではこう、軌跡がアウト側で鋭く曲がっていますよね。もしもインをつかずにこう、少しアウト側で走ったらどうなります? 軌跡がコースのアウトに近づきすぎません?

コースに余裕があればいいんですけど、もしコースが狭かったらコースアウトしてしまいますよね。

つまり、コーナーインでの軌跡に自由度を与えるためには、この軌跡をできるだけ手前に持って来たいわけです。まぁ、この理由は弱いですが、状況次第ではすごく重要ですよ。

さて、今日の講義はここまでですね。皆さん、なんだか煙に巻かれたような顔をしてますねぇ。

たぶん、ここでお話ししただけでは、すぐにはわからないと思います。ですからとりあえず、皆さん、走り込んでみて下さい。

まず、横Gを残したまま加速を始める練習ですね。どのくらいが限界かがわかってくれば、コーナーリング全体の姿勢も決まってくると思います。

そうそう、補足になりますけど。

ここまで来たんですから、皆さんに重要な一言をお伝えしましょう。

私は今、コーナーリングでの理想論についてお話ししました。しかし、なんだかこの理想通りにいかないケースもあると思います。

例えばニュートラル状態に入ってから舵角が足りなくて切り足したり、加速状態に入ろうとしてもなかなか加速できなかったり、時には一度加速を初めたあと、アクセルを緩めなくちゃいけなくなったり、ですね。

時々、どこを治せば××が改善しますか? という質問を受けるんですが、それに対する答えは一つしかないです。

アプローチのブレーキングから、すでに間違っている、ってことです。(^^;

この講義ではわかりやすいよう、コーナーリングをいくつかのフェーズに分けてみましたが、実際のコーナーリングというのは全体で一つの動作なんです。それぞれのフェーズを分けて考えることはできないんですよ。

ブレーキを踏み始める位置で、その後のラインはほぼ決まってしまうんです。

それでもやっぱり、特定の部分がうまくいかない、という人は、その部分の手前を修正するようにしてください。ニュートラル状態での姿勢がうまく作れないなら、コーナーインを見直して下さい。コーナーインがうまくいかなければ、アプローチを修正して下さい。

これも、コーナーは出口から攻めるということですね。

ここらは丹念に研究するしかないですから、みなさん頑張ってくださいね。

ではこれで、今日の講義を終わります。

特別講義: スピン対策

さて、今日はまたいろんな面々が集まりましたねぇ。

だいぶん前にお顔を拝見した方もいらっしゃるようですが、やっぱり講義名のせいですかね。

さて、雑談はこのくらいにして、講義のほう、始めましょう。

ここにおいでのみなさんは、スピンに悩まされてる方だと思います。

最初に申し上げておきますが、この講義では、ナーバスな車特有の、直線での急激なスピンは話題にしません。そういうのは、なんと言いますか、路面やタイヤ、その時の姿勢と相談しながら慎重に走って下さい、としか言いようがありません。理屈でどうこうなるものでも無いですから。

今回問題にするのは、コーナーリングの途中でのスピンです。これは、考え方さえしっかりしていればけっこう防げるものだからです。

では最初に、こういうスピンの原因について少し述べさせて頂きましょう。

スピンしやすい状況というのは、大きく分けて、車に原因がある場合と、運転のしかたに原因がある場合があります。

車のほうはわかりやすいですから、最初にこちらを説明しちゃいましょう。

いちばん簡単なのは、リアのグリップ力が不足している場合ですね。前後でタイヤのバランスがとれてないと簡単にスピンします。

特に多いのが、実はFF車の人です。というのも、FRの人はだいたい、リアにもけっこう、食いつくタイヤ入れるんですよ、違いますか? もちろん、アクセルオンでのスピンを防止するためですね。

でも、大変に失礼ですけど、FFの人でリアタイヤの重要性を理解していない人がけっこういらっしゃいます。それで、フロントに無闇に食いつくタイヤ、たとえばRE-01とかネオヴァとか入れといて、リアは普通のタイヤだったりして。

ご本人はアンダー対策だと言うんですが、実際にはスピンを誘発しているだけなんですよ。アンダー対策はもっと、足回りとか乗り方とかで解決したほうがいいですよ。

あと、リアの足回りが硬すぎると簡単にスピンモードに入りますよね。もちろん、前後バランスが悪いときがいちばんスピンしやすいですが、前後共に硬くても、やっぱりスピンするときはします。初心者のうちから硬~ぁい足回りにしてると、ドアンダーでまっすぐ突っ込んだり、スピンしてリアからヒットしたりすることが多いですよ。注意した方がいいかもしれませんね。

前後のグリップ力のバランスがすごく悪いときは、ブレーキングだけでスピンしてしまったりします。フルブレーキで理想的なのは、きっちり四輪のグリップ力を使い切れることですね。前後でブレーキの強さのバランスが崩れていても、フロントがロックしやすい状況、つまり、フロントのブレーキの力に対してタイヤのグリップ力が不足している状況であれば、まぁそれはそれで怖いですが、スピンしにくい分だけ扱いやすいと思います。

しかし、リアタイヤが非常に食いつきにくくて、ブレーキの力にタイヤが負けてしまうと、直線でのブレーキで簡単にスピンしてしまいます。上手な人、特にジムカーナなんかやってる人は、わざとリアのブレーキを強くして直線からリアを流して綺麗にターンしていくんですが、これはこれで一つの技術ですんで、きちんとワザを身につけないうちにこんなセッティングになってるとかなり怖いですよ。

車が原因のスピンはほかにもいくつかあります。

もともとスピンしやすい車、というのもあります。MR2なんかが有名ですね。ただ注意して欲しいんですが、MR2はスピンが特別速いわけじゃないんです。あの車がスピンしやすいのは、スピンモードに入ったのを感じ取ってから対応しても間に合わない、高度な先読み能力が要求されるからなんですよ。スピンの速さならむしろ、真性のMR車、たとえばエリーゼみたいなののほうが速いですよ。あとFCなんか、ジャジャ馬とか言われてますが、本当にスピンモードに入ると一瞬です。気がついたときにはもう後ろを向いてますから。

その意味では、エリーゼみたいなMR、あるいはRX-7みたいなフロントミッドシップの車もスピンしやすいと言えます。まぁ、MR2ほど高度な先読みは要求されないんで、まだ扱いやすいですけどね。

とにかく、全体の重量バランスによってはスピンしやすい条件というのは簡単に発生します。具体的には、重量がリアに近づくほど、スピンモードに入ったときの対処が難しいです。

逆にフロントヘビーな車のほうが、スピンモードに入ってからの対処が楽で、そのぶんだけスピンしにくいと言えます。スカイラインなんかフロントヘビーで有名ですよね。あとスープラとか。こういう車は、スピンしにくい分だけドリフトもしにくい、ってオマケがついてきますが。

いえ、知り合いにスープラでドリフトやってる人がいるんですが、ドリフト状態に入る前の「溜め」があって、けっこう扱いにくいとか……。

まぁ、それはそれとしましょう。

どっちにしても、そういう「スピンしやすい」車に乗ってる人はかなり覚悟する必要があると思います。もちろん、そういう車もいいところがあって、スピンしやすいってことは逆に、意図的に車の向きを変えようとしたときにはすごく反応がいいんですよ。これは大変な武器ですよ。短い距離でも低速でも、一瞬で車の向きを変えられるんです。重たくてフロントヘビーな車にはできない芸当ですよ。

要は、そういう利点を引き出せるだけの腕を身につけろ、ってことですね。私はまだまだダメですが。(^^;

まぁ、高性能なほどピーキーなのは車の世界の常でして、そこらをよく理解して欲しいと思います。

では、運転の仕方のほうに行きましょう。

まず思いつくのは、スピンモードに入った状態からどうやって対処するか、ってことですね。

これはもう、がんばって練習してください、としか言いようがありません、すみませんけど。

一番簡単なのはもちろん、ドリフトやることですね。リアが流れた状態をコントロールしてるわけですから、イザと言うときにも対処方法がわかりやすいというのは当然の話で。

ただ勘違いしないで欲しいんですが、意図しないときにリアが流れ出したら、半端にドリフトやっててもたぶん対処できないです。まぁ、流れ方が小さければ別ですが、一気に流れたらもうだめだと思いますよ。ドリフトはあくまで意図的にリアを流してるわけですから、予想外の状態でスピンに対処できるようになるためには、かなりドリフトやりこまないといけないですよ。

まぁ、軽いスピンモードに対処できるんなら、やっていて損はないでしょうけどね。

とにかく、どんな状態で、どんなふうにアクセルを操作して、どのくらいカウンターをあてて、とか、そういう話は一口に言えるものではないです。こればかりは身体で覚えてください。

でも、そんな悠長なことを言ってられないですよね、実際は。

軽いスピンへの対処ならむしろ、自分からスピン状態を作って、何度もタコ踊りして、どうにかリアの動きを止める方法を覚えていったほうが早道かもしれません。ドリフト状態を維持するんじゃなくて、とにかく止める練習ですね。

もちろん安全な場所でやってくださいよ!。クローズドで。公道でそんな練習したら、お金がいくらあっても、いえ、命がいくつあっても足りないですよ。

むしろ重要なのは、スピン状態にならない運転をすることだと思います。

では、スピンしやすい運転とは何か、ということです。

もちろん、操作が乱暴な人は問題外です。丁寧な操作をして行けるように、徹底的に練習しましょう。普段の街乗りも練習ですよ、忘れないでください。

しかし、丁寧に操作しているはずなのにスピンしてしまうこともあります。

誰もが思いつくのは、後輪駆動車でのパワーオーバーでしょう。コーナーの後半でアクセルを開けすぎて、リアが流れてしまうアレですね。

でも実は、パワーオーバーが原因のスピンというのはさほど怖くないんです。初心者のうちなら、そこからタコ踊りになってアウト側に鼻から突っ込むなんて事故を時々やるでしょう。

でも慣れてくれば、どれだけアクセルを踏むと危険なのかすぐに覚えます。この状態なら、リアが流れた瞬間にアクセルを緩めてやれば、オツリをもらいながらでも十分にコース内に収まっていることができると思います。

むしろ多いのは実は、駆動方式に関係のない話、コーナーインに原因がある場合なんですよ。

ちょっと意外ですか? でも実は、本当の意味でのスピンというのは、パワーオーバーでは起きにくいんですよ、そのことをお話しします。

まずコーナーインでは、当然ですが、車の向きが変わります。ヨーが発生するわけです。

ヨーは覚えていますよね? 車を真上から見たときに右回りあるいは左回りに車が回転する、その回転のことです。

ヨーが発生するということは、ヨーイングモーメントが発生するわけです。つまり、回転に勢いがついてしまうわけですね。

当然のことですよね、わかりますよね。

で、この勢いでそのまま回ってしまうのがスピンなわけです、これもわかりますね。

もちろん、ヨーが発生したからそのままスピンするわけではありません。前後輪が路面に食いついて、車体を制御して、車体の向きにあわせてコーナーリングしてゆくわけですよね。

では、ヨーが発生して、それがスピンになってしまう理由はわかりますか? どうですか?

答えは簡単です。ヨーが強すぎてリアタイヤが耐えられなくなった場合です。当然ですよね? わかりますよね?

さて、話はここからです。

まず一つのイメージを持ってください。

タイヤは常に、横方向への力に耐えようとしています。荷重の関係もありますが、この横方向への力が一定の限界を超えたらタイヤは滑り出します。従って、 コーナーリング中で横方向への力が限界までかかっていたら、ヨーに耐える力は下がってしまいます。これもイメージできますよね?

極端な例として、前も後ろも限界まで横の力がかかっていたとします。ここにさらにヨーが加われば、フロントタイヤへの負担は軽減して、リアタイヤへの負担は増加します。当然、リアが流れ出し、そのままスピンしてしまうわけです。

これは、単純な横方向への力だけではスピンが説明できないということを理解するためのイメージです。もちろん、スピンはこんなに簡単な話ではありませんが、ちょっと頭の中に置いといてください。

では、コーナーインで車がどんな状態にあるかを思い出してみましょう。

まず一般的に、コーナーの入り口では車はフロント荷重になっています。ブレーキングが終わった直後ですからね。つまり、リアタイヤのグリップ力は下がっています。逆に、フロントのグリップ力は上がっています。

この状態で急激に鼻の向きを変えようとします。フロントは荷重がかかっていますから、ステア操作に対して強く反応して、普通に曲がろうとするときより鋭く回ることができます。

しかしリアはグリップ力が下がっています。

コーナーの入り口で、十分にフロント荷重にして、限界までフロントを使って一気に向きを変えると、それだけで案外簡単に簡単にスピンモードに入っていきます。

もちろん、低速では大丈夫です。一定以上のスピードがないとスピンモードには入りません。ちなみに、これを応用したのがブレーキングドリですね。

どちらにしてもすぐわかると思いますが、ある程度練習し、フロント荷重を覚え、フロントの限界を理解し、コーナーインの速度が上がってくると、やがてこういうスピンに悩まされる人が出てきます。

以前、特別講義の「鼻の向きを変える」で説明しましたとおり、こうして「リアを振り出す」動作は、実は鋭いコーナーインでは必ず必要な操作になってきます。でもそれは狙ってやった場合の話で、それができない人が予想外の状態でリアを流してしまった場合、非常に危険な状態になるわけですよ。

それにですねぇ、不必要にリアを流すのは逆に、コーナーで遅くなってしまいます。リアを振り出すのはタイミングが重要で、このタイミングを外すとひたすら、車速を落とす原因になってしまいますよ。だから、リアが流れたからといってよろこんでいると、実は全然遅いなんてことになりかねませんから注意が必要ですね。

では、一番重要な話題に移りましょう。

こういうスピンをどうやって防ぐか、という話ですね。

コーナーインでのスピンの最大の原因は、単なる突っ込みすぎです。

ちょっとこの図を見て欲しいんですが、いま目の前にコーナーがあるとします。

普段のコーナーリングがAのほうだとしますね。ステア操作を開始する地点を普段より奥にしてみてください。Bみたいにですね。

その状態でクリッピングポイントにつくためには、普段よりたくさんステアを回す必要がありますよね? しかも急激に操作しないと間に合いません。

この状態、すごくスピンしやすいと思いませんか? いえ、実際にスピンしやすいんです。初心者に多いんですが、とにかくスピードを落としたくないとばかりに、ブレーキングを遅らせ、車速を高め、フロントを使い切ろうとする。でもそれって、単純にスピンを誘発しているだけなんです。

よく、舵角が少ないほうが速い、なんて言いますね。これにはいろんな意味があるんですが、スピンを防ぐという観点から見たときは、Bみたいな操作をしている人は、その状態よりもステア操作を早めに開始すれば舵角は減り、スピンしにくくなります。

これもわかりますよね? BよりもAのほうが、旋回が弱いですから、当然、舵角も少ないわけです。

舵角が少なければヨーは少ないわけですから、当然、スピンしにくいわけです。

このBの状態が、ようは「突っ込みすぎ」状態なわけですよ。

コーナーインでスピンしてしまう人、ちょっと普段の乗り方を見直してみてください。たぶん、Bに近い走り方をしてるんじゃないんですか?

いまの説明で、スピンしにくい運転とはどういうものか理解してもらえたと思います。

つまり、リアが必要以上に滑らない舵角で曲がっていけばスピンしないわけです。

では最後に、ちょっとした余談に入りましょう。

ちょっと考えればすぐにわかると思いますが、いくら手前からステア操作すると言っても、操作を始めるのが手前すぎると、今度はリアタイヤに力をかけることができず、フロントだけが限界に達してアンダー状態になってしまいます。

実は、このアンダー状態もスピンモードも、車速を落とす原因になるんですよ。逆に言うと、このアンダーとスピンの中間であれば、フロントもリアもどちらもが同時に限界に達しているわけです。

実はこれが、リアを使い切るということなんですよ。フロントとリア、両方で横方向への力に耐えているから、コーナーリングの限界をそれだけ引き上げることができるわけです。

その意味では、コーナーインでスピンしてしまう人は、実はある段階を既に超えているとも言えます。その段階とは、リアを意図的に振り出せる、つまりリアタイヤを限界以上まで使うことができる状態です。

これを応用すれば、リアを「ちょうど限界まで」使うことができるようになるはずなんです。

あとは、ステア操作を始めるタイミングを変えることでリアにかける負担をコントロールできることに気づけば、理想のコーナーインに一歩近づけるはずなんですよ。

その意味では、車のセッティングが悪いとか、あまりに操作が乱暴すぎる場合は全然別ですが、丁寧な操作でスピンしてしまう人は、次の段階に進むべき人、ということになりますね。

その視点で自分の運転をもう一度見直してみてください。もしかしたら新しい境地が開けるかもしれませんよ。

まぁ、とにかくスピンというのは怖いですし、事故を起こす原因にもなりますよね。

みなさんもスピンを防いで、できるだけ綺麗にコーナーリングできるようにがんばってください。

では。

特別講義: 車選び

え~、今回はまだ車を買ってない人とか、乗り換えたい人とかをお呼びしているはずですが、どうでしょうか、みなさま、間違いありませんね。

まぁ、買い換える予定が無い方でもかまいませんけれどね。

それでは始めます。

最初に、なぜこんな講義をするのか、ということをお話ししておきましょう。

それは、どんな車に乗るのか、特に初心者のうちの車選びというのは案外、その後の上達のスピードに影響するからなんですよ。

そのことをふまえて、これから車を買いたい人はよ~く考えてやってくださいね。

さて。

まず最初に、車選びの中でいちばん重要なことを言っておきましょう。

どんな車を買うにせよ、最終的には、あなた自身が愛せる車を買ってください。

買ったはいいけれど愛着が湧かない、なんて車選びをすると、メンテナンスもいい加減になるし、あまり乗りたくなくなるから練習にも身が入らないし、結局すぐに買い換えちゃうし、いいことは無いです。

欲しい車と練習に都合が良い車というのがなかなか一致してこない人もいるでしょうが、最終的には、その車を買って自分が愛してやれるか、というのを基準に考えた方が、あとあと良い結果になると思いますよ。

ま、もっともですね。

車なんて買ってしまえば、多かれ少なかれ愛着が湧くもんです。私の知り合いなんか、とりあえず繋ぎで買ったハチロクが手放せなくて、結局7年、直し直し乗っていた人がいましたからね。

そこらへんは柔軟に考えてもらってけっこうですよ。

それからもう一つ。

本当の意味での車選びの結論というのは、人によって違います。経済力、住居、住んでいる地域、車をどう使うかなどなど、車選びに大きく影響する要素はたくさんあって、それが人それぞれだからです。

特に、走り屋趣味以外でも車を使う人、まぁ、大半だと思いますが、そういう人は、思わぬ条件がからんでくることもあります。たとえば、スキー板が積める車が必要だとか。こうなると、車選びの結論は全然違ったものになります。

そのことを忘れないで、ここでお話しした条件に完全にあわなくてもそれはしかたがないと思って車を選んでください。

さて、車選びで前提となるいくつかの条件をご説明しましょう。

なにより重要なのは経済的条件です。

つまり、購入費と維持費にどのくらいお金が使えるか、ですね。

購入費はいいと思います。ローンを組む人もいるでしょうが、その人も、月にいくら払えるかはすぐに計算できますよね。

まぁ、個人的には、走り屋さんには一括で買える車がいちばんかと思いますが。(^^;

問題は維持費です。車を維持するのにどのくらいのお金がかかるか、考えたことがありますか?

ただ走らせるためのガソリン代やオイル代は後で計算しましょう。実はほかにもあるんです。

まず保険ですね。あ、みなさん、ちゃんと任意保険には入ってくださいね。走り屋とかいう以前に、車の所有者としての義務です。無保険だと事故ったときに自分じゃなくて相手が困りますからね。

この保険、ある程度高い車を買って車体も入れてやった場合、若い人だと年に15万とか20万とか、あるいはそれ以上取られることがあります。親の保険を使って等級を上げておく、なんてワザを使わなければもっと取られるかも。

あと駐車場代もですね。月5000円とかの駐車場だと年6万です。イナカで家の敷地に停められるなら別ですが、町に住んでる人はご注意ですね。

税金と車検も無視できませんよ。走り屋やりたい人の大半は1500~2000ccの車を選ぶでしょうが、この車の自動車税は年45000円です。2500ccまでの車、たとえばスカイラインGT-Rとかだと51000円、3000ccの車だと59000円です。案外、バカになりませんよ。

車検も忘れないでください。最低限の条件だけで車検を通しても、2年ごとに10万以上はとられます。整備もつけるともっとします。

これだけで、年間30万は行く計算になります。月割りで2万5千円くらいですかね。駐車場がなければ2万くらいですが。

さらにガソリン代とオイル代がかかります。

仮に年間2万キロ乗るとしましょう。燃費の悪い車でリッター10キロ、ハイオクでリッター110円とすると、年22万かかります。たぶんオイルは年4回交換で、少し贅沢して5000円のオイルいれると2万になります。

その他に、プラグやミッション(orデフ)オイルみたいな細々としたメンテナンスメニューもあります。年間4、5万は使う可能性が大です。

タイヤもありますよ。本気で走ってると、持ちのいいタイヤでグリップ走行やっててもたぶん、年に2、3セットは使うんじゃないですかね。

安いタイヤを選べば1本1万以内で取り付け工賃まで収まりますが、それでも2セット使って8万、3セットなら12万です。高いハイグリップタイヤはこの5割増しと言ったところでしょう。

ドリフトやるならタイヤはものすごい勢いで消耗していきます。まぁ、そう言う人は素直に中古タイヤを使うことが多いですけどね。

こうした「維持費」を足すと、お金のかかる車なら年間40万は最低、使わなければなりません。

もちろん、維持費は燃費の良い車に乗ってやれば6~7割くらいまでは落ちますけどね。それでも25~30万です。

先ほどの税金や保険とあわせて、年55~70万は取られる計算になります。月割りすると4万5千~6万円弱でしょうか。

もちろん、維持費はもっと安い場合もありますよ。1.3リッタークラスの燃費の良い車に乗って、油脂類も安いものにして、自分でメンテナンスして、そう やっていけば、年間40万以下まで引き落とすこともできるでしょう。逆に高い車もあって、たとえばFDなんか、燃費が悪い、オイルが高い、プラグ代がかか る、税金が高い、保険が高い、そのうえタイヤ代が高い、そこにオーバーホール代が入ってきて、年間80万をこえることもあります。スカイラインGT-Rみ たいな高性能車でも事情は似たり寄ったりですね。

そして、忘れないでください。

買った車は故障するかもしれません。古い車ほど修理代がかかります。あまりに状況の悪い車だと月に数万も修理代にかかってしまうことすらあります。トラブルが多すぎてイヤになってしまうこともありますよね。

10年以上経った車はどんどん故障が増えてきます。それがイヤなら数年以内の車を選ぶしかないですね。車の知識が豊富で自分で修理できる人や、小さな故障は全然気にしない人なら別ですが、いろんな要素を考えると、多少高くても最近の車にしておいたほうが、結果としてよいことが多いようです。

それだけじゃないですよね。

サーキットは行きますよね。初心者でも1回あたり2万近くかかることがあります。年に1、2回ならたいしたことはないでしょうが、月1とかで行ってる人だと、その負担は少なくないと思います。

そして……チューンもするかもしれません。 と言うか、だいたいの人はチューンしたいでしょうね。チューン代はバカになりませんよ。ネットオークションだとかで部品を安く手に入れてくればいいでしょ うが、それでも、それなりの額は必要ですし、パーツの中には消耗品と言えるものもあります。ショックなんかそうですね。そうなると中古品ばかりと言うわけ にも行きません。

こうして、維持費だけで年に百数十万も使ってしまう人はけして珍しくありません。

憂鬱になって来ました?

でも、車趣味はお金がかかります。その現実をしっかり見据えて、自分で維持できる車を買う、ってことを最優先に考えてから、次に移ってください。ここは、各個人の経済力に関係してきますから、じっくりと考えてやってください。

では、どんな車を選ぶか、という話ですね。

まぁ、私としてはどんな車に乗ってもいいと思うんですけどね。難しい車に乗れば最初から厳しい条件で走ってるわけだから、いろいろ鍛えてもらえると思いますし。

ただ、一つ忘れて欲しくないのは、最初からいきなり高い車買っても、数年後にそれに乗ってる保証はほとんどない、ってことです。峠走ってての事故なんて話はよく聞きますし、サーキットだって事故を起こします。乗り方が悪かったりメンテナンス不良で車をダメにしてしまうことだって、慣れないうちはあります。と言うか、普通の街乗りで事故を起こしてしまうことだって、慣れないうちは十分考えられます。

よく、「どうせぶつけるのだから」と言っている人がいますが、私もこの意見には反対はしないですね。

まぁ、そうは言っても、最初の車にちゃんとずっと乗り続けている人もいます。私の身の回りにもけっこういます。だから、いきなり高い車を買っちゃいけない、とは言いません。ただ、走り始めて1年以内の人の事故率の高さを考えれば、そして、いきなりいい車を買って壊してしまった時の精神的ショックや経済的負担を考えれば、最初は練習用の安い車を、と言う意見には一理あります。

あと、性能の良い車の話ですね。

こちらもよく、初心者に高性能車は危ない、などと言います。

慣れないうちはみんな、車の性能の限界とか、限界をこえたときの挙動とそれに対する対処とか、そもそも限界をこえないようにするための技術とか、そういったものは身についていません。これは当たり前のことです。

最初からそういう技術を持っていたら、誰も苦労していません。

問題は、走り始めてしばらくして、スピードや横Gに目や身体が慣れてきた頃のことなんです。

だんだんとスピードを上げていくと、当然ですが、車はいずれ限界に達します。そのとき高性能車だと、かなりのスピードになっています。

高いスピード領域での限界挙動のコントロールというのは、慣れた人にも難しい話です。ましてや、そういうことに慣れていない初心者にできるはずがありません。

ならば、限界の低い車で限界挙動を覚えたほうがいいのは間違いありません。

この話は、足回りで特に重要になります。

硬い足回りで限界を高めるとやはり、今お話ししたような問題が起きるだけではなくて、荷重移動がすごく難しくなります。この話は一度、「荷重移動」の回でお話ししましたね。荷重移動について勉強するには、実際にそれをちゃんと経験してやる必要があるんですが、柔らかい足回りで車の動きを覚えれば、その感覚は将来、必ず役に立ちます。

もちろん、硬い足でも荷重移動を覚えることはできますけどね。ただ、それには少々、余分な時間と練習が必要になります。それでも覚えられないことはないですが、できれば最初は柔らかい足回りで色々覚えたほうが都合が良いと思いますよ。

それから、車の種類ですね。

時々、普通はサーキット走るような車じゃない車で走ってる人がいます。

私としては、初心者にこそ、バランスの取れたスポーツカーに乗って欲しいです。そのほうが車の挙動が素直で、何をしたら何が起きるのか、すぐに覚えられるからです。

たとえば、極端にアンダーの強い、普通の乗用車をノーマルのままで乗ってるとします。ずっと練習すれば、アンダーを押さえ込む技術は高くなるでしょう し、同じような車を乗りこなすことができるようになるでしょう。しかし、一般的なスポーツカーの弱アンダー設定の車に乗った場合、そこで顔を出すオーバー ステアを上手にコントロールできるかと言うと、私は正直、怪しいと思います。

この先ずっと同じような傾向の車に乗り続けたいんだ、というならかまいません。それは走り屋としての一つの形です。絶対的なスピードやタイムだけが走り 屋の目標ではなく、車を楽しむということを幅広く捕らえるなら、普通はまともにタイムのでない車を操る技術を突き詰めていくのも一つの楽しみでしょう。

でも、将来レースに出たいとか、どこかのサーキットのレコードタイムに挑戦したいとか、そういう絶対的な結果を追い求めたい人は、無駄な癖をつけないためにも、最初から調整された、走りやすい車に乗ってください。良い練習にはよい道具を、というのが私の考えです。

よく、車輪が四つついていれば何でもい、と言いますが、それは熟練者の話で、初心者はやっぱり、走りやすい車で走ったほうがいいと、私は思っています。

あとは駆動方式ですね。

このお話をする前に、それぞれの駆動方式に必要とされる技術を軽く説明しましょう。

FFは、漫然と走るだけの人にはいちばん扱いやすい駆動方式だと思います。一定ライン以下では挙動は単純だし、ステアを切ってアクセルを踏めばそっちのほうに進んでいきますから。ただ、FFを本当に速く走らせたかったら、鋭い突っ込みとか、荷重移動によるリアのコントロールとか、オーバーステアの扱い方とか、色々難しい問題があります。そして、本当に速い人は、FFや四駆では、なかなかアクセルを離さないと言います。とにかく踏み込んでいく。

そうした技術は、車速に依存しているところがあって、高い車速を保てないと本当の意味でFFを扱ったことになりません。難しいのは、その車速をコントロールすることで、そこまで達するには高い壁を一つ越える必要があります。

また、オーバーステアになった状態で、体勢を立て直すのがいちばん難しいのが、実はFFだったりします。FRみたいに感覚的にカウンターをあてることができませんし、スピンモードに入ったら、逆にアクセルを踏み込んで行く感覚は、初心者にはとても難しいです。

FFは、あるところまでは簡単で安定しており、あるラインを越えると途端にシビアになる駆動方式です。FFには、挙動を作るための選択肢が少ないので、覚えることが少ない反面、イザという時に、少ない選択肢の中から最善のものを選んで行かないと行けないわけです。本当のFF乗りになるには、実は高い高い壁が待っています。

その点FRは逆です。FRは慣れないうちは扱いにくい駆動方式です。アクセルオンでリアが流れ出したときの対処は簡単ではなくて、それを身につけるだけでも走り始めてからかなりの時間を必要とされることがありますし、事故って車を壊してしまうことも多々あります。アクセルの調整が難しく、車の挙動にあわせて適切にステア操作やアクセルの踏み方を変えていく技術が要求されます。

しかし、慣れてくるとFRはかなり扱いやすい駆動方式です。FFや四駆では、リアの挙動を変化させることがかなり難しく、コーナーの形状を予測して走る必要があります。言い方を変えると、コーナーインで運命の大半が決まってしまうわけです。しかしFRは、自由にリアの挙動を変えられるので、ミスやトラブルからのリカバリーが他の駆動方式より楽です。

どんな状況でもダイナミックな挙動変化が可能で、選択肢も広いのですが、そのために初心者のうちからの丹念な練習が必要になります。

MRはFRと似ていますが、多くの場合、操作を先回りしてやらないと間に合わないという特徴があります。よく、リアが流れ始めてからカウンターをあてても遅いと言います。また、操作がシビアで、ちょっとしたことでアンダーやオーバーが顔を出し、収拾がつかなくなります。こうした点は初心者には厳しい駆動方式と言えるでしょうか。

先読みをするためには、色々な挙動を経験していなければなりません。でも初心者には、当然、そういった経験が不足していますから、先読みもできるわけがありません。そういう意味で、初心者にはMRは不向きだと思います。

そのかわりMRは、入力に対する反応が鋭く、慣れると他の駆動方式にはできない動きが可能になります。選択肢が広がる分、扱いも楽になります。もちろん、そのためには高度な技術が必要になることは言うまでもありません。

四駆は、一番扱いにくい駆動方式と言われます。最近の車は別としても、全体的にアンダー傾向が強く、意図的にオーバーステアに持っていく必要があり、そのための様々な技術を要求されます。初心者のうちからすでにアンダーに悩まされることになり、その厳しさはすぐに身にしみることになると思います。

それだけじゃありません。四駆というのはですねぇ、車速だとかが限界からずっと下の状態だとアンダーが強すぎて言うことを聞かないのと同時に、限界をこえると突然、全くコントロール不能になるんです。四輪とも動いてしまうから、アクセルワークでは車の姿勢を立て直せないんですね。

この間にある一番美味しい領域を探す必要があるんですが、なにしろ扱いにくい駆動方式だけに、どこが美味しいところなのか、初心者にはなかなか見えてこなかったりするんです。

立ち上がりの強力なトラクションを考えたら、四駆は総合点ではトップに位置する駆動方式です。グリップではターボつき四駆は本当に速いです。と言うか、四駆の利点を生かすためにはパワーがたくさん必要なんですよね。その代わりに、かなり高度な技術を要求されるだけでなくて、そこに達するにも厳しい練習が必要になると思います。

私としては、初心者がいきなりハイパワー、高性能の四駆に乗るのはあまりお勧めしたくありません。特にランエボのAYC、アクティブ・ヨー・コントローラーは、本来は曲がらない状況で曲がっていってしまうだけに、練習の邪魔になるとすら言われています。

まぁ、一生AYCつきの車で走るんだ、っていうなら別ですけどね。

ちなみに余談ですが、熟練者でも、このAYCというのは色々な意見があります。確かにAYCを使うと速いんですが、AYCを生かした曲がり方っていうのは独特の技術があって、この技術は普通の車には通用しないらしいんですよね。AYCの使い方とは、機械任せにしていい部分を機械に任せて、機械が持っている性能を引き出してやることでもあります。裏を返せば、人間がやるべきことを機械にやらせていると言えますが。

どっちにしても、四駆の車はだいたい、本当に速いです。速すぎて危ないくらい速いです。あまり速くない四駆でスポーツ系と言うのをほんと思いつかないくらいです。

じゃぁ、どの駆動方式がいいのか、ということですが。

やはり、FFかFRでしょう。どちらがいいとは単純に言えないですが。MRは初心者のうちに練習に使うには反応がシビアすぎるし、初心者が漫然と走っても何の練習にもならなかったります。

あとは、好みの問題かと思います。

あとは中古車か新車かという話です。

経済的条件が許すなら、新車がいいと思います。もちろん、壊してしまったときの精神的ショックは大きいでしょうが、大きな利点があります。

なにしろ、中古車は少なからずトラブルをかかえているんですよ。まぁ、中には状態のいい中古車もありますけど、スポーツ系の中古車はだいたい、無茶な扱いをされてて痛んでいたり事故車だったりします。

その点新車は、状態に関しては文句なしです。

このことは、車に関して、何が正常であるかを身体に覚えさせる役に立ちます。車に異常があるのに、それに気づかずに乗り続けているというのは、正直、あまりいいことではないと思います。

特に足回りの異常ですね。歪んだ車に乗っていると変な癖がつく可能性があります。

お金が無くて中古車を選ぶ場合も、できるだけ新しい車にしてください。もちろん、高くとも状態のいい車を。すぐに壊れてしまう、痛んだ古い中古車は、修理やメンテにばかり手間とお金をとられてしまい、結局、ぜんぜん走れない、なんてことにもなりかねません。

同じ車種なら、生産終了年にできるだけ近い年のものを選ぶのが無難です。と言うか、セオリーです。マイナーチェンジごとに、その車で「よくあるトラブル」が解決されているからですね。まぁ、中にはそうでない車もありますが……。

そのためには、とにかくお金を貯めてやる必要があります。そのことはしっかりと覚悟しておいてくださいね。

そうそう、もう一つありましたね。

私は、最初のうちは、チューンドカーには手を出さない方がいいよ、と言っておきます。あと、買い換え時にも、できればノーマルのものを選んだほうが無難だと思います。

よく、ノーマルの挙動を覚えるのがいい、と言います。私はこのことに、一部賛成します。確かに、限界の低い状態で走り込むことには一定の意味があります。

しかし最大の理由は、中古のチューンドカーの大半は、きちんとしたセッティングが出ていない、「いい加減なセッティング」の車だからです。

こういう車に乗ってしまうと、ロクなことになりませんし、何が正常であるかを知る機会も減ってしまいます。

ライトチューンで、信頼できるショップの人が丹念にセッティングを出した車くらいなら、もしかして「買い」かもしれません。でも、最初から信頼できるショップを探すのって難しいですよね? 口コミでも案外、当てにならないことがあります。

そういう、いろいろな意味で、初めての車はノーマルカーをお勧めします。

さてまぁ、一通りご説明してきましたが。

最後に一言、これから車を決める人に。

時間をかけて決めてください。焦らず。色々情報収集をして、自分に一番適してる車を選んでください。

それから、中古車を探している人。もう、丹念に丹念に、時間をかけて、足を使って探してください。ほんとうにいいタマを見つけるにはものすごい手間がかかります。少なくとも何年かは、もしかしてずっとこの先も、自分の相棒として一緒に走る仲間ですから、信頼できる相手を捜しましょう。

このくらいですかね。

じゃぁ、皆様の走り屋ライフがよりよいものになりますように。

では。

特別講義: タイムを切りつめる

みなさま……そろそろお集まりですかね。

最初に確認しておきますが、この講義は本講義を全部終わってて、基礎的なところがわかってる人向けです。

それと、サーキットでタイムを出したい、って人が対象です。そこまでシビアなことを言いたくないとか、そういう人にはあまり面白くないと思います。みなさま、よろしいですね?

……では、始めましょう。

最初に前置きから行きましょうか。

本講義でももうお話ししましたが、車を狙ったラインに乗せて、きちんとコントロールするというのは、実はそれほど難しい話ではないんです。もちろん、技術レベルにあわせて、どのくらいの精度でコントロールできるか、という話は変わってきますけれどね。

しかし、その技術レベルが同じでも、タイムが出る人と出ない人がいます。

この講義は、その差がどこからくるのか、というお話です。

ではよろしいですか?

それでは。

本講義でも最後にお話しした、ラインの組み立て方について、ここでおさらいしておきましょう。

確実にコーナーを抜けるため、という話だけなら、単一の一つのコーナーであっても、実はラインというのは複数存在します。簡単に言うと、ブレーキングをどこから初めて、どこで旋回を開始して、どこにクリッピングポイントを置くか、ということですね。

車速を高めてクリッピングポイントをコーナーの頂点付近におくことで、コーナー自体を抜けるタイムは縮められます。その反対に、車速をやや押さえてクリッピングポイントを奥に置くことで、脱出速度を高くすることが出来ます。このことは覚えていますね?

ラインを選択するときは、この二つの選択肢をもとにしていろいろ考えていく必要があるわけです。

その時のポイントは、そこから続くストレートの長さとか、次のコーナーまでのつなぎとか、そういう点だ、という話をしました。

でもみなさま、この話だけでは少々、漠然としていると思います。

そこでみなさまには、もう少し具体的なコツをお教えします。

まず頭に置いてほしいのは、タイムを縮めるための一つの思想です。

これは筑波サーキットの支配人の方の言葉なんですが、そのまま引用させてもらいますね。

タイムを出したい方。直線でスピードを上げてください。

みなさま、笑ってらっしゃいますね。バカらしく聞こえます? でも実はこの言葉、すごく深い意味を持ってるんです。さすが車のことをよく知っている人です、いちばん大切なことを、こんな短い言葉で表現してます。

とにかくみなさま。同じようにタイムを詰めるための努力をするなら、コーナーで頑張るより、直線でいかにスピードを出すかを考えたほうが効率がいいんです。ちょっと考えればわかりますよね。

というのも、実は、少し走り込んだシロウトなら、コーナーを抜ける時間自体はプロと極端には違わないんです。

ではプロとシロウトでどこが違うか。それは、直線でのスピードなんです。

もちろんそこには、コーナーリング時の操作の精度もかかわってきます。やはりプロの運転は精度が高い。でも、それだけで説明できる話じゃないんですよ。

それは、一つにはプロの人は、ちゃんとアクセルを踏んでいること、もう一つは、どこでスピードを出せばいいかをわかっていることなんです。それがタイムに大きく影響するんですよ。

ここでみなさま、疑問を感じるかもしれません。スピードと言うけど、アクセルはちゃんと踏んでるよ、と。底まで踏んで加速してるはずだ、って。

これをどう改善すればいいんだ、って。

確かにアクセルは大切です。私の身近にすごく速い人がいるんですが、その人に走り方を教わろうとすると、判で押したように同じことをいいます。

アクセルを踏め、って。

そのくらい、アクセルを踏むことは大切なんですが、スピードを出すというのはもうちょっと違う次元にあるんです。

それではここで、話を少し横道にそらせます。

本講義では私は、こんなお話もしました。それは、コーナー通過速度と脱出速度、それぞれにどのくらいの比重を置くかは、続くコースの形状によって決まる、と。

たとえばこれは、私がよく行くエビス西サーキットの2コーナーから3コーナーの形状なんですが、この二つは、複合コーナーと言うギリギリの範囲なんです。つながった複合コーナーとまでは言えないけれど、直線部分はけっこう短い。

この2コーナーのラインはほんとに人それぞれです。脱出でアウト一杯までふくらむ人もいれば、ミドルで押さえて3コーナーに備える人もいます。プロなんかは完全にアウトまで使わないようですけどね。

これもあるプロドライバーの言葉なんですが、実はここでどんなラインをとるかというのは、ライムを縮めるときにはあまり関係ないんです。

その人の言葉をそのまま言えば、「こんな短い区間で頑張ったって、タイムなんか変わらないよ」ってことです。

これは裏を返せば、短い区間じゃない場所、あとに長いストレートが続いていれば、タイムには大きな影響がある、ということです。むしろ、そう言う場所に重点を置いて走ることが重要なんですね。

というわけでみなさま、まず一つのことを頭に入れていただきます。

直線を重視してください。特に、長い直線を重視してください。

なによりもまず、直線でスピードを出すことを最優先に考えてください。

全てはそこから始まります。

では話を戻しましょう。

ではどうやって、スピードを出すか、ということです。

ここでみなさま、車自体の加速力の差については横に置いておきます。これを言い出すと、チューンしたもの勝ちになってしまいますからね。

そうではなく、同じ車でスピードを出す、という話です。

ここで先程の話を思い出してください。それが脱出速度の話です。

というより、脱出速度を上げる以外、直線でスピードを出す方法はありませんよね。

そして、脱出速度を上げるためには適切なコーナーインをする必要があります。

ということは、直線でのスピードには適切なコーナーリングが不可欠なわけですから、結局のところなんのことはない、筑波サーキットの人の言葉はちゃんとコーナーリングしろよ、という意味にすぎないわけです。

ただ重要なのは、どこに重点を置いてコーナーリングするか、ということです。それを、直線に置け、というのが、彼の言葉なわけです。

って、これでもまだ漠然としていますよね。(^^; そんなこと、言われなくてもわかってるよ、って人もいるかもしれません。

もう少し具体的な話に移りましょう。

もちろん、一度説明しましたとおり、コーナーの通過時間と脱出速度には、一定の範囲でトレードオフの関係が働きます。さきほどのエビス西の2コーナーでは、いくら脱出速度を稼いでもあまり意味はなくて、むしろ通過時間を切りつめたほうがいいこともあります。

では、どうしたらいいか。

それはですねぇ、こんなとこで言うのもバカらしいんですが、実際に走って研究してみるしかないんですよ。

無責任な言い方かもしれませんが、机の上でいくら理屈をこねたところで、全然意味がありません。どうやっていちばんいいところを探すかは、ほんとうにいろいろと走り方を変えて、どんなふうにすればいちばん効率がいいか、試して研究してみるしかありません。

そうすると、次に問題になるのは、そうした研究をどうやってやるか、ですね。

ただ脱出速度を上げる、というテーマだけでも、人によっては漠然としていてなかなか実行できないかもしれません。

と言うか、むしろそこが知りたいというのが本音じゃないですかね。実際、コーナーで無意味にスピードを落としてしまって、タイムを損してるだけの人もいるのも事実です。

そこで、ちょっとした目安をお教えしましょう。今回の講義の本題ですね。

え~。

タイムを切りつめるという作業の中で、まずいちばん楽なのは、ブレーキを踏まないで走れる高速コーナーを探すことです。

実は、これがいちばん効きます。無駄に速度を落とさないから、あらゆる意味でタイムを縮める効果を発揮します。

特に緩いコーナーですね。これまでブレーキングして入っていた場所を、敢えてブレーキなしで入れるかどうかを試してみるわけです。

もちろん、単にハイスピードのままで入っているだけでは芸がありません。と言うか、ラインが大きくふくらんでアクセルが踏めない、なんて結果にもなりかねません。

うまく車速の乗るコーナーリングできたかどうかの目安は、クリッピングポイントすぎてからちゃんとアクセルを踏めるかどうか、ですね。

繰り返しになりますが、いくら進入が速くても、いつまでもアクセルを踏めなければ意味がありません。

このときやって欲しいのはやっぱり、ステア操作を始める地点をいろいろ変えてみることですね。緩い高速コーナーなんかにありがちなんですが、それまでブレーキ踏んでなんとか曲がっていたコーナーが実は、少し手前からステア操作を始めてやれば、アクセルオフだけで曲がれたり、時にはアクセル踏みっぱなしで曲がれたりすることがあるんです。

実はこれ、私がエビス西で教えてもらった話なんです。あそこのバックストレートに入る緩い左コーナーなんですが、手前のほうからステア操作を始め、舵角を極限まで減らしてやると、車にも寄りますが、ちょっとアクセルをゆるめるだけで抜けられたりするんですよね。

アンダーが出る人は、さらに手前から進入してみてください。まぁ、素直にブレーキ踏んだ方が実は速いこともありますが。慣性でオーバーが出る人は、カウンターを当てられる余裕を見越して操作を始めて下さい。

やってみるとわかるんですが、この、通称「への字コーナー」というところは、びっくりするほど手前、こんなに手前から? と思うくらい手前から、じわっ、とステア操作を始めてやると、けっこう楽に曲がれたりするんです。

もっと上手い人だと、ステアをスパッと切ってリアを慣性で流し、カウンターあてて四輪飛ばしで入ってきたりします。車速が高くて慣性ドリフトに入りやすい高速コーナーだからこそできるワザです。

まぁ、それはそうとして、こういう研究を丹念にやってゆくと、高速コーナーが格段に速くなります。そして、高速コーナーでの速さは、タイムの短縮にものすごい貢献します。

もう一つがもちろん、タイトコーナーの場合ですね。

ここの曲がり方はみなさま、バリエーションを増やすのは簡単でしょう。やっぱり車速が低いと落ち着いて走れますね。

それで、高速コーナーと同様、ブレーキ開始地点や進入速度、ステア操作を開始する地点なんかを、それこそ色々試してやってください。毎回同じように、漫然と走るのではなく、とにかく色々、走り方を変えて行くことが重要です。

それでラインを探していくんですが、その目安ですね。

ここでもやはり、クリッピングポイントすぎてすぐに、アクセルを踏み込んで行けるラインを探してみて下さい。そのためには車速を落としたりテールスライドを活用したりする必要があるかも知れません。

とにかく、アクセルを踏めるかが一つの目安になります。あとは、続くコースの形状によって調整してゆけばいいです。

さて。

この説明で一つ、気づいたことがあると思います。それは、どの場合でも、アクセルを踏めるかどうかが目安になる、ということです。

もちろん、アクセルを踏めさえすればいいわけではありません。あとに続くコースの条件次第ですから。

ただ、基準点としては重要です。ここから、進入速度やクリッピングポイントを少しずつ変えていくわけです。

そうです、アクセルをちゃんと踏めれば、車はちゃんと加速していきます。そしてもちろん、脱出速度も上がります。

このことは、簡単なようでなかなか理解されないことなんですよね、実は。よくいらっしゃるんですが、コーナー前半で頑張ることに夢中になってしまって、肝心の直線がぜんぜんダメって人がいるんですが、それじゃタイムは出ないんですよ。

それより、後半でアクセルを踏む。踏めないなら踏めるように曲がる。このことが重要です。

ですが、実はちょうど、この逆の話もあるんですよ。これだけ言っていてなんだ、って言われるかもしれませんが。

ただ、ちょっと注意しておいて欲しいので、説明しておきます。

それは、アクセルを踏むことに夢中になっている人がいることです。

アクセルを踏めてるんだからいいだろう、と考えて、妙に奥の方でブレーキを踏んで、とにかく車速を落として、クリッピングポイントを異様に奥に持って来てる人が。

これは実際に私が見た走り方なんですが、ご説明しておきますね。これを見てください。こんな走り方してる人、いませんか?

この人は、とにかくブレーキが遅い。ものすごい奥で踏んでます。

そしてそのまま、コーナーの奥のほうまで行って、車速をめいっぱい落としてしまう。車速が落ちきった状態で旋回し、そこから加速して行くんですが、アクセルを踏みっぱなしにして、アウト側からイン側に切り込んでくるわけです。

クリッピングポイントは出口のそば。そして、インよりのまま、コースをアウトまで使い切れずに加速して行っています。

この走り方は実は、すごく遅いです。と言うのも、旋回時に速度が落ちすぎていて、そこから十分に再加速できないんです。

突っ込めばよい、というのと、アクセルを踏めばいい、という、二つの思いこみのせいじゃないですかね、たぶん、

重要なのは、アクセルを踏むことではありません、脱出速度を上げることです。アクセルを踏むのはその手段にすぎないのです。

この人がすべきなのは、まずブレーキングを手前に持ってくることですね。それによって、ニュートラル時の旋回をもっとゆるやかにすることができます。

そうすれば、旋回時の最低速度を上げることができます。

その状態から加速して行く。そのとき、コースをアウトまで使い切れるアクセルワークを探す。

クリッピングポイントだって奥すぎます。もっと手前でいいんです。

こうすることで、大幅に脱出速度を上げることが出来ます。

さて。

こうして、タイムを叩き出すための理論面を少しご説明しました。

あとはこれを実行することですが、なんだか難しくて時間がかかるように感じます?

もちろん、実際の速度メーターの読みは一つの参考になります。コーナー脱出後、ある程度進んだ場所を決めて、そこでの速度を見て、そのコーナーリングがどのくらいうまく言ったかを確かめるわけです。こういうとき、デジタルメーターは便利です。

でも、実はもっと簡単な方法があるんですよ。それをお教えします。

それは、他の人の真後ろを走ることです。

あ、あんまり近づくと走りにくいですよ。どちらかというと、コーナー全体の中での自分の位置がわかって、かつ、前の車の操作が見えてくるような位置がいいですね。

こうやってまずは、前の車をよく観察してください。

どの場所で自分より速いか、よ~く見てやります。

まぁ、これであっという間に置いて行かれたらダメでしょうが、タイムが近いとけっこう、ついていけますよね。

それで、相手が自分よりも速いコーナーを見つけたら、相手の動きを真似してみてください。

もちろん、車の条件が違えば全く同じ操作はできませんよ。でも変な話、同じように車輪が四つついてるわけですから、だいたい似たような動きになるはずです。

ほかのコーナーではついていけるのに、特定のコーナーではあっという間に離される、そんな時はチャンスですね。相手とあなたとは腕前が近い可能性がありますから、相手の動きを真似できる可能性もとても大きいです。

それと、自分がブレーキを踏んでいるのに前の車が踏んでない、なんて時もチャンスです。そのコーナーは実は、ブレーキ無しで曲がれるコーナーかもしれないわけですから。

いえ、自分一人だとこういうのって、なかなか見つけられないんですよね。特に高速コーナーでは、新しいこと試すのって怖くありません? でも、曲がれるとわかればけっこう、大胆なことが出来ると思うんです。

それに、自分だけだと考えが一定の範囲から出られないことがあるんですよ。別の人の走り方がアイデアを与えてくれることがあります。

その過程で一つ、注意して欲しいことがあります。

さっきの、ブレーキが奥過ぎる人の絵、見てください。

もしかして、さっきの段階で気づいた人がいるかもしれません。それは、加速力の話です。

もしこの人が、もっと加速力があって、アクセルを踏むと車体がアウトにふくらんで行ってしまう車に乗ったら、もしかしてコースをアウトめいっぱいまで使い切れるのではないか? と見ることもできるかもしれません。

しかし答えはノーです。なぜだかわかりますか?

この人は、加速開始ポイントがあまりに手前すぎるんです。そして、もしパワーが大きくて、アクセルを踏むとアンダー気味になる車、特に四駆に乗っていた ら、インにつくことができないか、無理矢理インにつけようとしてクリッピングポイントがさらに奥になってしまうか、どちらかだと思います。

ハイパワー車だからと言って、最速ラインは大きく変わるわけではありません。もちろん少しは違うでしょうが、その違いはけっこう微妙なものです。

ここで結論です。

ラインを研究するとき、自分の車のパワーや駆動方式にこだわらないでください。まずは普通に走って、そして、他の人の走り方をそっくり真似してみるのが大切です。

微妙な違いを出すのはそこからで遅くないと思います。

では、そろそろいいですかね。

この講義でみなさまは、タイムを出すというのは車を振り回す技術の問題だけではなく、走りに対する考え方も深く関わっていることを理解していただいたと思います。

みなさまも一度は経験があるんじゃないですかね。ラップタイムは近い人と一緒に走ってるとき、なぜか特定のコーナーだけ引き離されてしまう、なんてこと。必死で頑張ってコーナーリングしてて、車の限界をめいっぱいまで使ってるつもりなのに、やっぱり勝てない。

もちろん性能やセッティングのこともあるでしょうが、やはり、相手が選んだラインが、より効率よく車の性能を使えるラインだったから、と考えるのがいちばんでしょう。

そうです、最適のラインとは、その車の性能を効率よく使えるラインのことです。

そういう視点でグリップ走行を見て、熱心に研究していけば、みなさんもどんどんタイムを縮めて行けると思います。

あとはみなさまのがんばり次第です。

それでは……今日はここまでですね。

ではみなさま、またいずれ。

特別講義: 同乗者を酔わせない運転

え~。

さすがに今回は少々、人数が少ないみたいですね。

それでも聴講して下さるみなさん、講義の題名に興味を引かれてということだと思いますが、とりあえず今回の講義は題名の通りです。

そちらの方、変な顔をしないで下さいね。まったくその通りですから。速く走るための技術と関係した話ですけれど、今日は少し基本に立ち返ると言うか、車を上手に運転する、という話を少し考えてみたいと思います。

では始めましょうか。

まず車酔いというのがどういうメカニズムで起きるか、という話からしてみましょう。

人間と言うのは自分の姿勢を制御するとき、三半管器官というところで、格好良く言うと慣性航法みたいなことをしています。頭が動くとその動きを感知しているわけですね。

しかしそれだけではダメなんで、視覚情報も一緒に使います。頭が動けば視界も動くわけですから、これは理にかなっていますね。この二つの情報を統合して自分がどんな姿勢になっているかを知り、それに対処するわけです。だから目をつぶるとまっすぐ歩けなかったり片足で立ち続けたりするのが難しいわけです。

ところが車や船の場合、壁を見つめていると、三半管器官の情報と視覚情報が一致しません。車内で本を読むと酔いやすいとか、船酔いしたら海を見ろとか言うのはここらへんに関係しているわけですね。また、自分が姿勢を変えていないのに、車や船が揺れると勝手に体が揺れるわけで、ここらも酔いの原因になります。

まぁ、難しい話は横に置いておきましょう。どうやって同乗者を酔わせないか、ですね。

まず最初に。

よく運転手は酔わないと言いますが、これには理由があって、運転手は自分の意志で車を動かすわけで、車の次の挙動を予測できるわけです。

だから、同乗者を酔わせない一つの方法は、同乗者が次の挙動を予測できる運転をする、ということになります。

一般的に、左右の揺れについては、カーブの形を見ればどちらに揺れるかわかるのであまり酔わないけれど、ブレーキや加速はほぼ運転手の意志に任されているので予測しにくく、酔いの原因になりやすいと言います。

というわけで、このあたりを頭に入れて、本題に入ります。

酔いの原因はとにかく、体を強く揺らされることです。逆に言えば、できるかぎり体を揺らさなければ酔いにくくなる、というわけです。

ここで、車は走っているのだから、体が揺れるのは当然だ、と言う人がいるかもしれません。でも実際にはそうではありません。運転のしかたによって揺れ具合は大きく変わります。

体が揺れる、ということは、どいういうことだかわかりますか?

つまり車が揺れるということです。言い換えれば、Gがかかる、ということですね。

このGは、運転のしかたでかなりコントロールできるのです。

そういう運転をすることで車のロールも減りますから、乗り心地のよい運転になりますね。

さて、答えを言ってしまいました。しかし、現実にどうすればいいのか、という話です。

それはですね、別に難しいことは何もないんですよ。

よく頭に入れておいて下さいね。

まず、ブレーキは手前から行って下さい。できるだけ手前から減速することで、前方へのGを減らすことができます。もちろんブレーキは、同じ強さで踏み続けることが重要です。ブレーキの強さを変えると前後のGが変化して、同乗者の体を揺らすことになります。

加速も静かに行って下さい。しかも一定で。いきなりアクセルを踏んだり緩めたりするのはダメですよ。

カーブも重要です。まず第一に大切なのは、カーブにさしかかるとき、強い横Gが発生しない速度まで十分に減速することです。案外これができていない人が多いんですよ。

理想を言えば、カーブの中でブレーキを踏まないようにしたほうがいいですね。横と前、両方にGがかかってしまいますから。まぁ、全然踏んでいけないわけではありません。カーブに入ったばかりのときは横方向へのGが少ないですから、多少減速していても大丈夫です。しかし、カーブの頂点に入る前にブレーキから足を離しましょう。

そして、ここがいちばん重要なんですが、ハンドルを切るタイミングを早くしましょう。カーブの奥に入ってから急激にハンドルを切ると、横Gが強くなるだけでなく、強いヨーが発生します。これがいけない。カーブの手前から、静かに、ゆっくりとハンドルを切るようにしましょう。こうすることで横Gもヨーイングも減らすことができます。

さて、ここまで話を聞いて一つのことに気づいた人がいると思います。

このあたりの話、特にハンドルさばきに関しては、実はコーナーを速く走る方法と共通点が多いんです。

これはどうしてか。それは簡単な話ですね。速く走る技術というのは、車にかかる負担を少しでも減らすことを重要視しています。車の負担を可能な限り分散することで「最大の負担」の量を下げ、それがより速く走ることにつながるわけです。

この技術をそのまま応用すれば、普段の街乗りでも、車に、つまり同乗者にかかる負担を分散できますし、きちんと意識して走れば、負担の最大量を好きなようにコントロールできます。

もちろん、速く走れるだけでは同乗者を酔わせない運転ができるわけではありません。そのためにはいくつかの技術を別に覚える必要があります。

ただ、考え方をちょっと変えるだけでも、けっこうできてしまいます。

それは、タイヤのグリップ力を非常に小さく見積もって走ることです。

例えば、タイヤが簡単にロックしてしまう状況を想像すれば、ブレーキは手前から少しずつ踏むしかありませんね。カーブだって減速して入り、ハンドルも静かに切るしかありません。ホイールスピンを防ぐためにアクセルを静かに踏むしかありません。

そこらを心がけると自然に車を揺らさない運転になるはずです。とにかく、車に対して一定以上の負担をかけない、このことをひたすら心がけて行けば良いわけですね。

その意味では、速く走れる人は酔わせない運転もできるはず、というわけです、心がければ、ですけどね。

最後に一つ、速く走る時には使わない技術がありまして、これを身に着けないと、同乗者を酔わせない運転にはならないわけで、まぁこれは練習するしかありませんね。

それは、アクセルだけで速度を一定に保つ技術です。それも微妙なアクセルワークで、加速や減速をほとんどさせないで、速度を一定に保つ。

まぁ、これは慣れですかね。まぁ頑張ってもらうしかないですか。

というわけで、今回はこんな感じです。

これができても必ずしも速く走れるわけではありませんけど、まぁ、練習の一環だと思ってやってみてください。

では。

特別講義: 馬力とトルク

…………。

みなさん、ずいぶんたくさんお集まりですね……。

おかしいですねぇ、個人講義に友人も呼んできていいです、って言っただけだったんですが……。

これはちょっと気合い入れてご説明しますかね。

え~。

ここにお集まりということは、馬力とかトルクとか、そういう言葉に興味がある、ってことですね。

今回お話するのは、馬力とは何か、トルクとは何か、という話……はあまりしません、はい。すごく力学的な話だもので、物理学をかなり説明しなければなりませんし、かなり時間もかかりますからね。それこそ講義を一つ持つくらいになってしまいますからね。

なんでまぁ、今回の講義はあくまで、車を扱う上で馬力とトルクをどうとらえればいいか、という点に絞って話を進めましょうね。

まずトルクとは何か。

トルクと言うのは「回す力」です。ドライバーでネジを回そうとしてください。この、回す力がトルクです。

もちろん、トルクが大きければ大きいほど強力と言えますね。

ただ車は、トルクだけでは意味がありません。どのくらい加速するか、どのくらいのスピードで移動させることができるか、それが重要です。

厳密に言うと違うのですが、概念的には、トルクと「速さ」を混ぜ合わせたのが馬力、と考えて良いでしょう。

とまぁ、こんな言い方をしてもわかりにくいですね……。

では、みなさんにわかりやすいように式を提示しましょう。

馬力 = トルク × エンジン回転数 × 係数

この係数がいくつなのかはまぁ、横に置いておくとしまして、係数は係数ですから、車が同じならこの係数も常に同じだと考えてください。

つまり、ある瞬間の馬力は、トルクとエンジン回転数の両方に比例するわけです。

もしも、です。もしもエンジン回転数と関係なく、常に一定のエンジンがあったとします。

そんなものは実在しませんが、とりあえずそんなエンジンがあると考えてください。なぜそんなエンジンを想定しなければならないかはすぐにわかります。

とりあえずこの仮想のエンジンは、トルクが大きいほど最大馬力が大きいことが理解できると思います。

例えば限界の回転数が7000rpmだったとしましょう。トルクが2倍になれば、この7000rpmでの馬力も二倍になります。

あるいは、限界の回転数を引き上げるのも一つの方法です。上限が7000回転のエンジンと14000回転(!)のエンジンでは、トルクが同じでも馬力が2倍違います。F1のエンジンなんか18000回転くらい回しちゃいますけど、NAの3リッターで700馬力だとか800馬力だとかを絞り出す秘密の一つがここにあるわけです。

ここでみなさんは疑問を感じたと思います。

よくみなさまは、馬力重視のエンジン、トルク重視のエンジン、なんて言い方しますね。これらの違いはいったい、何なのか。

とりあえず、これらの言葉が意味するところはもう、議論の余地はないと思います。高回転でパワーを出すことで馬力を稼ぎ、スピードを出せるが、パワーバンドが狭いのが馬力重視、トップスピードは遅いが、低回転から力強く立ち上がってくるのがトルク重視というわけです。

しかし実はこの表現、トルク、馬力という言葉の使い方、という点に絞って行くと、恐ろしく誤解を招く表現です。と言うか、だからこそ馬力、トルクという言葉に対する誤解を招く結果になるわけです。

では、なぜ誤解されることになったのか。

それは、エンジンのトルク特性と深い関係があります。

車のエンジンと言うのはですねぇ、実は回転数が低すぎると効率が悪いんですよ。

理由は色々あるんですが、まぁ、燃焼速度の問題とか、燃焼室の圧力のロスとか、爆発が断続的であって連続していないとか、そんな話をしてもあまり意味がないのでここは置いておきます。

エンジンの効率はほぼ、トルクで表現できると思ってください。効率が良いほどトルクが大きくなります。

とすると、ほんとに回転数が低い状態では、トルクも小さくなります。そして、一定範囲までは、回転数が上がるほどトルクが大きくなって行きます。

しかしこれには限界がありまして、ある程度の回転数をこえると今度は効率が悪くなって来ます。

これにも理由があって、やはり混合気の燃焼速度の問題、ポンピングロスや各部のフリクションロスが抵抗になること、などですが、まぁ、そんなものだと思っておいてください。そうしてトルクが小さくなって行きます。

だいたいの車は中回転、そうですね、3000とか4000rpmあたりにトルクピークが来るようです。

では馬力はどうか。

さっきの説明を思い出してください。馬力はトルク×回転数でしたね。ちょっとこの表を見てください。

回転数 トルク 馬力

1000 15 35

2000 18 84

3000 20 140

4000 20 187

5000 18 210

6000 15 210

7000 10 163

いま、回転数をどんどん上げて行くとします。トルクが大きくなってゆくこの、低回転から中回転にさしかかるあたりはいいですね。トルクも回転数も上昇しますから、発揮できる馬力は急速に上がって行きます。

トルクピークを過ぎても、すぐに馬力が下がるわけではありません。回転数が上がるので、トルクが多少下がっても、かけあわせた結果、つまり馬力は大きくなって行きます。

一般的には、回転数上昇による馬力増加のほうが、トルク下降による馬力低下を上回っているので、回転数が上がるほど馬力が出ます。しかしながらこれには限界があって、エンジンが耐えられる限界付近になるとトルクが急激に落ち込みはじめ、回転数の上昇では補えなくなります。結果、馬力は落ち込みはじめます。

この、落ち込み直前の馬力がピーク馬力ですね。

上の表のエンジンのエンジン特性をグラフにするとこうなります。

こうして見れば、トルク特性、つまり回転数ごとのトルクの変化が馬力の特性に直結していることがよくわかると思います。

エンジン特性を語る上での最大の問題は、実はこの「トルク特性」にあります。

まず頭に入れておいて欲しいのは、よく○○の車は××馬力、トルク△△、なんて言う場合、それは最大の馬力と最大のトルクを指しているということです。上記のエンジンも、最大トルクが20キロ、最大馬力が210と言ってもエンジン全体の特性を十分に表現しているとは言い難いですね。

馬力もトルクも、エンジンの回転数によって変化します。だから、車の能力を全体的に評価するには、最大馬力と最大トルクだけで語っても不十分だ、ということです。

それを表現するのが馬力特性カーブやトルク特性カーブというものですね。みなさんも一度は見たことがあると思います。

ここをふまえて話を進めます。

チューンをする上でよく、マフラーを交換して何馬力上がった、とか言う人がいますね。

もっと厳密に考えると、給排気管の太さはエンジン特性のトルク特性に影響を与え、ひいては馬力特性も変化させると言えます。

例えば、給排気管を太くしたとしましょう。太い管は多くの空気を通すことができます。従って、給気や排気の量が多くなる高回転域でエンジンの効率を高く保つことができます。

しかし、太い管は低回転が苦手です。給排気にとって重要なのは流速で、管の中を流れる気体の速度が遅すぎると、逆にうまく空気が流れないんです。したがって、こうした太い管は低回転の効率が悪くなる、と言えます。

別の言いかたをすると、太さの違う給排気管はそれぞれ、最も得意とする回転数が違うと言えます。

この話はエンジンそのものにも言えることで、どのエンジンにも、最も得意とする回転数というものが存在します。それは給排気管や燃焼室の形状であったり、ピストンやコンロッドやクランクシャフトの形状や重さであったり、バルブ周りの構造であったり、バルブタイミングであったり、さまざまなもので決まってきます。

ここが問題なのです。

いろいろとチューンしてゆくことで、この「得意な回転数」の位置を変えて行くことができます。

しかし、です。どんなに頑張っても、さきほど説明した、低回転で効率を下げる要素と高回転で効率を下げる要素、二つの要素は絶対に消すことができません。

つまり、全てのエンジンに共通に言えるのは、どのエンジンでも本来は中回転が最も得意なのです。

ここからチューンの方向性が決まってきます。

いくら中回転が得意だからと言って、じゃぁ得意なところを伸ばそうと中回転ばかりトルクアップしても、最大馬力は伸びません。

中回転のトルクアップと言うことはそのまま、高回転を犠牲にすることでもあります。さっきのグラフをもう一度見てください。最大馬力が出ているのは6000rpmですね。ここのトルクを減らせば当然、最大馬力は下がります。

こんな感じです。

回転数 トルク 馬力

1000 14 32

2000 17 79

3000 21 147

4000 21 196

5000 17 198

6000 14 196

7000 8 130

最大トルクは上がっていますが、最大馬力は下がっていますね。

逆に、馬力の出ている6000rpm付近をトルクアップしてやります。もちろん、中回転は犠牲になります。そうするとこうなります。

回転数 トルク 馬力

1000 13 30

2000 16 74

3000 18 126

4000 19 177

5000 19 221

6000 16 224

7000 11 179

こうすると、最大馬力は上がりますが、最大トルクは下がってしまいますね。

では、実際の車でトルク重視と馬力重視、乗り味はどう違うでしょう?

はいそこの人。なんですか? トルク重視型のほうが加速が強い?

いえ、それはかなり間違ってます。エンジン性能を決めるのは馬力のほうです。トルクはですね、極論してしまうと、馬力の数字を決定する、という以上の役割を果たしていません。

そうではなくて、実はトルク重視と馬力重視は味付けの差でしか無いんです。

馬力重視型は、最大馬力の領域では爆発的な加速力を発揮します。しかし、馬力重視は高回転域ばかりをトルクアップした結果、宿命的に、中回転以下がスカスカになります。

そういうエンジンがコーナーリングの出口で、回転数を落としたらどうなりますか?

そうです、いちど中回転まで落ちてしまうとなかなか回転数が上がらず、いつまで経ってもトロトロ走るしかありません。

馬力重視を極端にしてゆくと、最後は高回転のごく限られた場所にトルクを集めることとなってしまって、パワーバンドはちょっとしか無い、いわゆるドッカン系のエンジンになってしまいます。そのかわりピークパワーはものすごい出ていますが。(^^

逆にトルク重視は、最大馬力は落ちます。だから、最高速勝負のように回転数がほとんど変化しない状況では馬力重視型に勝てません。

しかしその代わり、中回転域から立ち上がってくる幅広いパワーバンドという武器があります。ですから、コーナーの立ち上がりでも十分な加速ができます。

見えてきましたか?

こうした話がトルク重視型と馬力重視型と言う言葉を生んだのです。

最大トルクを増やすためには高回転を殺さざるを得ず、自然と最大馬力は下がります。しかしパワーバンドは広くなります。一方、最大馬力を増やすためには中回転以下を殺すこととなり、本来なら最大トルクが出ているはずの中回転が下がりますから、いくら高回転のトルクを上げても最大トルクは下がってしまいます。

ですから、注意して下さい。

トルクを上げたから加速力が増えたのではありません。パワーバンドを広げるチューンは、結果として最大トルクが増えるチューンになる、ということなのです。

実際の車では、最大馬力とパワーバンドの広さ、どちらを重視するかは走る場所などによって違います。

コーナーの速さだけでなく、最高速が重要になってくるターマックでは、やや馬力重視側に振ったほうが有利でしょう。しかし、頻繁に加減速を繰り返し、直線で伸びる理由の無いグラベル、特にラリーではむしろ、トルク重視にしてコーナーの立ち上がり加速を確保したほうが有利だったりします。

これが、例えばGT-Rとインプレッサのような使うステージの違う車のパワー特性の差として現れますね。GT-Rは高回転まで回さないと最大パワーを発揮できませんが、そのかわり、ノーマルですら実馬力がカタログ馬力を軽くこえている、と言われるほどのパワーを持っています。インプレッサは、ノーマルだと自主規制である280馬力を出られるか出られないか、という状態ですが、中回転からすでにピークパワーに近い馬力を出すことが出来ます。まぁ、排気量の差もありますが、走るべき場所の違いというのもここに影響していると考えて良いでしょう。

というわけで、話はだいたいわかってもらえたでしょうか?

じゃぁ最後に、ちょっとオマケとして大排気量と小排気量、ターボとNAの加速力の違いについて説明しましょう。

大排気量の高級セダンというのはたくさん出ていますが、3500ccターボでもカタログで280馬力しか出していない車がありますね。しかしトルクは笑えるほど太い。

どうしてこれしか馬力が出ないのか、と思われた方、今回の話を思い出してください。そういう車は低回転から中回転を重視していて、低い回転数からピークに近い馬力を発揮することができ、その代わり高回転を殺しているので最大馬力が小さいのです。

こういう、非常に広いパワーバンドは高級車の条件でして、いちいちシフトチェンジしなくとも、ちょいとアクセルを踏めばいつでも加速する、その余裕が好まれるわけですね。

他方、いまや1800ccターボでもちょいといじれば280馬力くらい出せます。排気量が半分近い車で同じ馬力なのだから、これはすごい、と思うかも知れませんが、実はこれがちょっと間違っているのです。

排気量が小さければトルクが小さくなるのは当然のことで、そんなことは説明しなくてもわかると思いますが、じゃぁトルクの小さいエンジンでどうやって馬力を出すか、と言えば、これはもう方法は一つしかありません。

高回転重視にすることです。

こうして出来た車は、低回転から中回転がスカスカです。最大トルクも低い低い……。

いまこの2台がスタートラインに停止しています。ヨーイドンでスタートしたとしましょう。

大排気量車は最初からピークパワーに近い馬力で加速して行きます。しかし、小排気量車はピークパワーに届くまでに馬力の出ない回転数があって、まずここを抜けなければなりません。

どうなりますか? 負けますね?

もちろん現実には、3500ccと1800ccでは車重が全然違いますからこう簡単には行きません。大排気量車は車体が重いので、推力重量比の関係で加速が鈍るのは当然です。

が、たとえ同じ最大馬力を持っていても、結局は大排気量には勝てないわけです。

同じようなことがNAとターボにも言えます。

ターボは過給している以上、NAよりも大きなトルクを出すことができます。当然のことです。より多くの空気と燃料を燃やしているわけですから。

しかしターボは一つの問題があります。高回転時の異常燃焼、つまりノッキングです。

ターボチューンはノッキングとの戦いと言えますが、それゆえ、どうしても最高回転数を上げることができませんし、高回転でのトルクも細っていまいます。結果、ピークパワーは、その過給圧で本来出すべき数値と比べて、落ちて来てしまいます。

と言ってもNAよりは出ていますけれどね。

一方、NAは高回転まで回すことができますからそのあたりは強いです。最近は純正で9000回転回すすごいNA車がありますから。

みなさん、ちょっと不思議に思ったことはありませんかね。例えば2000ccNAのインテグラはカタログで220馬力出していますが、1近いブースト圧をかけて、インテグラの2~3倍もの燃料を気筒に送り込むランエボは、自主規制があるとは言え、カタログで280馬力までしか出すことが出来ません。

もちろん、ターマック用エンジンとグラベル用エンジンという特性の違いもありますが、2倍をこえる燃料を燃やしておいて馬力の差がこれしか無いというのは、すぐには理解しにくい話だと思います。

その差がどこから出てくるかと言えば、まずNAが高回転型にして、トルクよりも回転数で馬力を稼ぎ出していることと、ターボが異常燃焼への対処の必要な高回転域を捨てて中回転域に的を絞っているから、ということですね。

そして……ここでも同じ現象が起きます。

例えば、NAで200馬力、トルク20キロの車と、ターボで200馬力、トルク35キロの車、なんてのが実在するわけですが、同じ馬力でもゼロ発進したらどちらが強いかわかりますよね?

結局、パワーだけで考えれば過給しているほうが強いのは当然の話で、そうでなければ何のために重量増したりトラブルの原因を作ったりしてカタツムリを飼っているのかわからなくなってしまいます。

と言うわけで。

トルクと馬力の関係を、実際の性能の面から解説してみました。

ちょっと複雑だったかもしれませんが、まぁこれからは「馬力重視」「トルク重視」という言葉の意味をわかって使って使ってもらえると思います。

それでは、お疲れ様でした。

開講挨拶

みなさま、ようこそいらっしゃいました。私が講師の猫々です、よろしくお願いします。

これから全……何講になるんだろ、とりあえず、少々長くなりますが、おつきあいください。

さて、一番最初に言わなければならないことが……。

私はヘボです。(^-^; サーキットだってタイムは全然出ないし、課題も多い。というか、もっと上手い人はたくさんいますから。

でも、理論は色々勉強しましたよ。研究もしました。だから、初心者の人に説明できる程度の知識はあるはずなので、それをお伝えしたい、私の身の回りにも理論面を全然理解しないで漫然と走ってる人が多すぎるから……。

もちろん、理論だけを学んだからって速く走れるようにはなりません。そんな頭でっかちでは、学んだ理論が邪魔になって逆にヘタクソなまま、ってことだってあり得ます。

あくまで車を走らせるのは自分だ、ってことですよ。

みなさん、車の潜在能力がどのくらいあるか、理解していますか? あなたの車は、あなたが考えるよりも遙かに速く走れる能力があります。プロが乗れば、信じられないくらいのスピードで走れますよ。

その能力を引き出してやるのがドラテクであり、それは全て物理法則に支配されています。理論を理解することはいろいろと役立ちますが、最後に効いてくるのは、どのくらい身体が技術を覚えているか、です。

そしてもう一つ。

ドラテクは、様々な人の様々な経験や研究によって編み出されてきた、系統だった技術です。

もちろん、ある程度の理屈がわかれば、自分で見つけてゆくこともできるでしょう。しかしそれには、多くの努力と時間、そして犠牲が必要になるでしょう。

悪いことは言いませんから、ここでは、書いてあることを素直に読むようにしてください。自分の独自の技術を編み出す前に、先人たちが築き上げてきた技術を一通り身につけてください。予め用意された足場を利用すれば、より簡単に高いところへ登ることができるでしょううから。

一応ここでは、意見の分かれるような内容は基本的に避け、非常に基本的なものを中心にしていますけど、それでも学ぶことは多いはず。

もし、色々な練習を続けることで、行間にあるもっと「微妙な」問題に気づいたとしたら、それは大きな進歩だと思いますよ、少なくともヘボの私が理解していること以上のものを見つけたわけですから……。

それから、いきなり先のほうまで読まないようにしてくださいね。順番に。もうわかってるよ、って話は斜め読みでもかまいませんが、一応、物事には順序、ってものがありますから。

とりあえず、最初から読んでいって、理解できたら、というか、実際に体感したら次に行くようにしてください。

で、一通り終えたら、最低限の基本を身につけたことになります。そこから先は、自分で色々研究してみてください。

ほんとの上級者は、ここで紹介する「基本」とはちょっと違ったことをしている……ように見えます。というか、そうにしか見えない人もいます。でもそれば、基本をきっちり身につけているからこそできることです。そのことを忘れないでくださいね。

この講義について

続きまして、この講義がどういうものか、ということを、改めて説明させてもらいます。みなさんの心構えについても、少しお話しさせていただきますね。とは言っても、当たり前のことばっかりですから、あんまり固くならないで大丈夫ですよ。

この講義なんですけど、コーナーを綺麗に、もちろん速く走るための、ほんとうに基礎的な技術を順を追って紹介するものです。とにかくメインはコーナーリングなんで、そのつもりでいてくださいね。

と言うか、コーナーが速ければ、いくらでも応用が利くんですよ。みなさん、直線くらいは速く走れますよね? (^-^;

よく、ドラテクの本なんかで、分野ごとに一度に理論を紹介しているものがありますよね? たとえば荷重移動なら荷重移動の理論をとことんまで説明してゆく。

そういう方法も確かにあると思います。ある程度車の挙動について理解と経験があれば、こうやって全体を見通した理屈はすごく役に立つでしょうね。

でも、この講義はそれとは違った方法をとります。というのも、ドラテクについてあまり知識も経験もない人を対象にしているからなんです。ここでは、確実に最低限の技術を身につけていただくために、一定のメニューに従って、理論を説明し、どんな練習をすればいいかを紹介します。だから、同じ理論を一部ずつ説明したりすることもありますよ。

というより、最初のうちはコーナーリング自体も全然、形になっていないですよ。綺麗なコーナーリングは、いくつかの動作の組み合わせで完成するんですが、それを一度に、全部練習しようとしても、絶対に無理です。練習っていうのは基本的に、一つずつ行うのが一番いいですからね。

それに、順番、というものもあります。このあたりのステップアップをどうするか、そのあたり、やっぱりよく知らない人には判断するのは難しいと思いますよ。お節介ですけど、それをこの講義でプラグラム立てよう、というわけです。

さて、ここで残念なお知らせがあります。みなさん、この講義を聞いて、きちんと練習して、一通り技術を身につけたら、速く走れるようになると思いますか? 実は、ノーなんです。もちろん、最初よりはずっとタイムアップするでしょう。けれども、本当に速い人に追いつくのはまず無理です。

とにかくここでお伝えできるのは、車というのはどんな状況でどんな動きをするか、ある動作をさせたい場合にどんな操作をすればいいか、という、ほんとに基礎だけなんです。でもそれじゃ足りないんですよ。

速く走るために本当に必要なのは、車がどんなラインを描くべきか、という、いわゆる「理想のライン」というヤツなんです。

結局、ここにつきるんですよ。でも、理想のラインがわかっていても、そこに車を持って行けなければ話にならないですね?

話が見えてきましたか?

私がお話しするのは、狙った場所、狙った速度、狙った挙動を正確に作り出すための基礎技術です。

どこを狙うべきか、という話は、実は全く別のことなんです。この話については後々説明しますね。

とにかくみなさんは、車の挙動についてきちんと理解し、それを上手に操れるようになって欲しいのです。一通りの技術が身につけば、どう組み合わせれば素早くコーナーを抜けていけるか、色々と研究することができますからね。

もちろん、タイムアップに必要な理論も、「さわり」だけ説明します。それには理想のラインについての概論も含まれています。でも、そこから先は、皆さん自身が発見して欲しいんですよ。

というか、はっきりと言いましょう。

それが全部説明できれば、プロのレーサーになれますよ。

上級者たちは、車を思った通りに振り回す技術はもう持っているんです。それをどう組み立てるか、です。そして、タイムアップの理論は、たくさんの練習と貪欲な研究があって初めて発見できるんです。 ここでお教えするドラテクの最終目的はラップタイムを切りつめることです。コーナーを速く走ることではありません。コーナーリングは手段にすぎないのです。

でも、手段がなければ目的は達成できませんね?

さて、この講義の目的がわかってもらえたと思います。

ところでこの中で、「少しでも短期間で速くなりたい」と思っている人、いませんか? あるいはある人に追いつきたい、あるいは勝ちたい、なんて思っている人もいるでしょうね。

そんな人に、とっておきの秘訣を3つ教えましょう。この通りにすれば、ほんとに速くなれますよ。

一つ目は、漫然と練習しない、ということです。自分の走り方をいつも意識してください。それから、動作を色々と変え、色々な挙動を試してみてください。自分の思いこみで同じ動作だけをひたすら繰り返したって、いつまで経っても新しい境地には到達できませんよ。

二つ目は、他人が走っているのを見てください。自分より遅い相手でもいいんです。もしかしたらその人は、トータルでは自分より下でも、部分的には自分より上手かも知れません。そして、敢えて遅い相手でも、その人と同じ走り方を試してみてください。特に、自分より上手だと思えるところではそうですね。

そして、一番大切な秘訣、それは、ひたすら走り込むことです。誰よりも多く走ってください。サーキットや練習場でなくとも、街乗りでもいいんです。誰かより速くなりたいなら、その人の何倍も走ってください。ドラテクには近道なんてありません。才能や環境の影響なんてたかが知れています。それよりも、とにかくたくさん走ったほうが勝つんです。

というわけで、みなさんの心構えというか、どんな風に考えればいいか、ということを一通りお伝えしました。

もしかしたら、これは大変だ、と思った人もいらっしゃるかも知れませんね。でもそれは、本当に大変だからなんです。要はそれを乗り越えるくらいの熱意があるかどうか、ですね。

本当に熱意がある人は、どんどん上手になるでしょう。熱意が少ない人はそれなりの腕です。

まぁ、自分は「それなり」でいいんだ、という人もいるでしょう。それはそれで、私はいいと思います。全ての人がプロレーサー並になる必要なんかないですからね。でも、自分が持っている熱意の範囲内で、きちんと頑張っていって欲しいと思います。

じゃぁみなさん、最初は、講義を受けるための準備からですね。よろしくお願いしますね。

第0講: 準備

え~、ではみなさま。お忙しい中、車を持ってお集まり頂きましたのは、これから、「ドラテク虎の穴」、略して「ドラの穴」が始まるわけですが、その前に準備して頂くことがあるからです。よろしいですか?

なんか、車持ってきてない人もいますね、まぁいいでしょう。たいしたお話ではないんで、帰宅なさってから準備してくださいね。

最初に、必ず準備しなければならないものが一つだけあります。なんでしょう? わかりますか……?

それは、車、です。当たり前ですね。

でも逆に言うと、車だけあればいいですから。はい、そこの人、ご質問ですか?

はぁ、チューンですか、しなくていいですよ。はぁ、ブレーキパッドにシートにベルトですか。入れておきたければ構いませんよ、安全性も違いますね。

でも、お金がなければとりあえずはそのままでかまいませんから。そんなに厳しい練習はしませんよ、うちの練習メニューは安全重視ですから。

とりあえず車輪が4つついてて、動くエンジンが乗ってて、前に進めればなんでもいいです。まぁ、個人的には自分の車で走ってほしいですけど、そこまで厳しいことを言うのはやめましょうか。

あ、そこの人はまだ車を買ってないんですか。はぁ、お勧めの車ですか? そうですねぇ、MTのスポーツ系のほうがあとあと楽かと思いますけど、チューンしてあるのはやめたほうがいいと思います、できるだけノーマルのにしてください。安いのでいいですよ。NAのS13あたりなら、二束三文で中古屋にゴロゴロ転がってますから。あれはいいと思いますよ、安い、弾数が多い、走りやすい、3拍子そろった車ですから。ほかにも32のGT-Sとか、激安で走りやすい車はたくさんあります。まぁ、そういう車はトラブルの嵐だったりするんで、買うときは要注意ですけど。

でも、走りさえすれば軽トラでもいいですから。練習には十分です。

あとは、いい靴があったほうがいいですね。

ほら、そこの人、ブーツで来てるんですか? 底の薄い靴のほうが操作が確実だし、いろんな情報が帰ってくるから上達も早いですよ。本物のレーシングシューズなんかがいいんでしょうけど、まぁ高いですから、無理に買う必要はないです。私なんか一足600円のデッキシューズを履きつぶしてます、だいたい1、2年は保ちますね。こんなんで大丈夫です。

さて、準備するものはもういいですね? 次にセッティングしておきましょうか。あ、そこの人、運転しやすそうないい靴ですねぇ。じゃぁシートに座ってみてください。背中や腰がきっちりシートにつくように、深く腰掛けて。

最初にシートの前後位置を調整してください、こんな感じですね。クラッチ、ブレーキ、両方とも底まで踏んでください。踏むときは、つま先、というより指の付け根あたりで踏んでくださいね。土踏まずのあたりで踏んでも操作はできませんから。踏み抜いてもまだ膝に余裕があるくらいにしてください。

ブレーキのほうが重要ですかね、右足にだいぶん余裕のある状態にしてください。そうすればクラッチも踏みやすいはずですから。

シートの前後位置が決まったら、シートの背もたれですね。いまのまま、両肩をシートに押しつけてください。で、両手を交叉させます。手のひらを内側に向けてください。

この状態で、ステアの左側を右手で、右側を左手で持ってください。

ステアに力を加えられますか? 握れる必要はないですけど、この人みたいに手が離れるとだめですから。こうやって背もたれを立てていけば……いいですね。

この状態で手を戻して、普通にステアを握ってください。ほら、肘がかなり曲がっているのに気づきました? このくらいがちょうどいいんです。普段より狭苦しいですか? それはいい座り姿勢じゃなかったんですね。それで、両手で軽くステアを押す感じでいれば「いい姿勢」です。

今日からこの姿勢で座って、違和感がなくなるまで身体を慣らしてください。それが終わらないと次に進めませんからね。

ほかには特に準備というほどのものはないですけど、荷重がかかったときに車内の物品が飛び回らないようにしたほうがいいですね。

じゃぁ、ここからは、普段の街乗りで心がけておいて欲しいことをお伝えしておきます。これは講義が始まっても心がけて欲しいので、頭に入れておいてくださいね。

まだ車に慣れてない人、特にマイカーを持ってから間もない人は、まずは車に慣れてください。

あらゆる操作を無意識のうちにできるくらいまで、とにかく車に乗ることですよ。シフトチェンジするときに、「あ~、クラッチ踏んで、シフトをニュートラルにして、シフトを入れて、クラッチはなして、ああ、アクセル少し踏んどかなきゃ~」なんて考えているうちはドラテクの練習どころじゃないですよ。

自然に左足がクラッチを踏んで、手がスパッとシフトを入れて、入った瞬間にクラッチをはなしながら右足はアクセル操作をしてる。一つ一つ考えたりしない。

案外時間かかりますよ。私は、初めてのマイカーなら3ヶ月から半年、乗り換えなら1、2ヶ月は、とにかく体を慣らすことをお勧めしてます。まぁ、何度も車を乗り換えてるツワモノなら適応力も身に付いてるだろうから、もっと短期間で慣れるんでしょうけどね。

いきなり乗った車でかなりの走り方ができる人もいますが、これはそれなりのドラテクがあることが前提ですし、初心者には無理な話です。特に駆動方式が違うとそうですね。

だからみなさまは、とにかく慣らすことを重要視してください。

じゃぁ、実際に運転するときですね。

まず、基本的に、視線は常に「これから行こうとするところ」で「やや遠く」を見るようにしてください。これは教習所でも習いましたよね? これからコーナーがどんなふうに伸びているか、予測しながらでないと美しいコーナーリングなんてできないですよ。もちろん、近くを見ていないと危ないときは別ですけどね。

それからステア操作ですね。大まかに分けて送りハンドルとクロスハンドルの2種類がありますが、両方できるようにしてください。どっちが優れてる、ということはないですよ。状況によって使い分けられるように、両方に慣れておく必要があります。スムーズにステアを回せるように、ひたすら練習してください。

そのとき、軽くハンドルを押すように心がけたほうがいいですね。でもこだわる必要はないです。

あと、前方にコーナーが見えたら、予めステアを握り直す癖をつけておくと便利ですよ。右コーナーが見えたら、右手でステアの上を、左手でステアの下を握って準備するわけです。実際に走ってるときに必ずこの動作をするわけじゃないですけど、覚えておくと便利ですよ。

逆に、絶対にやってはいけないことを。それは内掛けハンドルです。絶対にダメです。まともな操作ができませんからね。

あとは車幅感覚ですね。タイヤで路面の好きな場所を踏んでいけるよう、いつもいつも練習しておいてください。例えばですねぇ、路側帯とかセンターラインで、踏むと音がするデコボコのラインがありますよね? あれを踏もうとしてみる。自分が予測したのと同時に踏めれば完璧ですね。これが発展すれば、コーナーのインやアウトのギリギリを詰める、なんて余裕でできます。私も、夏場なんかによくやってますよ、ガードレールから出てる草をドアミラーで叩きながら走るとか。いえ、簡単ですよ、慣れれば。みんなそんな練習をしていないから難しいように感じるだけです。始めればすぐですよ。

あ、いきなり草を叩くのはやめてください。(^-^; 車ぶつけちゃったら大変ですから。最初は多少失敗しても大丈夫なように、音の出るラインとか、ハンドホールのフタとか、そんなのを使ってください。

とりあえず、今回お伝えするのはこれだけですね。

別に全部できる必要はありませんから。普段から感覚を磨くために心がけることのいくつかを紹介しただけです。

実はほかにもあるんですが、今回はこのくらいでいいですよ。

じゃぁ、車の準備ができて、車に身体が慣れてきたら、第一講においでください。お待ちしておりますので……。

第一講: ブレーキング

それでは、第一回の講義を始めたいと思います。

まぁ、最初ですから、簡単な話ですよ。ほら、そこの人、身構えなくていいですからね……。

いっちばん最初にやるのはブレーキングです。

なぜかって? 曲がることじゃないのかって?

それはですねぇ、とりあえず十分に減速できていれば、その後のことはどうにでもなるからです。(^^;

というわけで、まずはきっちりしたブレーキングについて学びましょう。

最初に、これだけは言っておきますよ。

ブレーキングをなめてはいけません。

ブレーキングは、ドラテクの中でも重要な部分の一つです。ドラテクの勉強の最初から最後まで、ブレーキングはついてまわります。

それから、何か新しいことを勉強するたびに、ブレーキングのやりかたを見直さないといけないくらい、他の部分と密接に結びついていますから、単純な話はできませんから。

ブレーキは停まるためにあるものだと思ってる人、今から言う言葉を256回ほど繰り返してください。

「ブレーキは、速く走るためにある」

あ、そこの人、ほんとに繰り返さなくてもいいです。(^-^; 覚えておいてもらえれば。

でも、最初から難しい話をするのは無理ですよね。いきなり複雑なブレーキング理論を展開したって、絶対に理解できません。

というか、私も理屈はわかってても実践できないことが多々……。

そんなわけで、ここで説明するのはあくまで、最初に覚えること、ってことで……。

まず、単純な話から。

コーナーに入る前にはブレーキをかけましょう。以上。

わからない? (^^;

コーナーでは一定速度以上では走れないことは簡単にわかりますよね。しかし、直線ではかなりのスピードが出ます。というより、延々と直線が続いたら、チューンドカーなら時速200キロ以上は軽く出るんじゃないですか?

もしもそんなスピードでコーナーにつっこんだら……間違いなく死にますね。(^^; とすると、直線の後にコーナーがあれば、コーナーにあわせたスピードまで減速してやらないといけない。

車と言うのはハンドル切ればそれだけ曲がる、というシロモノではありません。ちゃんと限界があります。

いちばん重要なのは、その限界を超えた速さでコーナーに飛び込まないことです。これはシロウトでもプロでも同じ話です。

簡単ですね。以上。

なんて言ったら、ドラテクは簡単すぎます。そんな単純な話じゃないです。

でも、細かい話を始めるとほんとにきりがないので、「その1」では基本的なところから行きましょう。

今回の内容は、完璧にできる必要はありません。とりあえずは、戸惑わないで、ある程度できれば次に進めます。

と言うのも、ほかの技術と関係している部分が多くて、いきなり答えが見えてこない技術でもあるんですよね。

ただ、けして無視できる技術ではありません。とりあえずは、自分がなんとなく納得できるところまでは練習してくださいね。

最初に考えるのは、最大の減速力について、ですね。フルブレーキングして、車輪がロックする寸前の減速力を使う。

どのくらいがいいかは、練習して身につけてください。(^-^; ABSのない車だとわかりやすいですかね。まず完全にロックさせてみて、そこから少しだけブレーキを緩めると、「いちばん美味しいところ」がわかりますから……。 もちろん安全な場所でやってくださいね。それから周囲に誰もいない場所で。スキール音ってけっこう、うるさいですから。

とにかくそれを何度もやる。とにかく身につける。まずはこの練習。さぁ、やってきてください……。

…………

終わりました? じゃあ次に行きますか。

コーナーリングスピード、って言葉ありまして、まぁ要は、どのくらいのスピードでコーナーを抜けられるか、って話ですね。

最初は、コーナーにゆっくりと進入して、軽いブレーキで減速、自分が怖くないと思うスピードを見つけておいてください。そして、少しずつ直線区間でのスピードを上げてゆく。

このとき、最終的にはある形を目指してください。

それは、ブレーキを1発で決める、ということです。

つまり、ブレーキは1回だけ。コーナー進入する直前まで絶対に緩めない! 緩めるようなのはいいブレーキングとは言いませんよ。

そして必ずフルブレーキング。あの、ロック寸前の感覚をちゃんと思い出してください。

これができない人がかなりいるんですよね。ブレーキングの基本です。

そうそう、コーナーに入ってハンドルを切るときにはブレーキは抜いてください。車輪がロックして、コーナーのアウト側に突き刺さっちゃいますよ。ブレーキ残しをやるのはこれからです。

慣れてくると、車速感覚から、どのくらい手前からブレーキをかけ始めるといいか、身に付いてくるはずです。

この感覚は、コーナー進入速度を変えても役立ちます。というか、全ての基本です。

で、安全な速度で進入できるように練習してください。

この段階で、コーナー進入速度自体を上げようとしないでください。それはまだ早いっ! です。

それから、一つのことを守ってください。

それは、まだコーナーリング中にアクセルを開けないということです。まぁ、出口の直前で開ける分にはかまわないんですが、コーナーリング中のアクセルワークは色々と難しい面があるので、今はとにかく、ブレーキングを身につけてください。

さて、ちゃんと練習していると、一つのことに気づくかもしれません。とりあえず、「あれ?」と思うことがあった人は、多分正解。というか、正解だと思います。

それは、ブレーキの踏み始めのことですね。いきなりフルブレーキすると、車体が不安定になる、ってことです。

まぁ、これがいきなり問題になることはありませんが、一応、頭に入れておいたほうがいいかと思います。

ブレーキパッド、見たことあります? ない人は……いきなり見ろ、って言っても無理か。(^^;

もし実物のブレーキパッドを見たことがある人は、前と後ろで全然大きさが違うのに気づいてるはずです。

もうちょっと進むと、前後でブレーキシステムが違うことにすら気づくかもしれない。

ちなみに、私のFCなんですけど、フロントが4ポッド、キャリパーが取り外しできないようになってる、そうとう強力なヤツですが、リアはポッドが1本しかありません。

アルテッツァは、フロント4ポッド、リア2ポッドでしたが、リアのパッドは接触面積がフロントの3分の1くらいしかない。

……ポッドとかキャリパーとか言われてもわからない人は、ああ、全然違うんだな、と思っといてください。(^^;

それから、ブレーキにかかる力も違いますよ。

つまりですねぇ、ブレーキペダルを踏む力はブレーキフルードを介してパッドに伝わるわけですが、どの車にも、フロントよりもリアの力のほうが弱くなるような装置が入ってます。

なぜこんなに違うのか。わかります?

これからのことは、あとで説明する「荷重移動」にも関係するんですが、美しいブレーキングを考えるときには欠かせない話ですから、ちょこっとだけ触れておきましょう。

車の動きを思い浮かべてください。ブレーキを踏むと、こう、車は前のめりになって、前輪に大きな荷重がかかりますね? 逆に言うと、後輪にかかる荷重は減ります。

つまりですね、車のブレーキシステムってのは、こういう「前のめり」状態を前提に作ってあるんですよ。

ちょっと想像してみてくださいね。

こんなふうに、タイヤを手でがっちり持ってやります。強くブレーキをかけた状態ですね。

それで、地面に軽~く触れさせます。

これを引きずるのって簡単ですよね? ほら、こうやって簡単に滑って行きます。

タイヤがこうして、ブレーキに負けて滑っていくのを「ロックした」と言います。ロックするとロクなことがないんですよ、つまりですねぇ、タイヤというのはロックするより地面と一緒に転がっているほうが制動力が強いですし、車をコントロールするためにはそのほうが都合が良いんですよ。

静止摩擦係数とか、動摩擦係数とか、タイヤの表面が溶けるとか、いろいろありますけど、ここはそんなもんだと思ってください。前回、ロックする寸前の状態でブレーキしろ、と言ったのはこのためですね。

もしロックさせたくなければ、タイヤを軽く持つしかありません。こうやって、持ち方を緩めれば、タイヤは転がって行きますね。この力加減を調整すれば、最高のブレーキの強さがわかるわけです。

じゃぁ今度は、こうやって机にしっかり押しつけてみます。ほら、こうなると引きずるのは大変です。タイヤをかなり強く持ってても、なかなかロックしません。

大きな荷重がかかるほど、ブレーキを強くかけることが可能なんですよ、わかります?

逆に言うと、タイヤにかかる荷重にあわせてブレーキの強さを変える必要があります。

さぁ、さっきの話を思い浮かべてください。ブレーキング中は、前に荷重がかかって、後ろは荷重が抜けますね?

この状態では、後ろのブレーキは弱くしないといけないんです。もし前後で同じ強さでブレーキをかけると、後輪がロックして、最悪の場合、車はスピンしてどこかに飛んでいってしまいます。だいいち、前輪だけのブレーキになってしまいますから、制動距離は極端に伸びます。

ブレーキシステムの違いも、かかる力の違いも、この差なんですよ。

そうそう。

このほか、ほとんどの車は前後で重さが違いますから、その違いもありますので念のため。車検証、見てみてください。「前軸荷重」と「後軸荷重」が全然……あ、FCはほとんど同じか。(^_^; まぁ、こういう車は特殊ですから……。FF車あたりだと6.5対3.5くらいになってるのも珍しくないですよ。

ま、これは余談ですね。

ここまで来れば、そろそろ気づいた人もいると思います。

直線を走っているとき、前後のタイヤにかかる力は平時と一緒です。前のめりではありません。

でも、ブレーキは前のめりになってることを前提に作ってます。

さぁ、いきなりブレーキを踏んでみましょう……そうすると、前輪がロックしちゃうのがわかりますか? わからない人は、あとで講師室に来てください。私の車でたっぷりと体感させてあげますから。

え? いらない? それはそうですよね……。

加速中にブレーキを踏むと、余計にひどいですよ。後輪に荷重が乗ってますからね。

というわけで、今日お教えすることの一つは、こうですね。

いきなり「がつん」とブレーキを蹴っ飛ばすのは止めてください。

「じわっ」と踏んで、前輪に荷重が乗る余裕を与えないと、アンダーステアで車が飛んでくことがありますよ。もっとも、神経質になる必要はありません、そう簡単には刺さったりしませんから。心持ち、でいいですよ。

というか、一度、雨の日にでもやってみてください。あ、広場にしてくださいよ、公道はだめです。(^-^; いちど、いきないりブレーキを蹴るとどうなるか、体感しておけばわかるかな。

この話、高速域になると顕著になってきます。時速160キロとかでいきなりブレーキを蹴ると、車体が全然コントロールできなくなるかもしれません。これはかなり怖い、というか危ないので、サーキットデビューしたときには頭に置いといてください、ホームストレートの終点なんかでよく問題になりますから。

これが「美しいブレーキング」への第一歩ですね。

ブレーキングにはもう一つ、オマケがあります。

フルブレーキングを心がけている人。ブレーキを踏むと車体が回転することがありませんか?

もし車体がまっすぐ走っていて、その状態でブレーキを踏んで回転したとしたら……原因が車にあるかもしれません。車体の歪み、アライメント、重量の分布、タイヤのタレ具合……色々な要素があって、時にはそれがひどい回転を起こすことがあるんですよ。車によっては装備が右よりか左寄りかで重量配分がかなり違うこともあるし、FR車の縦置きエンジンなんか、エンジン本体の回転モーメントがイタズラすることがあったりして……。

でも、車のことはそれほど気にすることはありません。あまりにひどかったらアライメントとってもらったほうがいいでしょうけど、どうせ車なんて少しくらい回転するもんなんですよ。

だいいち、ドライバーが乗った時点で左右対称じゃないんですし、路面の状態だって必ず左右均等とは限りませんよね? そういう車の「癖」とかは、身体を慣らしていけばいいんです。

それより、車が回転する理由にはもっと重大なものがあるんです。主なものが、ヨーイングモーメントと荷重の二つです。これらについては、もっとあとの講義でやりますが、一つのことを覚えておいてください。

旋回中にブレーキを踏むと、車体が回転することがあります。

ドリフターなんかはこれを利用することもありますが、いきなりこの現象に出会うと戸惑いますよね。

たとえ旋回量が少なくとも、この現象は起きるんです。慣れるとこの現象を利用して車体の向きを変える、なんてこともできますが、今はそんなこともある、程度に覚えておいてください。

その意味では、旋回中のブレーキには注意が必要ですね。

さて……話が少し複雑でしたかね。でも重要な話ですから……。

ほんとはもっと後からお話しする内容が関係しているんですよ。そのうちまた、今回の話の一部が出てきます。でも今の段階では、確実なブレーキは安全にも貢献しますから、どうしても理解しておいて欲しいんですよね……。

この「荷重移動」に関しては、また後から丹念に説明しますから、そのときまでイメージだけ持っておいてください。

じゃぁ、みなさん、第二講までに練習してきてくださいね。

それじゃぁ、今日の講義はここまでです。

第二講: 操縦操作

それでは第二講を始めます。

前回までの話はどうですか? そんなに難しい話じゃないから、感覚だけはつかんできたんじゃないですかね。

今回は引き続き、実戦に移る前にとりあえずは練習しておいたほうがいい、非常に基本的な注意点と操縦動作の練習について説明しときましょうかね。

この練習は、ここから先の練習と平行しながらでもかまわないです。ただ、最初に一度は単独に練習しておいてください。

それと、ムキになって完璧を目指す必要はありません。それなりに身に付いていれば、あとは実戦の中で精度を上げていけるはずです。

でも、無視できる部分でもありません。ここがちゃんとできてないと、あとあと何をしてもダメなんですよ。

それから、ここで説明したことは、「準備」の時に説明したことと加えて、普段の街乗りで意識、練習するようにしてくださいね。普段から練習していれば、イザというときに自然と出てくるようになります。走り屋にとって、普段の街乗りも練習の一環ですよ、これを忘れないでください。

さて、車を動かす場合、どんなときにも共通の注意点があります。

じゃぁ、その最初のもの。それは……簡単ですよ。

ステアも、アクセルも、ブレーキも、静かに、確実に操作してください。

と言ってもピンと来ないかもしれませんが、まぁ、別の言い方をすると、乱暴でなく、かつ、大胆に自信を持って、って感じですかね。

全然わかりませんね。(^^;

わからないうちはまず、丁寧を心がけてください。

これを守らない限り、どれだけ練習しても絶対にうまくなりませんよ。

いきなりブレーキを踏むといけないのは、前回お話ししましたね。そのとき、荷重が十分に移動していない状態での操作は車体を不安定にする、というイメージはなんとなくつかんでもらったと思います。

実を言うとステアもそうなんですよ。ある程度車速が出ているときにいきなり急にステアを切ると、車がいろいろ不安定になります。

どうしてか、ってことを説明すると、これがまた長くなるんですけど、このあたりも荷重移動が関係しているんだと思っといてください。実際にはヨーイングモーメントとかの問題もあるし、なかなか単純じゃないんですけどね。

このあたりのイメージは、荷重移動の話の時に少ししておきましょうかね。

え? ヨーイングがわからない? とりあえずこんなふうに、車体が回転するのをヨーイングと言うんだ、とだけ覚えておいてください。まぁ、たいしたことじゃないですけどね。ほかにもローリングとピッチングがありますけど、こっちは簡単ですね。

ロールって言葉は聞いたことがありますよね? ローリングはあれです。前後の軸を中心に左右に傾くヤツですね。走り屋が一番気にするのがローリングだから、一番身近なんじゃないかな。

ピッチングは、あまり使わない言葉ですね。車体が前のめりになったり後ろにそっくりかえったりするのがピッチングです。どっちかというとノーズダイブとか、そんな言葉のほうが一般的みたいですね。ちなみに、ノーズダイブってのは前のめりになることを言うんですけどね。

そうそう、アンダーステアとオーバーステアについても説明しておきましょうかね。

この二つを正確に説明すると長くなるんですが、とりあえずここでは簡単に言っておきましょう。コーナーリング中に前輪が滑ったらアンダー、後輪が滑ったらオーバー。ひどいアンダーになると、旋回半径が大きくなってコーナーの外に突き刺さります。ひどいオーバーになると、鼻がインを向いてドリフト状態みたいになって、車体がコントロールできなくなります。

細かいことは後でやります。というか、黙っていてもそのうち体感できます。

余談になりました。次に行きましょう。

アクセルの唐突な操作がダメなのも想像できると思います。急にアクセルを開いたらどうなるか、擬似的に体験してみましょうかね。まず、クラッチを切った状態でアクセルを踏んで、エンジン回転数を上げてください。エンジンにもよるけど4000回転とか5000回転とかにします。それで、突然クラッチをつないでください。たいがいの車はホイールスピンするはずですし、多少でもタイヤが鳴くのがわかるでしょう。

これは停止した状態ですから、これほど極端なことをしなければ大丈夫ですが、コーナーリング中はそうではありません。迂闊なアクセル操作がもとでスピンする、なんて話は珍しくないんです。

これは、アクセルを開いた時だけじゃないですよ、急に閉じるとエンジンブレーキが働いて、減速力が生まれますから、やっぱり危ないことになります。まぁ、こればかりは慣れてない人が「体験」するとかなり危険ですから、とりあえずアクセルも静かに、じわっ、と踏んだり放したりする、ってことを覚えてください。慣れてくれば、どんな状況でどのくらいまで大丈夫かがわかってきますから。

そうそう、静かに、確実に、とは言いましたが、ゆっくり操作するのとは違います。いえ、ゆっくりのほうが良い場合もありますよ? でも、速く動かした方がいいときは、ちゃんと速く動かさないとダメです。

そうじゃなくて、それを乱暴にやるんじゃなくて、ちゃんと確実に操作できる、どのくらいの速さで操作すれば確実か、ってことをちゃんと意識してやるのが大切なんです。

ただ、最初のうちはそれはわからないでしょうから、何でも「ゆっくり」やるように心がけたほうが感覚はつかみやすいかもしれませんね。いずれ「ゆっくり」ではダメ、ということが見えてきますから、そのときになったら「ゆっくり」を卒業しても間に合います。

むしろ、あることを心がけて欲しいですね。

それは何でも、一発で決める、ということです。

一連の動作の中で、途中で止めたり、戻したり、足したりしない。たとえばステアなら、切り始めたら同じ速度。舵角が決まればそのまま。戻すのも一定の速度。

ブレーキもアクセルも同様。

もちろん、走りが高度になってくると、いろいろ違う場合もあります。アクセルをバタバタあおったりすることもありますし、ソーイングと言ってステアを小刻みに左右に揺らしたりすることもあります。

じゃぁ、次に行きましょう。

さっきはクラッチ操作については何も言いませんでしたけど、このクラッチについては一つ、重要なことがあるんですよ。

クラッチは、アクセルやブレーキよりも、比較的「スパッ」と扱っても大丈夫なのが普通です。蹴っ飛ばしちゃいけない、なんて状況はけっこう限られますよ。でも、一つだけ注意してほしいことがあるんです。

いま、クラッチを切っているとします。

エンジン側の回転数とタイヤ側の回転数が一致していない状態でいきなりクラッチをつなぐとどうなりますか? 試しにやってみてください。

例えば、私の車は時速40キロで2速だと、エンジン回転数は3000回転くらいです。

クラッチを切っていても、アクセルを操作して回転数を3000回転にしてあれば、クラッチをつないでもスムーズに行きます。

しかし、エンジン回転数が1000回転くらいだったとしますよね? クラッチをつないだとき、エンジン側の回転数があってませんから、クラッチは綺麗につながりません。強い振動が出ますし、クラッチは若干、滑ることになります。

このとき、駆動輪に減速力が働くことはすぐにわかりますよね? しかも急激な。

フルブレーキング中やコーナーリング中にこれをやると、挙動を乱すことになります。これは避けなければなりません。

じゃあどうすればいいか。簡単ですね。クラッチをつなぐ前に、回転数をあわせる練習をすればいいのです。

ただし、シフトダウンの時だけでいいです。シフトアップの時にはあんまり問題にならないですから。練習にもならないですし。

とにかく、時速何キロで、何速で、何回転くらいでつなげばいいのか、カンではなく、きちんと実験して、スピードメーターの読みから直観的に回転数を導き出せるように練習してください。

私のFCの場合はこうですね。だいたいの目安ですから、正確じゃないですけど。

シフト 2000rpm 3000rpm 6000rpm

1速 → 15km/h 35km/h

2速 → 25km/h 40km/h 80km/h

3速 → 40km/h 60km/h 120km/h

サーキットなんかで「4速にシフトダウン」する機会はないので、私の頭に入っているのは、4速2000回転が65km/h、5速2000回転が85km/h、という目安だけですけど、これで十分かと。

そこの人、なんか嫌そうな顔してますね? まぁ、気持ちはわかりますよ。でも、きちんと速くなるためにはすごく重要なことなんですよ。面倒くさがらずにきちんと研究してください。こういう練習こそが、将来の確実なテクニックに結びつくんですから。今は我慢の時です。

まぁ、実際にやってみるとわかるんですけど、完璧にまであわせなくても、最初のうちは「だいたい」で大丈夫だったりするんですけどね。早い内からこの練習をしておくと、将来、もっとシビアな操作を要求されたときに簡単に身に付きますよ。

だから、とりあえずは自分が納得できる程度までは練習しておいてください。基礎さえできていれば、本当に必要になった時に自然と身につきますから。

ここで、もう一つの重要な操縦操作を思い浮かべた人は鋭いですね。

回転数をあわせる練習は、そのまま、ヒール&トゥの操作へと移っていきます。

ヒール&トゥ、聞いたことありますよね? ブレーキとアクセルを右足で同時に踏む、ってイメージを持ってる人がほとんどじゃないでしょうか。でも実際には、もうちょっと複雑な操作をしているんですよ。

回転数をあわせる練習と同時期に、こんな練習をしてください。停止している状態で、ブレーキを踏んだままアクセルをあおるんです。回転数はとりあえずなんでもいいけど、慣れてきたら最初から「じゃ、3000回転」とか「次は5000回転」とか、どこかを狙ってみる。上手くなればきちんと狙った回転数を出せます。

え? 右足が辛いですか? じゃあ、辛くなくなるまで練習してください。

踏み方は好きでいいですよ。よく、つま先でブレーキ、かかとでアクセルを踏む、って言いますね。だからヒール&トゥなわけですが、私はどっちかというと、親指の付け根でブレーキを踏んで、小指のつけねからかかとにかけての足の側面でアクセル操作をしています。

このあたりはその人の足の大きさとか、ペダルの形状や距離とか、体格とか、そんなものに影響されますから、自分がいちばんやりやすい方法を選んでください。

ただし、ブレーキもアクセルも、微妙な操作ができないとだめですよ。注意点はそれだけです。そうそう、アクセルとブレーキの段差が大きすぎて操作しにくい、って人は、量販店でアクセルペダルカバーを買ってきてください。2000円くらいかな? 段差を調整できますから。私は、1センチくらいアクセルがひっこんでるのが好きですけど、ツライチでないと嫌だ、って人もいますね。逆に、高級車並みの大きな段差でも全然平気、って人もいます。

できました? じゃあ、3つの動作を一緒にやってみましょう。

2つじゃないのかって? もう一つあることを忘れてません? ブレーキングですよ。

絶妙なブレーキングを行う、アクセルで回転数をあわせる、それらを同時に行う、3つの技術を統合してください。

練習は街乗りでできます。

赤信号で停止するときに、スムーズなブレーキングを行うと同時に、ヒール&トゥでシフトダウンしながらエンジンブレーキでも減速してください。回転数は、シフトダウン直後でも3000~3500以下になるようにします。

最初のうちはギクシャクするでしょうが、大丈夫です、1ヶ月も続けていれば、実戦で通じるくらいには身に付きます。

できてきたかな? と思ったら、普段のコーナーリングでもやってみてください。あ、最初はゆっくりお願いしますよ、普段と違う操作が一つはいるわけですから。コーナーの手前で減速しながらシフトダウンし、コーナーに入ります。

最初は回転数を上げたりなくて駆動輪に負担をかけると思いますが、大丈夫です、すぐ慣れます。

たぶん、ここで驚く人もいると思います。それは、実際のコーナーリングでヒール&トゥをやってみると、案外簡単だ、ってことです。

実は、ゆっくり減速しながら、低回転域でヒール&トゥをするほうが、強い減速をしながら高回転域のヒール&トゥをするより、ずっと難しいんです。(^-^;

にも関わらず、街乗りでの練習のほうがずっと安全で、たくさんできます。しかも、より高度なワザを身につけることで、確実な操作技術を得られるんですよ。

多少、燃費は悪くなりますが、きっちり練習してくださいね。ヒール&トゥは、コーナーリングには必須の技術、これができないとお話になりませんから……。

というわけで、今日の講義はここまでです。いや、疲れた顔をしてますね、まぁしかたないでしょう、なんだか大変そうな話ばっかりですからね。

でも、忘れないでください。

どんな技術も、基礎となる技術がきっちり身についてないと、将来苦労します。しかもここで説明したのは、基礎の中でも基礎、全て「できて当たり前」のことばかりですから……。

もし真面目に練習したい、という気持ちが少しでもあれば、ここはじっと我慢です、まずはこの壁を乗り越えてください。あとは少しずつ実戦に近い話になって行きますから。

じゃぁ、次回までに練習を……お願いしますよ、くれぐれも。(^^ 途中で嫌になったりしないでくださいね。

第三講: 荷重移動

みなさまお久しぶりです。どうですか? 基本動作は身につけましたか? 特にヒール&トゥが全然できない、っていうのは危険ですよ。ステアが回せないと車が運転できないのと同レベルに考えてくださいね。

……大丈夫みたいですね。じゃぁ、そろそろ少しずつ、実戦的な話に入っていきましょうか。

最初は「荷重移動」からですね、それでは……。

ちょっとでもドラテクの勉強をしたことがある人は、荷重移動、って言葉は聞いたことがあると思います。でも、すぐにピンとくる人は少ないんじゃないですかね。理屈ではわかってても、実践するとなるとちょっと……て感じじゃないかと思います。

でも、荷重移動はコーナーリング技術のいっちばん、根底にあるんですよ。全ての動作には荷重移動が関係していると言っても過言ではないです。

本当のところを言うと、ブレーキングもこの荷重移動を理解してから練習したほうがいいんですけどね、ただ、ブレーキは安全性とも関係があるんで、とにかく最初に「きっちりした減速」ができるようになって欲しかったんですよ。速度を超過していなければ、あとは何とでもなりますから。

で、です。

まず一つ朗報があります。荷重移動を覚えると、コーナーリングスピードが上げられます。

と言っても、勘違いしないでくださいよ。いきなり最初からスピードを上げて練習してはダメです。そうじゃなくて、荷重移動の練習をしていると、身についてくるにつれて、自然とコーナーリングスピードが上がってくるんですよ。そういう、自然な向上を目指してください。

ドラテクの目的のほとんどは、タイムを詰めるというより、確実にコーナーリングすることに重点が置かれています。その「確実」の領域が上がっていくことで、スピードも上がるんですよ。そこのところ、よ~~く、頭に入れておいてくださいね。

タイムを詰めるための技術、っていうのは、もっと後にやりますから。

前置きが長くなりましたね。じゃぁ、講義の内容に入りましょうか。

車の挙動を物理学的に計算しようとします。

車が加速したり減速したり、コーナーリングで遠心力を受けたり、そういうときの挙動を検討するとき、厳密に言うと、加速力は駆動輪の接地面に発生するし、慣性力は車全体にかかります。

こいつを一つ一つ計算をしてもいいんですけど、これをするととんでもない時間がかかります。高性能のコンピューターでも持ってこないと計算なんて終わらないですよ。

でも、物理学者は一つ、いいことを発見したんです。それは、慣性力に関しては、車全体ではなく車の重心だけに力が加わっていると計算すれば、車全体の挙動を計算できるんですよ。

あ、この場合、車は絶対に歪まない、剛体、っていう仮定をしないといけないんですけどね。でも、コーナーリングについて考えるときはこれでも十分なんです。

で、車の重心なんですけど、必ず地面より上にありますよね? ここが荷重移動、って言葉と関係してくるんです。

ここでちょっと、大きく話題を変えます。

このペンを見てくれますか?

私は今、ペンの一番下の部分を持っています。この状態で、ペンの上に、真横に力を加えます。こうやって、指先で押すんですよ。

私が加えた力は、ただ押すだけの力ですよね? でも、ペンはどうなりますか? 回転しませんか? 押す力が回転する力に変換されているわけです。

ペンが回転しようとする力のことを、回転モーメント、と呼びます。あ、これは今回だけで忘れていいですよ、もう出てきませんから。

じゃあ今度は、ペンの代わりにこの黒板消しを机の上に置いてみましょう。黒板消しは、右手で動かないようにしておきます。この状態で、黒板消しの一番高いところに、左手で真横の力を加えます。

黒板消しが動かないようにするためには、私が加えた力に対して、何かで抵抗しないといけませんね。抵抗する力のことを、反力、って言うんですが、この言葉も今回だけで忘れていいですよ。

真横への力に対する反力は、右手が担当してます。このとき、右手が産んでるのは真横方向の反力だけですね。反力の大きさは加わった力と同じです。左手で1、という力を加えると、右手も1、という力で抵抗しないと、黒板消しは動いてしまうんです。

じゃあこれで終わりか? というと、事態はそう簡単じゃないんです。私は今、黒板消しの上の部分に力を加えましたよね? これだと、さっきと同じように、回転モーメントが発生してます。つまり、黒板消しは回転しようとします。

実は、黒板消しを動かないように支えるためには、この回転モーメントにも抵抗しないといけないんです。そうしないと、黒板消しは回ってしまいますよ、わかります? 回転する力には、回転する力で抵抗しないといけないわけです。

でも黒板消しは動きません。じゃあ、何が回転モーメントを打ち消しているか。それはこの机なんです。

ちょっと、簡略化した反力図を書きますね。ほんとはいろいろ違うんですが、車の挙動を理解するのが目的だから、これでも十分ですよ。

私は、皆さんから見て右側から力を加えましたね? そうすると左回りりに回転しようとしています。

それに対して、机はどう抵抗したらいいでしょう? 答えはこう、ですね。左端には上向きの反力、右端には下向きの反力が発生すれば、右回りの回転モーメントが発生して、左回りのモーメントを打ち消してくれます。

ちなみに、右側が浮き上がろうとしているのはわかりますよね? 実際、力を大きくすると、黒板消しは回って、転んでしまいます。転ばないのは単に、黒板消しの重さが全体的に下向きの力を生んでいて、右側の浮き上がろうとする力を打ち消しているから、なんです。

肝心なのは、机から反力が発生する、ってことは、黒板消し側もそれだけ机を押してる、ってことなんです。

実を言うとこれ、構造力学の世界なんですよ。構造力学によれば、部材のどの部分を取っても、全ての方向からの力を合計すれば0にならなければなりません。ならなかったら、その部材は動いていってしまうんですよ。でもこういう話は難しいんで省略します。

だから簡略化しましょう。黒板消しの左側の部分は、机から押されているのと同時に、机を押してもいる、と考えてください。

混乱してきました?

でも、この図を見れば、一つのことがわかると思います。それは、右側から力を加えると、黒板消しの片側は下に押しつける、反対側には浮き上がる力が生まれます。

これを車の動きに当てはめてみましょう。

私の左手が触れている部分に相当するのは、車の重心です。黒板消しの下面が前輪と後輪ですね。右手の仕事は制動力にあたります。

こうして、ブレーキを踏んで車が減速しているとします。しかし、車には慣性力がありますから、車自体は前方に押される形になります。そうすると、こっちむきの力がかかりますから、前輪は地面に押しつけられ、後輪は逆に浮き上がろうとします。第一講でやった内容を力学的に説明しただけなんですけどね。

もちろん、加速中は前輪が浮き上がろうとしますよ。コーナーリング中は、外側のタイヤが押しつけられ、内側のタイヤは浮き上がろうとします。実際に浮き上がらないのは、車自身の重量が押さえつけているからですね。

これが、荷重移動を理解する第一歩です。ここまで、いいですか?

じゃあ、ちょっと休憩しましょうか。難しい話が多かったですからね……。

…………。

さて、そろそろ始めましょうか。

さっきの回転モーメントの話は、だいたい理解してもらえたと思います。でも、この話が走りとどういう関係があるか、ピンとこなかった人もいるかもしれませんね。

実は、このモーメントだけなら、そんなに問題にはならないんですよ。重要なのは、タイヤの摩擦力にあるんです。

誰でもわかると思いますけど、タイヤには限界、ってものがあります。横方向に関しては普段はしっかり地面に食いついているタイヤですけど、一定の力を加えると滑り出してしまいますよね? このことは説明しなくてもわかると思います。

食いつこうとする力は何から発生していますか? 摩擦力ですよね。摩擦力の大きさは、こんな簡単な式で表現されます。

摩擦力 = 摩擦係数 × 荷重

摩擦係数はよく、「ミュー」と言いますね。字で書くとμです。この言葉は聞いたことがあるはず。

荷重は、摩擦の起きている面に加わる力の大きさです。 この式を見れば、すぐにわかることがありますね。タイヤも摩擦で車を地面に食いつかせているわけですから、荷重が大きいほど、その能力が高くなるわけです。 もっとも、正確に言うとちょっと違うんですけどね。摩擦の理論っていうのは荷重と限界の摩擦力がこう、正比例していますけど、タイヤを横に押した場合は、タイヤの変形なんかが関係してきて、こう、だんだんと垂れ下がってきて、ある場所で平らになっちゃいます。タイヤが完全に限界になった、ってことですね。

まぁ、普通の状況下ではこのまだ立ち上がっている領域で走るんで、あんまり問題にはならないですけどね。

細かい話はいいです。とにかく今は、荷重を増やせば摩擦力も増す、とだけ考えておいてくださいね。

そして、タイヤにかかる荷重は、車の重さに、加減速やコーナーリングで発生する回転モーメントに由来する力が加えられたものになります。ここ、重要ですよ。

では、この摩擦の話を理解した状態で、次に行きます。

タイヤというのは基本的に、転がり方向にだけ進もうとします。横方向には摩擦が働いて抵抗するわけですね。

じゃぁ、ステアを切って前輪の向きを変えると、タイヤもその方向に転がっていくのか、というと、実はそうではありません。前輪はですね、向いている方向とは関係なく、真後ろから慣性力で押されているわけですよ。

とすると、実際に前輪が移動する方向は、前輪自身が転がろうとする方向と、後ろから押される方向の間、ということになります。

極端に言うと、前輪というのは常に、若干ながら滑っているんです、街乗りレベルでは気になるほどじゃないですけどね。この滑る量を「スリップアングル」と言うんですが、まぁとりあえずは、この言葉は忘れてもらってけっこうです。

重要なのは、前輪の進む方向が、車のノーズが進む方向を決定づける、ということです。

では、車速、タイヤ、路面が全部一緒だとしましょう。別に珍しい状況じゃないですね。でも、前輪の向きを同じにしてもも、前輪が進む方向を変えることができるんですよ、わかりますか?

前輪が転がろうとする方向は同じです。後ろから押される力も一緒です。でも、荷重の大きさによって摩擦力は変化しますから、タイヤの方向に転がろうとする力も荷重と一緒に変化するんです。

摩擦力が大きいほど、車輪が進む方向は、転がろうとする方向に近づいて行きます。大丈夫ですか? 理解しました? 別に難しいことは言ってませんよね?

さぁ、いよいよ話は佳境に入って来ました。

みなさん、いつも通り、車を走らせているところを想像してください。コーナーインします。ステアを切ります。

このとき、アクセルもブレーキも踏まないで曲がっているより、軽~くブレーキをかけて減速していたほうが、前輪に荷重がかかって食いつきがよくなって、ノーズを回しやすくなることがわかりますよね?

ここも大丈夫ですか? いっちばん、大切なところですよ?

荷重移動は、ドラテクの一番大切な柱の一つなんです。これが欠けていては、それは本当のドラテクとは言いませんよ。だから、ここできっちりと理解しておいてください。

じゃぁ、理屈はわかりましたね? 次の講義までに練習してきて欲しいんですが、そのとき一つ、注意して欲しいことがあるんです。

それは、実際にステアを切るときは、必ずブレーキを緩めてください。フルブレーキングの状態でステアを切ると、アンダーステアでコーナーの外側に突き刺さります。いまのところ、「軽くブレーキペダルに足を乗せている」くらいにしてください。なぜなのかは次回にやります。今は、荷重移動をするとどうなるか、というイメージだけをつかんでおいてください。

こうして、少しだけブレーキを踏んだままコーナーインするのが「ブレーキ残し」なんです。

やっと出てきましたね、この言葉。でも、実は本物の「ブレーキ残し」はすんごく難しいんですよ。どのくらいの強さで、いつまで残して行くか、永遠のテーマですよ。この微妙な加減が「それなりに」でもできるようになったら、その人は上級者と言ってもいいです。

もし将来、コーナーインの姿勢づくりに苦しんだら、思い出してください。ブレーキ残しの技術を洗練させていけば、その問題は解決するかもしれないんです。

前に荷重を移動する方法は、フットブレーキだけじゃないです。車を減速させるのはもう一つあります。エンジンブレーキですよ、忘れてませんよね?

急にアクセルを抜いてエンジンブレーキで減速し、荷重を前に移動してノーズを内側に向ける。この技術を「タックイン」と言います。ブレーキを踏むほどなじゃいけど、少しだけコーナーリングフォースを稼ぎたい、そんなときに使います。名前は違いますが、原理は一緒ですね。ただ、ブレーキに足を移す必要がないので、上手に使うことを覚えるといっそう速くなりますよ。

ここまで理解したら、もう一つの荷重移動を説明しましょう。ここまで来たら、こっちは簡単です。

車が定常円を描いている状況を想像してください。つまり、同じ速さで、一定の半径の円を描いているわけですね。

このときタイヤは、前方に転がろうとする力と、遠心力によって横に押される力の両方がかかっています。定常円なので、遠心力は一定ですね。これは状況に関係ありません。でも、タイヤが前方に転がろうとする力は、摩擦力によって生まれています。

ここでも出てきますね、摩擦力。では、摩擦力を変化させるのは? そう、荷重ですよね。

さぁ、ここで少しだけブレーキを踏んでみたとします。そうすると、前輪の摩擦力が増えてノーズは内側を向こうとし、後輪の摩擦力が減ってリアは外に向こうとして、旋回半径が小さくなります。あ、やりすぎると車がスピンしますよ、要注意です。

加速すると逆ですね。リアは内側に、ノーズは外側に向こうとして旋回半径は大きくなります。

この変化はスピードによるものじゃないんですよ。

とすると、コーナーリング中に姿勢を変化させることが可能なのがわかりますよね? この技術はすぐに活用できるわけじゃないですけど、頭のどこかに置いといてください。

それでは、今日の講義は以上ですね。そうそう、くれぐれも言っておきますけど、コーナーリング中に強くブレーキを踏まないでください、絶対に。あくまで軽く、今までの動作に「少しだけ追加」するだけです。しつこいようですけど、強く踏むと、4輪とも滑り出してアウトに突き刺さります。

新しい動作を試すときは慎重にやらないとだめですからね。

じゃぁ、今日の講義はここまでです。次回までに練習して来てくださいね。

第四講: タイヤの限界

さて、みなさま、練習の成果はどうですか? 少し実戦的な話が入ってきましたから、荷重移動の練習は面白かったんじゃないですかね。

どうですか? ブレーキ残しは自然にできるようになりましたかね? ブレーキングアンダーを出してるうちはダメですよ。

え? ブレーキングアンダーって? それは……今日やります。

そうそう、今日の話まで理解したら、いよいよお楽しみ、「ライン取り」に入っていきますから、気合いを入れて聞いてくださいね。

さて、今日はタイヤの勉強ですね。

最初に一つ、重要なお話をおさらいしておきましょう。

タイヤというのは、路面と一緒に回っている状態でないと充分な仕事ができません。ブレーキに負けてタイヤがロックする、つまり路面にそって回転しない状態になると、まぁ理由は色々あるんですが、タイヤは回転体ではなくただのゴムのかたまりになってしまいます。

タイヤが滑り出してしまう原因にはもう一つあって、こっちは単に、横方向の荷重に耐えられなくなった場合ですね。

これはブレーキをかけているかどうかは関係ありません。でも、今回はこの話は置いておきましょう。と言うか、そこまで横荷重をかけるのはただのミスだし、ここまでの講義の中では、そんな危ない状況になる練習はしてないはずですよね? そうですよね? ね?

そうそう、原因によらず、タイヤが横滑りを始めるのを「ブレークする」なんて言いますね。これは覚えておいてください。

4輪ともブレークすると、氷の上を机が滑っていくのと同じ状態ですよ。車体の向きに関係なく、前だろうと真横だろうと後ろだろうと、車体は慣性力に従ってまっすぐ滑って行きます。

雨の日にハイスピードでコーナーに入ったりすると、簡単にこうなります。もう制御不能、なすすべもなく壁に向かってつっこんで行きます。

上手い人は意図的に4輪とも流してたりしまして、よくパワードリフトなんて言いますけど、ミスしてこの状態に入ると、もうダメですね。ちょっとは立て直せるかもしれないけど、基本的には運を天に任せてじっとしているしかありません。

よく高速道路の土手とかコンクリート壁にスピンしながら突き刺さっていく車って見ません? あ、見たこと無いですか。まぁ、それがいちばんですね。雨のサーキットなんか行くと時々見られますよ。

ブレークが2輪だけの場合、まだ救いはありますけど、でも非常に危険ですよ。車体を支えているのは残った2輪だけです。上手に走れば立て直せるし、最初から予測して前輪や後輪だけをブレークさせてゆく方法もありますけど、どっちにしてもかなりビミョーな状態です。

こんな状態にならないよう、きっちりと曲がっていく、それがドラテクですから、よく注意してくださいね。

さて、みなさま、タイヤの仕事は、大きく分けて2種類あることをご存じですか? それは、横方向の荷重に耐えて「曲げる」仕事と、縦方向の荷重に耐えて「加減速する」仕事です。

どうですか? そんなことは当たり前だって? でも、きちんと考えていくと、ここには重要な問題があるんですよ。

まず、ちょっと考えてみてください。

タイヤが地面に接して、上から荷重がかかっていると、そこに摩擦力が発生することは……わかりますよね?

摩擦力が、荷重×摩擦係数だ、という話はもうしましたが、逆に言うと、荷重が一定なら、摩擦力も一定です。

あたりまえ? まぁ、話はここからなんです。

非常に単純な話をしましょう。

いま、車がフルブレーキングをしているとします。もうタイヤは限界いっぱいです。これ以上ブレーキを踏む力を強くすると、もうタイヤはロックしてしまいます。

つまり、タイヤには、縦方向の力が限界までかかっています。

しかし、ここで旋回しようとしたらどうなりますか? 縦方向の力と同時に、横方向の力もかかりますよね?

摩擦、という点から見たとき、縦方向と横方向の力は、あまり区別されません。つまり、もう限界いっぱいまで仕事をしているのに、さらに多くの仕事を強要される。

こうなるともう、タイヤはグリップ力を保てなくて、滑り始めます。もちろん、一気にブレーキが勝ってしまってロックもするでしょうし、もちろんブレークですよ。その後は……先ほどお話ししたようなものですね。

これまで私は、口を酸っぱくして、フルブレーキング中にステア操作をしないでください、と繰り返してきました。中にはもう、その理由に気づいている人もいるでしょうけど、ここで改めて強調しておきますね。

タイヤのできる仕事には限界があって、縦方向と横方向の仕事の合計が限界を超えると滑ってしまうんです。

だから、ブレーキで縦方向に力がかかっているときに旋回を開始したり、逆に旋回によって横方向に力がかかっているとき、ブレーキを踏む強さを誤ったりすると大変なことになるんです。

そうそう、今の話は、あたかもフルブレーキング中に、急に横力がかかったような話をしましたね?

後輪はこれでいいと思うんです。でも、前輪はもうちょっと複雑です。

というのも、前輪は方向が変わるからです。

さて……ちょっと想像してみてくださいね。

いま、前輪はこう、まっすぐを向いています。この状態では、縦の仕事だけですから、完全なブレーキングが可能です。

でも、ちょっと右に曲げたとします。タイヤの転がる方向は真正面ではなくなりますよね? でもタイヤは、後ろから慣性力で車の向いている方向に押されています。

力の向きが転がり方向と違います。ということはタイヤは、慣性力を抑えるためには、縦方向と横方向の両方の仕事をして、それを組み合わせないといけないわけです。

別の言い方をすると、旋回を始める前にもう、前輪には「横方向」の力がかかっているんですよ。

もしこのまま、フルブレーキングを続けたとしますよね? そうすると、縦方向の仕事は変わらないのに、横方向の仕事を上乗せされたことになります。

そうすると……もういいですね。

フロントがブレークしますよ。何らかの措置をしなければ、ステアはまったく効かず、あとはガードレールに向かってまっすぐつっこんでいくだけです。

ということは、わかりますよね? 後輪は旋回を始めないと滑らないけど、前輪は始める前に滑る。つまり、フルブレーキングからのステア操作では、前輪が先に滑り出すわけです。

ちなみに対処と言いましたが、ここでいちばん良いのは単に、ステアリングをまっすぐにするか、ブレーキを緩めるかです。どちらがいいかは状況次第ですね。

実は、この「前輪が滑り出す」現象は、ブレーキをかけなくても発生するんです。

理屈はわかりますね? 車体がまっすぐ進んでいる場合、後輪は縦に転がっているだけですから、限界について考える必要はありません。しかし、急激にステア操作をしたりすると、前輪は向きが変わりますから、タイヤには転がり方向、つまり縦だけでなく、横方向の力も受けることになります。

この横方向の力が限界以内なら、車は普通に旋回を始めます。みなさんが普通に操作している状態ですね。

しかし、限界を超えるとなにが起きるか。横方向の力に耐えられなくなって、前輪が滑り始めるんです、理論上は。

ま、ここまで乱暴な操作を実際にしたことがある人は少ないでしょうから、こんな経験をすることはほとんどないでしょうけどね。実際、ステア操作だけでそう簡単に前輪を滑らせたりはできません。でも、慣性力の大きい高速度域では、絶対に起きない、というわけではありませんから注意が必要ですね。

さて、話を少し戻しましょう。

こうしてタイヤの限界について理解してみると、本当のブレーキ残し、とはどういうものか見えてくると思います。つまり、フルブレーキングのあと、ステア操作をした結果、タイヤに加わる横方向の力を見越して、その分だけブレーキを緩めるわけです。そうして、縦と横の力の配分を考えながら、タイヤを限界まで使い切る。

実際にこれをするのはかなり大変ですよ。(^^; 少なくとも、前輪の接地感を微妙に感じ取るセンサーが身についてないと。まぁ、第三講まで熱心に練習してきた人は、そろそろその感覚がわかってくるころだと思いますけどね。

あ、最初に注意しときますよ。ブレーキを緩めながらステア操作をするわけですけど……なんと言いますかね、今の話で「少しだけ緩めればいいの?」と思った人は、ダメです。「ブレーキ残し」は、最初はあくまで、ブレーキに足を乗せている程度、で練習してください。タイヤって、けっこう簡単に限界を超えます。

だから、繰り返しますからね、今までの練習から大きく変わったことはしないでください。あくまで「少しずつ追加」で。

さて、ここまではブレーキの話をしました。

もうカンの鋭い人なら気づいているでしょうが、この話、加速の時にも使えるんですよ。

タイヤがギリギリまで横方向に耐えている状態でアクセルを踏むと、タイヤに加速力が加わりますよね? つまり縦方向の力です。そうすると、タイヤは限界を超えて……駆動輪がブレークします。FRならオーバーステアで、最悪スピンしますし、FFならアンダー出しながら旋回半径はどんどん広がってゆく。四駆に至っては、制御不能になってどこかに飛んでいってしまう……こともあります。まぁ、前後のタイヤの状況次第ですが。

そうすると、一つのコトに気づきますよね? コーナーリング中に、ガバッ、とアクセルを開いてはいけない、ってことに……。

第一講で私が言ったことを覚えていますか? コーナーリング中にアクセルを開けない、ってこと。理由、わかりました?

もちろん、最初からこういう練習をしてもいいんです。でも、アクセルとタイヤのグリップ力は、けっこう複雑な問題があって、一概に言えないものがあるんですよ。

というのもですねぇ、アクセルによる挙動変化の大きいFR車で話をするとわかりやすいんですが、まずブレーキングの終わりでまだ前に荷重が乗っている状態だったとしますよね?

この状態で、旋回しながらアクセルを開くと、リアに荷重が乗っていないから、後輪の摩擦力が減っていて、簡単にリアが滑るでしょう。

でも、ある程度減速していて、今度は旋回中、軽くアクセルを開いていた状態を想像してください。後ろに荷重が乗っている、この状態から急にアクセルを開くと、いわゆる「プッシングアンダー」を起こして、前輪が滑っていくこともあります。

つまり、後輪はまだ縦方向の力に耐えているのに、前輪は、ただでさえ摩擦力が減っているところにさらに、後ろから押されることでどんどん滑り出します。

逆に、後輪が先に限界に達してオーバーステアになることもありますが、どちらが顔を出すかは状況次第で、いまここでどちらだ、と断言することはできません。

どちらにしても、このあたりはイメージとして持っておいてください。知っているのと知らないのとではずいぶん話が違います。同時に、迂闊なアクセルワークは致命的だよ、とだけ覚えておいてください。

あ、急にアクセルを閉じるのもダメですよ、駆動輪にだけに減速力がかかって、また面白くないことになります。

ただし、タイヤの限界について理解したわけですから、そろそろ、コーナーの出口手前で軽~くアクセルを開くようにしてもいいですよ。詳しい話は次回に出てきますから。

さて。

タイヤの限界についてこうして理解してもらったので、ちょっとしたオマケの話をしましょうかね。

ドラテクの理論面について話をするときに出てくる単語についてです。

それが「フリクションサークル」というものです。

と、これだけ言われても、どういうものか、わかりにくいですよね……。

フリクションサークルは、その名の通り、円形です。

この図を見て下さい。

左の図が、フルブレーキの状態を表しています。このときにタイヤが生んでいる摩擦力ですね。ブレーキですので、後方への力を生んでいるだけです。

右の図が、減速しながら右へ旋回している状態です。横方向の力を作るためには、制動力を減らさないとダメだ、ということを表しています。

この、フリクションサークルという図は、タイヤの限界について考えるときにとてもイメージしやすいので、どこのスクールでも使っていますね。まぁ、頭に入れておいても損は無いと思います。

このサークルは摩擦力を表しますので、荷重が乗って摩擦力が増えれば大きく、摩擦力が減れば小さくなります。こんな感じですね。

これはFR車の図ですね。加速時は後に荷重が乗りますから、リアタイヤのサークルが大きくなります。減速時は前に荷重が乗りますから、フロントタイヤのサークルが大きくなります。

まぁ、イメージとして覚えておいて下さい。

ちなみに、実際のフリクションサークルは円形ではなくて、こんな形をしているようです。

これもまぁ、そんなもんだと思っておいてください。

あ~、そろそろ疲れが見え始めましたかね。

じゃぁ、最後にもう一つ、オマケのお話を追加しましょう。

ここでは基本的に、タイヤには荷重をかけた方が良い、と言っています。でも、ある条件下ではそうでもないんです。

よく、あまりスポーティでないFF車に、けっこう普通のサイズのタイヤをはいて走ってる、なんて極端な場合におきることがあるんです。が、ブレーキングで前輪に荷重をかけすぎたりすると、タイヤが完全に逝っちゃうことがあるんですよ。

以前、荷重移動のところで、横方向のグリップ力は必ずしも、摩擦には比例しないと言いましたよね? あれを思い出してください。

あまりに荷重が強すぎると、タイヤが完全に変形して、グリップ力を保てなくなることがあるんです。過荷重、なんて言いますね。

まぁ、普通にやってる限り、こんな状況に陥る心配はないんですが、そんなこともある、って話は覚えておいてください。こういう場合は、それ以上荷重をかけても無駄なので、むしろ反対側、ここではリアに荷重をかけて曲がりやすくしたほうがいい、ってことになりますね。

以上で、タイヤの限界については一通り終わりました。まぁ、なんだか、抽象的な話ですね。(^-^; とりあえずブレーキングの話はだいたい、わかってくれたと思いますから、イメージだけはつかんでおいてください。

それと、この話をすれば、一つの言葉を思い浮かべるかもしれませんね。それは「パニックブレーキ」です。

なにか危険を感じて、慌てて全力でブレーキを踏むと、全輪ロックして制御不能になります。雪の上なんかでは簡単にこの状況に陥ります。

ここで正しいのは、これまで勉強した「フルブレーキング」で最短の制動距離を得るか、ブレーキを緩めて車体を制御し、危険な状況を回避するか、です……普通は前者のほうがいいんですけどね。

ちなみに、こうしたロックを防止することで制御力を残そう、というのがABSです。気をつけておいてほしいのは、ABSの目的はあくまでコントロール性を残すことであって、制動距離は必ずしも最短にはならない、ってことです。ま、それはそれ、今回は置いておくとしましょう。ただ、強すぎるブレーキングは逆に危険だ、って話がここからわかると思います。

さて、今日の講義の内容は一通りおわりました……が、話のほうはこれでは全然終わりません。

が、それは複雑なので、また今度、ということで。

じゃ、今回の話は簡単なので、軽く練習してイメージを固めてきてくれればいいですよ。タイヤの挙動がわかってくれば、ライン取りの理論がわかるようになりますから。

というわけで、また次回、よろしくお願いしますね。

第五講: ライン取り、前半

あ~、みなさま、おそろいですね。そろそろ始めましょうか。

それではみなさま、お待ちかね、ライン取りの話になりました。ここを待ってた人、多いんじゃないですか?

そうです。ライン取りの練習が始まると、一段と走り屋らしくなりますよ。かなり実戦的な話ですからね。それじゃぁ……。

そうそう、ライン取り、ってわかりますよね? ようは、コーナーっていうのは道路だから一定の幅があるもんなんですが、この幅をどう使うか、ってことだと思って頂ければ。

車一台分の幅しか無ければ、ライン取りなんかなくて、単にブレーキとアクセルの操作方法だけになりますからね。良く言う「アウト・イン・アウト」とかですね。ま、なんとなくわかってもらえますかね?

ライン取り、って言葉、よく使うので覚えておいてください。

本格的な話を始める前に、ちょっと前置きさせて頂きましょうか。

ここまで疑問を持った人がいるかもしれません。普通、ライン取りみたいな話から始めるのが普通じゃないか、と思うんですよ、それをどうして、ブレーキングとか荷重移動とか、そちらから始めたのか。

単純に言いましょう。

ライン取りについて話すのは簡単なんです。それらしいラインがとれれば、少しはそれっぽく走れますよ。でも、練習になるか、というと別の話なんです。

そもそも、「速く走れる」ラインを教えてもらったとしますよね、でも、どうしてそれが速いのかわかっていないと、そのラインに上手に乗せることもできないし、いろんな姿勢制御の練習になんかならないんですよ。

これまでやってきたのは、そうしたラインの組み立ての背景になるような色々な理屈です。一つだけ説明していないことがありますが、それはまぁ、いいとしましょう。

コーナーリングでは、ライン取り、というものが最初にあるのではなくて、車がさらされる色々な現象を上手にコントロールしているうちに、一つのラインというものが生まれてくるのです。そのことを忘れないでくださいね。

それから、ここいらで重要な話を一つ。それは、「荷重が残る」という概念です。これは「荷重移動」でやってもよかったんですが、まぁ、ここでやってしまうとしましょう。

ブレーキング、したとしますね? そうすると前に荷重が乗って、車は前のめりになります。ここでブレーキを話すと、この前お話しした、制動力と慣性力からくる回転モーメントは消えるので、荷重は消える、と思いませんか?

確かに理屈の上ではそう思えるかも知れません。でも、実際の車はそうじゃないんです。

それは、車自身が前のめりになっていることを思い出してください。

少なくとも車の重心は通常より前に移動してますから、重心の変化から多少は前に荷重がかかりますし、なにより、前のめりになった車はもとの姿勢の戻ろうとして、フロントのサスペンションが車を押し上げようとしています。

だから、ブレーキによる荷重は、ブレーキを放しても、まだ前輪に残っています。

これは左右の場合も同じです。

そうそう、よく固い足回りだと荷重移動が難しい、と言いますが、それはこの「荷重が残る」ことと関係しているんですね。固いほど、荷重が残る時間は短くなる。そうすると、きちんとした荷重移動が欠かせなくなるわけです。ま、これは余談ですね。

では本格的な話に。

まず、コーナーリングは5つのフェーズに分けられます。

直線でのブレーキング、減速しながらのコーナーイン、ニュートラル状態での旋回、加速しながらのコーナーからの脱出、直線での加速です。

これを、順を追って考えてみます。

ただし、一つのことを忘れないでください。ステア、ブレーキ、アクセル、どれも、急激な操作をすると車の挙動が乱れる、という事実です。このことを常に念頭に置いてくださいね。

最初は直線でのブレーキングです。

ここは簡単ですね。最大の減速、というのは一つしかありませんから、特定の地点で特定の速度まで減速しろ、という課題を与えられれば、最適なブレーキング開始地点というのは一つしかありません。

そうすると、ここで言えるのは、ひたすら単純に練習してください、ってことですね。

問題なのは、どの地点で、どのくらいの速さで、どんな経路で進入するか、ってことなんですけどね。

ところで、コーナー脱出時のスピードは当然、進入前の直線でのスピードよりも低いわけです。その結果、シフトダウンをしなければならない場合もありますよね? 例えば、うちのFCで時速100キロで進入し、脱出時が60キロなら、進入は3速、脱出は2速で走らないといけません。

この時のシフトダウンは、直線でのブレーキング時にすませてしまいます。そのために使うのがヒール&トゥです。もうやってる人も多いでしょうけど、かまいませんよ。まだやってなかったら、コーナーインまでにヒール&トゥでシフトダウンする感覚を身につけておいてください。まぁ、今まで練習してもらってるわけですから、身につくのはすぐですね。

次のフェーズはコーナーインです。

ここでは、前々回に紹介したブレーキ残しを使います。ステア操作が始まると同時にブレーキをサッと緩め、軽く減速しながら、だんだんとステアを切り込んで行きます。

このとき、車体はコーナーの一番外側から、クリッピングポイント、つまりコーナーの一番内側に接する場所を目指して内側に切り込んで行きます。「アウト・イン・アウト」の、最初の「アウト」から「イン」に入っていく部分です。

ブレーキを残すのは、前に荷重を乗せて旋回しやすくするためですね。

残す量は、ステア操作によって切り込んだ量によって決まってきます。切り込むほど、ブレーキは緩めてやらないといけないわけです。また、進入速度が高いと、姿勢を保つためにはブレーキは強く踏めない、という問題もありますが。

このあたりはもう、練習してますよね? だいたい感覚はつかめていると思います。

こうして、ある舵角に達するまで、静かにステアを切っていきます。どのくらい手前から切り始めるか、という問題はありますが、このあたりは練習で確かめていくしかありませんね。

開始位置がコーナーの奥になるほどたくさんステアを切り込まないといけません。ので、限界の速度は下がって行きます。手前からのブレーキングは増やさなければならないし、コーナーの通過速度も低くなります。

しかし、あまりに手前すぎると、コーナーインでタイヤの性能を使い切れないことになりますから、すごく無駄で、タイムも縮まりませんよ。

この練習するとき、一つのことを意識してください。それは、コーナーインの動作の間には、「常にステアを動かしている」ことです。もちろん、じわっ、と切り込んでいって、常にその舵角を増やしてゆく。戻しちゃダメですよ? だいたい同じくらいの速さで回す、って意識を持っておいてください。

慣れてくれば、実は少し違うことがわかるんですが、今のところは、意識は「同じ速さ」で切ってゆけば十分です。

そのまま次の動作に移れたら成功ですね。切り方が悪くて、途中で止めたり切り足したりする必要が出てきたら、それは失敗、ということです。

なぜ同じ速さなのか、というと、どこか一箇所でも速くステアを切る場所があると、その部分に進入速度が支配されてしまって、その他の部分が無駄になってしまうからですよ。荒っぽい操作はダメ、というのはわかってますよね? どの部分も均一に操作できるようにしてください。これが、コーナーリング全域で常にタイヤの性能を使い切るコツです。

次がニュートラル状態での旋回です。ある程度車速が落ち、ステアを切り込んでやると、車は充分な旋回力を持ちますから、それ以上のブレーキ残しは不要になります。

それに、あまりに荷重を前に移しすぎると、荷重が残っていて、次の動作に移るときに姿勢が崩れてしまいます。

ステアをさらに切り込んでやる必要があるかどうかはコーナーの深さ次第ですね。切るときも、コーナーインの続きとして、同じ速さで、じわっ、と足すことを心がけてください。

ここでは、ブレーキはやめ、アクセルを軽く踏んで、加速も減速もしない、「ニュートラル」な状態にしてやります。まぁ、短いコーナーだとこの状態でいるのはごく短時間ですから、あまり意識することはないかもしれませんね。ロングコーナーやヘアピンなんかでは、この状態での姿勢制御がある意味、鍵になってきます。

普通はこの状態でクリッピングポイントを通過する、と言われています。もっとも、この話は別の問題もありますから、ここでは、そんなものかな? 程度に覚えておいてください。「アウト・イン・アウト」の「イン」ですね。

この状態がいちばん車速が落ちています。

そのコーナーをクリアするのにどのくらい減速する必要があるか、経験を積んで見極めてください。そうすれば、このフェーズに至るまでの減速量がわかってくると思います。あとは、その速度目指して少しずつ詰めていくだけですね。

ここをすぎると、コーナーの出口が見えてきます。ここから加速です。

でも、ちょっと注意してください。

今、タイヤは横方向に限界いっぱいまで仕事をしています。この状態で加速すると、駆動輪側がブレークします。

ならば……どうすればいいか、わかりますね?

ステアを少し戻してやる必要があるわけです。

逆に言うと、ステアを戻し始めるまでは加速してはいけない、ということですね。

もちろんこれも、正確には少し違います。実際にステアを戻し始めるのは加速が開始されてからです。

が、これも車の姿勢作りと関係しますので、今は、そんなものかな? とだけ考えておいてください。

この状態で加速できる限界は、ステアを戻すほど高くなります。車によっては、完全に戻さなくてもフル加速が可能でしょうね。アンダーパワーの車にありがちです。

パワーがあると、フル加速状態になるまでの時間がどんどん延びていきます。このあたりのアクセルワークが命ですね。

そして、覚えておいてください。ステアは少しずつ戻してゆくわけだから、アクセルも、それにあわせてだんだんと踏み込んで行きます。

どのくらい踏めばいいか、どんなふうに踏めばいいか、それは練習で身につけてください。そうそう、出るときも、ステアを戻すのは、じわっ、と同じ速さでですからね。

ステアを戻しきったときにコーナーの外側にいたら成功ですね。まだ外にいなかったら、コーナーリング速度をもっと高くしたり、加速を強くしたり、ステアを戻すのをゆっくりにしたり、色々試してください。

逆に、外に膨らんでしまってステアを戻しきれず、アウト側からイン側に車体を引き込まざるを得なくなったら、コーナーリング速度を下げたり、加速を弱くしたりする必要があります。

これが「アウト・イン・アウト」の最後の「アウト」ですね。

最後の加速は簡単ですね。もう車体はまっすぐ前を向いていますから、思う存分加速してください。

これを図に書くとこうなります。どうですか? これまで練習してきたことがあるから、簡単に頭に入りますよね?

さて、ここからは完全に余談です。

こうして綺麗なコーナーリングをすると、自動車の軌跡は円ではなく、ある特殊な曲線を描きます。直線部からコーナーの頂点まで、だんだんと曲率が大きくなって行くこの曲線を、クロソイド曲線、と言います。

この曲線はジェットコースターの宙返りがきっかけで開発されたんです。

初期の宙返りジェットコースターは、レールが平らな部分からいきなり円の形になっていたんですよ。

レールの曲率はそこを走るジェットコースターの回転を決定します。つまり曲率が0の場所では当然、ジェットコースター自身は全く回転していません。レールが円の部分では、一定の速さで回転しています。

その境目では突然、急激に回転が変化します。

回転の様子が変化する、ってことは、回転方向に加速する、つまり回転モーメントがかかる、ってことです。あ、またでてきましたね、回転モーメント。この概念、わかりますかね?

しかも、ごく短時間で一定の回転に達するわけだから、その変化も急激です。当然、ジェットコースターにもその乗客にも大きな回転モーメントがかかります。

このため、むち打ちになる客が出てきたんですよ。それで、曲率が徐々に変化する曲線、というのを開発した。それがクロソイド曲線です。

この様子は、車が徐々にステアを回しながらコーナーリングしてゆく様子と同じなので、道路の設計でも実際に使われています。

クロソイド曲線は、理屈は簡単なんですけど、実際に描くとなるとものすごい複雑な数式が必要なんですよ。(^-^; 私は数学が苦手なので、ここではちょっと勘弁してくださいね。

細かいことは、すみませんけど、yahooあたりで「クロソイド曲線」「Script」あたりで検索してみてください。いいサイトがいくつかあいりますからね……。

閑話休題、ですね。話を戻しましょう。

今回なんですけど、ここまで一気にコーナーリング理論を展開したわけです。まだ基本的な部分だけですが、それでも、実際に練習するにはどうしたらいいかわからない人も多いかもしれませんね。

だから最初は、2番目のフェーズ、コーナーインの練習をしてください。ブレーキ残しからクリッピングポイントに進入する部分ですね。そして、そこから静かに加速してコーナーを脱出してみる。後半はゆったりでいいです。

ここで肝心なのは、加速時に十分余裕を持つことですね。

こんなに? というくらい、余裕のある加速を心がけてください。この感覚がつかめれば、コーナー手前の減速がどのくらい必要か、自然に見えてきます。

ある程度できてきたら、今度は加速の練習ですね。加速の限界を探ってください。

車にもよりますが、簡単にフル加速できたら、それはコーナーインで余裕がありすぎたせいかもしれません。

こうして、コーナーの前後の挙動がつかめてくれば、あとの課題はコーナーインとコーナー脱出のバランスをどうするか、ということになりますね。

前半を押さえ込めば加速が容易になるし、後半を諦めれば高速でのコーナーインが可能になりますから。そのあたりの話はまた今度しましょう。

これで、ライン取りの一番基本的なことはもう、説明し終わりました。最低限覚えておいて欲しいことは、あと一講で終わります。

今回は、美しいライン取り、というのがどのようなものか、その感覚をつかんでもらえればいいでしょう。そうすれば、ようやく次の段階に進みますからね。

ただその前に、一つ、お願いしたいことがあります。

ライン取りの練習が始まると、コーナーの入り方がなんとなく、見えてくると思います。だんだんとコーナーリングの感覚ができてくる。

そうなったら、あることをしてください。

それは、街乗りでも、コーナーリングを意識した動きをしてほしいんです。

あ、対向車線を使ったりしちゃだめですよ? あくまで安全運転で、もちろん道路交通法は守って。

コツは、とにかくステア操作を「ゆっくり」すること。切るときも戻すときも、常に同じ速さで、できるだけ長い時間、操作していることを意識してください。

こうした操作に慣れてくると、どのくらいの角度からコーナーに進入したらいいか、だんだんとわかってきます。

その位置がわかってくると、もしかして驚く人もいるかもしれませんね。コーナーのはるか手前から操作を始めないと間に合わないですから。

忘れないでくださいね、走り屋にとって、日々の街乗りも練習の一環ですから。

じゃぁみなさん、いいですか? それではしっかり練習してきてください。では。

第六講: コーナーリング中の姿勢制御

みなさま、お久しぶりですね。どうですか、ライン取りの練習は。なんだかサマになった感じで、楽しくなって来たと思います。少なくともタイムは上がったんじゃないですかね。

今日は、基礎部分を形にするための仕上げです。

ここが終わると、独立した一つのコーナーを綺麗に走るための最低限の知識が身につくことになります。

ま、そんなに難しくないですし、ここまで真面目にやってればすんなり頭にはいると思いますから、気楽に聞いてくださいね。

独立していないコーナー、つまり複合コーナーの話は、次の講義で少しだけやりますから。じゃぁ、始めましょうか。

前回までやってきたことは、とにかくコーナーをきちんと抜けてゆく、基礎技術です。これだけできれば、まぁ、普通のコーナーはある程度安定して抜けられると思います。

でも逆に言うと、これだけだと応用が効かないんですよ。

簡単に言うと、思った通りの姿勢でコーナーリングできなかったとき、どうやって修正するか、って話が抜けているんです。

もっとも、この話はこれまでのおさらいみたいなものです。ただ、系統だって話したことがないので、こうして一講設けているわけです。

だから、ここで説明したことはもう、理解しているとか、感覚的につかんでいる、なんて人もいるでしょうね。そんな人はもう、かまわないですよ、軽く聞き流してください。

さて、最初に一つ、用語を説明しましょう。

これまで、アンダーステア、オーバーステアという用語については、あまり細かく説明してきませんでしたが、ここからは大切になるので、その意味を説明しておきましょう。

正確な説明をするためには、スリップアングルという言葉を理解してもらう必要があります。 タイヤは基本的に、縦方向、つまり転がり方向に進もうとすることはわかりますよね? だからこそ、タイヤは車を横滑りさせず、ちゃんと前に進ませようとするわけです。

しかしですね、タイヤは常に縦方向に転がっているわけじゃないんです。横Gがかかると、どうしても横に滑ってしまいます。

このとき、タイヤの方向と、タイヤが実際に進んでいる方向の差、この角度がスリップアングルです。

スリップアングルをイメージするのは、ドリフトの時の後輪がわかりやすいですね。

ドリフトは明らかに、後輪の向きと、後輪が実際に進んでいる向きが違います。だからドリフトなわけです。

この角度がスリップアングルですね。

スリップアングルは当然、前輪と後輪で別々に考えないといけません。わかりますよね? 後輪は車体に対して固定されていますけど、前輪はステア操作で向きが変わりますからね。

それに、荷重の乗せ方とかでも変わってきます。

細かく言うとアライメントなんかも影響するから4輪とも違うんですが、まぁ、ここではその話は横に置いておきましょう。

で、ようやくアンダーとオーバーが出てきます。 アンダーステアとは、前輪のスリップアングルが増大した状態です。

感覚的に言うと、ステアを切っても車が曲がっていかない状態ですね。当然、想定した軌道より外側を車体が進んでしまいます。

これまで散々練習してきた人なら、この表現でイメージはわかりますよね?

それに対してオーバーステアとは、後輪のスリップアングルが増大した状態です。感覚的には、巻き込む、つまり想定したより車体がインの方向を向いてしまいます。

ようは後輪が滑ってるわけですが……。でも、なんとなくイメージがわかると思います。

このことを頭に置いてもらった上で、話を進めましょう。

みなさまはもう、ブレーキング中の姿勢制御については、ある程度の感覚は身についてると思います。

まず、ブレーキが強すぎる場合についてです。

みなさんの頭にあるのは、ブレーキが強いほど、ステアはまっすぐにする必要がある、ってことですね。それを無視してステアを切ったままブレーキを強く踏むと、ブレーキングアンダー、つまりブレーキが原因でアンダーステアになり、旋回していかない状態になってしまうわけです。

一般的には、この知識だけで十分正しいですし、みなさんもこういう状況を防ぐためのいろいろな練習をしてきたと思います。

こうした状態から復帰するにはどうしたらいいかというと、選択肢は2種類ありますね。ステアをもどすか、ブレーキを緩めるか、です。このあたりは一度説明しましたが。

どちらがいいのかは状況次第でしょう。とにかく減速したいなら、ステアをもどしたほうがいいと思います。旋回したいならブレーキを緩めるべきですね。

どちらにしても、こんな状態になった時点で、あまり面白くない結果が待っているでしょうけどね。

逆に、ブレーキが弱すぎる場合、あるいは全然踏んでいない場合、というのもあります。

この状態では、荷重は前に乗っていませんから、前輪はあまり食いつかず、車の旋回能力は下がります。

もし、ちょっとだけ鼻をインに向けたいな、でも車速が高くてうまく曲がれそうにないな、と思ったとき、軽くブレーキを踏んだり、アクセルを離してエンジンブレーキを効かせたりすれば、鼻が「スコッ」とインに入って、けっこう気持ちいいですよ。上級者にはおなじみのワザですね。

そうそう、アクセルオフで曲げるのは「タックイン」と言いますけど、これは前にも説明しましたよね、覚えていますか?

ブレーキングでは、注意しないといけないことがあります。

荷重が前に乗っているから、リアが食いつかない状態にある、ってことです。

FRやMRみたいな後輪だけで駆動している車なんか、ブレーキで前に荷重を集めたまま、その荷重が残った状態でいきなりアクセルを踏むと、後輪が滑り出すことがあります。ドリフターにはおなじみの挙動ですね。

もっとも、そのアクセルが適度なら、後輪が軽く滑ったあと、加速力で後輪に荷重が乗ってグリップ力を取り戻します。こうやってブレーキ、ステア、アクセルの3つを素早く操作することで、鋭い方向転換ができたりしますよ。

上手に後輪を食わせるために、アクセルを緩める場合なんかもありますね。

こういう動作をテールスライド、って呼びます。けっこう難しいですけど、タイトコーナーを綺麗に抜けて行けます。車の動きに慣れてきたら、いちど試してみてください。

ただし、一時的とは言えオーバーステアを誘発しているわけですから、広い場所で安全を確認してやってください。

話が逸れましたね。

前荷重で後輪が流れ出す現象は、駆動輪に関係なく発生します。ただ、対処方法が少し違います。

後輪駆動では、軽くカウンターを当て、アクセルを緩めながら姿勢を保ちます。ただし、後輪のグリップ力が戻る直前にカウンターを戻さないと「おつり」をもらってアウト側に突き刺さります。

前輪が駆動しているFFと4WDでは、過剰なカウンターは御法度です。少しだけカウンターをあて、基本的にアクセルは緩めず、駆動力でフロントを外に引っ張り出します。

このさい、フロントが動き出すと同時にカウンターをもどさないと、盛大なおつりをもらって、後輪駆動のおつりよりもひどい状態に陥ります。慣れないFF乗りがよく経験しますよね。

どっちにしても、この挙動を上手に使うと高い回頭性を生みます。車体が行きたい方向を向いていればアクセルを踏めますしね。しかし同時に、ちょっとしたミスでリアが滑ってひどいオーバーステアを起こし、そのままスピン、なんて結果にもなります。

この「おつり」とは何か、ということを説明しましょう。

リアが滑っている状態では、カウンターをあてています。カウンターは、リアと同時にフロントも外に逃がすことで姿勢を制御しているわけです。

ここでリアがグリップ力をとりもどしたとします。たとえばアクセルを緩めた時などですね。

そうするともう、リアは逃げて行きません。

その結果、フロントが逃げるぶんだけが残ります。車はいきなり、前輪の向きにあわせた方向に急激に回転します。

見た目には、コーナーの出口で車体を左右に揺らしているのがそうです。別名「タコ踊り」ですね、ちょうどこんな感じで動きます。(ここをクリック)

どうですかね、未経験の人はピンとこないかもしれませんけど、ほんとにこんな動きをするんですよ。まぁ、この絵はかなり強調していますけどね。

実を言うと……私、一回やってます。(^^; というか、これで事故っちゃいました。そのときは山道を低速で普通に走ってたんですけどね。みなさん、凍結防止の砂ってけっこう滑るんですよ、気をつけましょうね。

おっと、また話が逸れましたね。

繰り返しますけど、ここらへんは、とにかく理屈だけ頭に入れておいてください。そうすれば、走っているうちに何かが見えてくると思います。あとは慣れですね。

じゃぁ、加速はどうか、ってことですね。

加速はちょうど逆で、リアに荷重が乗ってます。ということは、フロントは食いつかない状態になっているわけですよ。

非常に旋回しにくい状態にあることはもう、わかってもらえると思います。

基本的には、とにかく加速時にはステアを切りすぎない、ということを意識していればOKです。あまりに切りすぎると、摩擦力が減っているところに無理な力をかけて、本当に前輪が滑り出すことにもなりかねないですよ。後輪駆動車や4WDに多い、プッシングアンダーというやつですね。

FF車は、プッシングアンダーにはなりませんが、前輪のグリップ力が不足してアンダーステアになることは同じです。あまりにアクセルを踏みすぎると駆動力でタイヤが滑り出し、いわゆるパワーアンダーになります。

これに対処するとしたら、アクセルを緩めるのがいちばんかと思います。まぁ、状況によってはステアを切り足してやってもいいんですけどね。

とにかく、アクセルを踏むのとステアを戻すのを常に一組で考え、ステアを戻すことを前提とした運転をしていれば、アンダーステアは防げます。

実は後輪駆動では、アンダーを打ち消すために一気にアクセルを踏んだりクラッチを蹴ったりして、リアのグリップ力を一時的に失わせて方向を変えるテクニックもあるんですよ。

フロントへの荷重移動を組み合わせることもあります。少しリアが滑ったら、アクセルを適度に緩めるとグリップ力が戻ってちゃんとコーナーリングします。でも、緩めすぎるとフロントが食い過ぎて、今度はリアが反対側に滑って行くんですよね。慌ててアクセルを開くと、余計にリアが滑ったりして、けっこう難しかったりします。

そうそう、某マンガでステアから手を放して車を左右に振るシーンが出てきますけど、この理屈を利用しているわけです。ここらへんの独特の挙動が、実はFRの人気の理由だったりするんですよ、アクセルだけで車を左右に振り回せる、っていうのが、加速時の挙動に自由度を与えているんです。逆に言うと、色々と難しい、ってことでもあります。

さて。

もう一つおまけにとして、ロール時の挙動について、注意点を説明しときましょう。

ここでちょっとおさらいです。ロール、ピッチ、ヨーの三つの用語です。

前にもいちどやりましたけど、改めて説明しておきますね。

まず、車の前後の軸を中心に回転するのがロールです。これはよく聞く言葉だから、すぐにわかりますよね。絵で描くとこんな感じです。

ヨーは、車の上下の軸を中心に回転するものです。旋回中は必ずヨーが発生しています。絵で描くとこうですね。

ピッチは、左右の軸を中心に回転するもので、まぁ簡単に言えば、ブレーキをかけてノーズダイブしたり、加速してリアが沈んだりするのがピッチです。絵で描くとこうですね。まぁ、ピッチは今回はあまり使いませんけど、一応、説明しておきます。

とりあえず、ロールとヨーを頭に入れておいてください。

いきなり難しそうな話か始まりましたが、内容の説明自体は簡単です。

というのも、ロールやヨーが発生しているときに加減速するとどうなるか、という話だけだからです。

車というのは、真っ平らなストレートを走っているときはわかりやすいです。問題なのは、加減速時やコーナーリング時なんです。

とは言っても、普通にコーナーリングしている限り、そんなに心配ありません。問題になるのはS字コーナーみたいなところです。

こういうところでは、ロールやヨーが発生している最中に次の動作を要求されますよね。

ちょっと想像してくださいね。

S字の最初のコーナーを抜けつつあるとしますよ。これは右コーナーとします。次は左コーナーです。

右コーナーを抜け、その左コーナーにそなえてステアを左に切り、鼻先を左に向けようとして軽くブレーキを踏んだとします。

綺麗に鼻が左に入ってくれるといいんですが、実は入らないことがあるんですよ。気づいてる人はもう、気づいてますよね?

右旋回の真っ最中だと、ブレーキを踏んだ途端、鼻が右に入っていきませんか? この動き、かなり戸惑わされることになると思います。

どうしてこんな現象がおきるのか。

実を言うと、私も細かいところは説明しきれないんですよ。車の挙動というのは、いくつもの力、慣性力や遠心力なんかに、タイヤのグリップ力や前輪の向きなんかがいろいろに絡み合って、その合計で決定されますから、どの力がどのくらい働いて、という理屈を一つ一つ埋めていかないといけない。

でも、これをやってもあまり意味がないので、むしろ身体で覚えてもらうのが一番ですね。安全な場所で少しやってみてください。

しばらくやってると、どういう条件下でこういう状況がおきるか、だんだんと理解できるようになってくると思います。

一つは、先ほどの例だと、右コーナーでの左右の荷重移動、左サイドへの荷重が抜けきらないうちにブレーキを踏むと、鼻が右に入りやすい、ということです。

もう一つは、ヨーイングモーメントですね。右方向に旋回しようとするヨーイングが完全に収まらないうちにブレーキを踏むと、ヨーイングが強調されてしまうんですよ。

まぁ、主に効いてくるのはロールのほうだと思っておいていいですけど、ヨーが無関係というわけでもないんですよ。

これを防ぐためにはどうすればいいか、わかりますよね?

ブレーキングなりタックインなりは、右コーナーを抜け、左側への荷重移動が収まってからでないと安定しない、ってことです。

ということは、S字コーナーのような場合は、コーナーとコーナーの間に、姿勢を建て直すための一定の距離が必要になるんですよ。

ちなみに、前輪と後輪では、こうして振り返し時の反応が少し違います。なぜなら前輪は、進行方向に向けて向きを変えるからです。

前輪は、ステア操作にあわせて、ステアを向けた方向に即座に移動しようとします。

しかし、後輪の動きというのはですねぇ、常に前輪の動きにひっぱられてから発生するんですよ。

つまり、一瞬遅れてついてくるんです。

さっきのS字コーナーでは、一瞬ですが、前輪は左に振ら、後輪はまだ右に行こうとしている、というアンバランスが発生します。

ステア操作のタイミングや、場合によってはブレーキなどを組み合わせてやると、車体がスピンすることすらあります。。

まぁ、そこまでひどい状態に陥ることは滅多にないですけど、この現象を利用した動作があるのは知ってますか?

はい、そこの人。そうです、ドリフターにおなじみの「フェイント」ってやつです。

よく、左コーナーなのに、最初に右に車体を振ってやる動作がありますよね? このフェイントをすると、普通よりもずっと簡単に後輪が滑るんですよ。

上級者になると、鼻の向きを変えるためにグリップ走行でも使ったりします。

でも、一つだけ注意しておきますね。ドリフトやスライドのコントロールがきちんとできる人が、意図的に尻を振り出すようなことをしないかぎり、フェイントには意味がありません。

時々、スライドもできないのにフェイントをやっている人がいますけど、今すぐやめてくださいね。まったく無意味だし、変な癖がついてしまいますよ。コーナーインではごく普通に、直進からコーナーの方向にステアを切っていくようにしてくださいね。

でも、安全な場所でこの理屈をきちんと勉強しておくことは意味があります。意図的に車体を左右に振って、どんな現象が起きるか体験してみておいてください。

ちなみに、最初のフェイントが強すぎると、左に曲がろうとしてリアを右に振ろうとしているのに、その流れが止められずに制御不能になることもあります。フェイントはかなり微妙な操作ですから、このあたりを体感しておけば後々役に立つかも知れませんね。

ロール時の挙動変化はほかにもあります。

アクセルを開いた場合がなかなかすごいんですよ。

これもブレーキと、基本的には似ています。ハンドルを切り返したときに急激な加速をすると、車体は変な動きをしますよね。

私はFR車なんで、FRで説明すると、ステアを右に切った状態から左に切り返したとき、アクセルを踏むのが速すぎると、後輪が左に流れてしまって、次の左コーナーにぜんぜん入れない、なんてことがおきたりします。

イメージはわかりますかね? これはですねぇ、左にステアを切った瞬間は、まだ車体は右に行こうとしているんですよ。そこでアクセルを開くと、駆動輪、つまり後輪のグリップ力が低下して、後輪だけが右に向こうとするヨーイングに負けてしまうんです。

逆に、アクセルを開くタイミングを少し遅らせて、尻も左に振れつつあるときを見計らってやると、こんどは、急激に左にヨーイングする動作が強調されて、尻は右に流れ、鼻は左に入り込んで行きます。上手にやるとドリフトになります。

FF車だと、これが前輪が右に飛んでいってしまいますけど、普通はこういう操作はしないので、あまり意識することはないかもしれませんね。四駆は、状況次第なのでなんとも言えません。荷重の乗り方や足回りのセッティング、その他諸々の要素によって、FF車とFR車、どちらに近い動きをするかが変わりますから。

これを避けるための考え方は、ブレーキと一緒ですね。右から左に移るなら、右方向への旋回動作が終了し、左にかたむいた状態が解除されるまでアクセルは踏まない。踏むときも慎重に。

ここらへんも、少し体験しておいてください。もちろん、安全な場所で、ですね。

これらの現象に共通しているのは、とにかく、車のロールの状態が重要になる、ということです。

ところで、皆さんの中には一つのことに気づく人もいるでしょう。

ロール量が変化する速さ、つまりロール速度は、車の足回りに影響される、ということです。

柔らかい足回りほど、大きくロールする上に、そこからの立ち直りに時間がかかります。固い足回りほど素早く立ち直りますね。

とすると、柔らかい足回りでは、こうした「不安定な」状態に長くさらされる、ということになります。

本当に走り込んでくると、こうした時間が非常に無駄に感じられます。実際、無駄なんですよね。普通のコーナーリングでも、コーナーのかなり手前から動作を開始してやらないと綺麗に抜けられなかったりしますし、コーナーの出口でなかなか加速できなかったりして。短いS字なんて最悪ですよ。

でも、ですねぇ、逆に言うと、ある操作に対しての姿勢の変化を体感する時間が長い、ということでもあるんですよ。

どの状態で、どんな操作をすれば、どんな現象がおきるのか。柔らかい足回りのほうが、それを研究し、体験するには都合が良いんです。固い足回りだと一瞬で通り過ぎてしまうこの状態でも、柔らかい足回りなら長い時間存在しますから。

わかりますよね?

もし、足回りをいじっている人で、ロールによる姿勢の変化がぜんぜんわからない、という人は、いちど、足回りの柔らかい、もっと言うならノーマルの足回りで運転してみてください。最初は怖いかも知れませんけど、ロールという現象がどんなものなのか、簡単に体感できますよ。

さて、車を転がすときに最低限、知っておかなければいけない知識については、今回までです。

これまでの話を一通り理解して、ある程度練習すれば、車を思った方向に走らせることができるようになると思います。

こういう挙動は、そのときの荷重の乗り方やステア操作、アクセル操作なんかによって色々に変化します。今のところ皆さんは、極端な場合はどうなるか、それだけ簡単にイメージしておいて、そういう状況に陥らないようにしてください。

それらを上手に「利用する」のは、もっと車に慣れてからですね。それより、もっと基本的な動きをきちっとイメージして、状況に応じて正しい姿勢を作りながらコーナーリングできるようになってください。

では、次回は座学になります。少し間隔が掴めてきたら、ちょっと顔を出してみて下さい。

それではみなさん、練習してきてくださいね。じゃ。

第七講: タイヤのスリップとスライド

さて、そろそろ始めましょうか。

今回は座学だけですね。みなさんに一つ、覚えておいて頂きたい概念について説明しておきます。

この話はすぐには役に立たないと思いますが、あとあと、コーナーリング時の姿勢を作る上で重要になってきますから、ちゃんと理解しておいて下さいね。

さて。

スリップとスライドという言葉は実は、あちこちで出てきます。この講義でも、前回、スライドさせて走るという概念について説明しましたね。

車体全体の動きを考えるとき、車体を軸線方向に進ませず、アウト側に滑らせながら走るのをよく、テールスライド、なんて言いますが、これはこれでよく使う言葉なんです。

ですが。

ここは重要なことなので、慎重に聞いてくださいね。

今回は、テールスライド、みたいな言葉は忘れて下さい。あくまでタイヤについての話です。

どういうことかと言うと、言葉の使い方がちょっと変わるんです。今日の講義だけの独特の使い方なので、その点を注意して下さいね。

というのも、ですね。

車の挙動を考える時はもちろん、車体全体で考えて行くのはとても重要なんですが、その挙動を作っているのはタイヤや駆動力なんですよ。

ですから、座学として、タイヤだけに着目して論じるのは意味のあることです。車体全体というマクロな視点と、タイヤというミクロな視点の両方があわさってはじめて、挙動を深く理解できると思うわけです。

さて、前置きが長くなりましたね。

みなさん、前回やった、スリップアングル、という言葉を思い出して下さい。

スリップアングルというのはつまり、タイヤが向いている方向と、実際にタイヤが進んでいる方向が一致しないとき、その差が何度あるのか、ということを表す角度です。

みなさんが普通に履いているタイヤはみんな、タイヤの表面が路面をしっかり掴んでいても、スリップアングルが発生してタイヤが少しずつ外に流れて行きます。この減少は絶対に避けられないことで、スリップアングルがゼロになる、ということは、タイヤというものの特性上、絶対にありえません。

スリップアングル特に、溝の多い、つまりタイヤのブロックが小さいタイヤほど顕著ですね。逆に溝の少ない、つまりブロックの大きいタイヤは、タイヤ表面が路面を掴んでいる限り、あまりスリップアングルが出ません。溝が無いスリックタイヤなんか特にそうです。

しかし、です。タイヤの表面自体は、路面をしっかり掴んでいます。スリップアングルが出るのは、タイヤ全体のヨレと言うか、歪みが主な原因です。こうして、タイヤが路面を掴んでいながら横に流れて行くのを、スリップ、と呼びます。

その一方で、限界をこえてタイヤが路面を離してしまうこともありますね。

こうなっても当然、タイヤは外に滑って行くわけですが、この状態を、スライド、と呼んでいます。

混乱しないで下さいね。

車体全体で考えるときの、テールスライドって言葉は忘れて下さい。

なぜこうして、二つの言葉を使い分けるか。

それは、スリップの範囲で車輪を流している状態と、スライドに入った状態とは、タイヤが生む抵抗が違うということです。

スリップアングルが増大すると、タイヤは抵抗を生みます。それは車体を減速させる効果を生むわけですが、タイヤ表面が路面を掴んでいる、スリップの範囲で走っている間はこの抵抗は少ないです。

一方、タイヤ表面が路面を離してしまった、スライドの状態では大きな抵抗を生みます。特にタイヤのグリップ力が高いタイヤほど、その傾向が高いですね。

忘れていけないのは、では、減速効果のないスリップと減速効果のあるスライドのどちらが優れているのか、という議論はできない、ということです。

スライドによる減速効果を狙った走り方、というのも存在します。あるいは、最初からスライドによって減速することを見込んだコーナー侵入という考え方もあります。

逆に、スリップの範囲で走ることで減速を最低限に抑える走り方も、当然のことですが、存在しています。

問題なのは、スリップとスライドの差、タイヤのスリップアングルが増えるにつれ、ある時点から急激に抵抗が増えて行く、その特性を頭に入れて走ることがいちばん優れている、と言えます。

では、このスリップ状態、つまり、タイヤがまだ路面を掴んでいる状態で、どのくらい車輪が流れるのか、という話に移りましょう。

これもみなさんにしっかり覚えておいて欲しいのですが、ストリートラジアル程度のタイヤだと、スリップ状態でも、スリップアングルはけっこう大きく出ます。ある意味では、車輪を流さずにコーナーリングすることは不可能と言ってもいいくらいです。

この角度ですが、2度や3度といった角度は全然珍しくありません。ここで、たったの2、3度? と疑問に思った方。実はこれ、けっこう大きな角度なんですよ。

例えば、時速100キロで後輪のスリップアングルが2度出たとしましょう。この状態だと、後輪は1秒間に、だいたい1.5メートルずつアウト側に流れて行きます。1.5メートルと言うと車体の幅に近い数字です。

よく高速コーナーでは、車体を横っ飛びにして曲がる、なんて言い方をする人がいますね。これは当然の話で、タイヤをきちんと使っている限り、タイヤに出てくるスリップアングルから考えれば、車体はどんどん横に流れているわけですよ。

もちろん、スリックタイヤでは、タイヤが路面を掴んでいるスリップ状態で出すことができるスリップアングルはとても小さいです。スリップアングルが大きくなるっていうことはそのまま、タイヤがスライドしている、つまり、路面を離してしまっている状態になるわけですよね。

この状態でコーナーリングを続けるためには、大きな減速をせざるを得ません。

だからスリックタイヤを使うレースでは、ドリフトみたいな走り方はほとんどしないわけです。スリップアングルが小さいほうが結局、速く走れてしまうわけですから。

こうした特性をきちんと考えて、どのくらい、あるいはどんなふうに流せば速いのか、ということを研究して行く必要があります。これはまぁ、実際に経験してみるしかありませんね。絶対にタイヤを流さないように、という走り方は、特に高速コーナーではとても遅いです。なぜなら、スリップアングルが出ないくらい低速で走ることになるからですね。

そんなことより、スリップに構わず、そして、スリップによって車体が横に流れることを考慮して曲がったほうが速いのは言うまでもありません。

さて、こうしてタイヤのスリップとスライドについて理解して頂きました。

こうした話をまとめたとき、みなさんに改めて理解していただきたいことがあります。それが、タイヤが食いつかないほど、コーナーリング中に、見た目上、タイヤが流れている量が増えるということです。

ともするとドリフトのように見えることもあるかもしれませんね。それに、そうしたタイヤでは、タイヤ単体のグリップ力や抵抗よりも、車体全体の向きを重視してタイヤをスライドさせていることもあると思います。

この概念は、みなさんが将来、タイヤのグリップ力が不足した状態で走るときにとても役立ちます。実際に走るときはきっと、スリップとスライドの境目を意識して走ることは無いと思います。それでも、例えば、流しすぎて遅いとか、流したりなくて遅いとか、そういう概念を理解する上ではとても役立つと思うのです。

また、普通の、溝のあるタイヤでは、多少は流れるような走り方をしないと遅い、ということも理解できると思います。

こうした話を理解することは、この先、コーナーリング速度を上げて行く上ではとても重要です。

繰り返しになりますが、特に高速コーナーでは、車輪が全く流れない走り方というのはあり得ません。だから、そのスリップ量を計算して走る必要があります。

あるいは、低速コーナーでは、スライドによる減速効果が強く出てしまうとしても、車体全体の向きを変えたほうが効果的に曲がれる場合があります。その場合、スライドによる減速を考慮して、直線でのブレーキを減らす必要があります。

こうした知識は、車を曲げる方法について悩んだ時、その状況を打破する一つのきっかけになると思います。

と言うのもですねぇ。

車輪が流れることを極度に嫌って、グリップは流さないで走るのだ、という、ひとつの固定観念にとらわれている人がいるんですよ。

そこで考え方を変えてやる。タイヤは流れるものなんです。特に上級者になるほどその傾向が強くなります。

流れることを恐れない。そしてそれが、いつか、意図的に流す量をコントロールするほうになる。こうなると強いんですよ。

そして、流れることをコントロールできないと、けして初級者を脱出できませんよ。このことは、知識としてしっかり頭に入れておいて下さい。

というわけで、今日の座学はここまでですね。とりあえず、すぐに実行しようとしなくて構いません。知識として頭に入れておいてもらえれば。

でも、とても重要な知識です。

この知識をもとに、ある日突然、目の前が開けるようなこともあるかもしれません。それはもしかしたら今日かもしれませんし、とうぶん先かもしれませんが、知っておいて損はないと思います。

では、今日の講義は以上です。お疲れ様でした。

第八講: ステア操作

はいみなさま、お久しぶりです。調子はどうですか?

それでは今日は、本格的な応用編に入る前の、ちょっとした「上級テク」について、概論をお話ししましょう。

今回の話は、すぐには実行できないような、少し高度な「ワザ」です。実を言うと私も、それっぽいことはできるんですが、使いこなせるか、というと全然ダメですね。

でも、本当に速くなるためには絶対に必要な話ですから、頭に入れておいてください。走り込んでいるうちに、いずれわかってきます。

ただし、かなり難しい話ですから、練習するのはかまわないですけど、普段から無理にこのワザを使う必要はありませんので、注意してください。そのうち必要になってから使うようにすればいいですからね。

車を操作するための装置は基本的に6つあります。アクセル、ブレーキ、クラッチ、シフトレバー、サイドブレーキ、そしてステアリングですね。

このうち、クラッチとシフトレバーについては、回転数をあわせて走る、という点が理解できていれば、あとはどのくらい正確に動かすかとか、ミッションを痛めないようにするコツとか、そういう話になりますから、まぁいいと思います。

サイドブレーキも、ドリフト始めるまではあまり使わないですかね。まぁ、グリップでも絶対に使わない、とは言わないですけど、普通は縁がないと思います。

残るは、アクセル、ブレーキ、ステアリングです。

このうち、アクセルとブレーキについては、ほんとにいろいろ説明をしてきました。一つに、この二つの使い方は、なかなか感覚的にわかりにくいし、ちょっとしたコツが必要なので、それを初期のうちから覚えてゆく必要があったからなんですよね。

でも、ステアリングについては、丁寧に切る、それくらいしか説明しなかったと思います。まぁ、それでもけっこう、なんとかなってきたからなんですよね。

しかしそろそろ、話はステアリングに移ってきます。

上級者になると、このステアリング操作にもいろいろコツが必要になってきますからね。

私はそのすべてをお教えできるわけじゃないですが、基本ポイントだけは皆様に理解しておいて頂きたいと思います。

とりあえずみなさまには、スリップアングル、という言葉を思い出して頂きます。

忘れちゃった人は前回のテキストをよく読み直してください。

よろしいですか?

みなさまはもう、舵角が少ない方が速い、という言葉を聞いたことがあると思います。

これにはいくつかの意味があります。

まずはその1、ですね。

最初にこの図を見てもらいましょう。

このラインの通りに車が進んだとします。横Gがいちばん大きいのはどこだかわかりますか?

そう、この頂点部分ですね。このとき、車には最大のGがかかりますから、タイヤの仕事もいちばん大きくなります。

この状態でタイヤが限界をこえてしまうと、もうライン上に乗っていられないですね。

とすると、この頂点での速度が限界をこえてはいけない、ということになります。

コーナー全体を見渡したとき、いちばん横Gが強い状態で、コーナーリング速度がほぼ決まってしまう、ということになります。

次にこの図を見てください。

さっきより滑らかにコーナーリングしてますよね?

そうすると、最大の横Gはさっきより小さい、ということになります。

なので、さっきより速いコーナーリングが可能、ということになりますよね?

このラインの曲がり具合は、ステア操作に関係すると思っておいてください。

強く曲がるほど、ステアを大きく切っている、つまり舵角が大きいというわけです。

舵角が小さいほど速い、という理由の一つがここにあります。

もちろん、実際のコーナーリングはこんなに簡単じゃありません。この図は概念を理解して頂くためのものです。

そのあたり、勘違いなさないでくださいね。ただ、コーナーリング全体の中で、どこで限界が決まるかをイメージするのは、この図がすごくわかりやすいと思います。

次の理由に行ってみましょう。

まだあるのかって思いました? 実はまだ二つあるんです。

次に登場するのは、ステアリングブレーキという言葉です。

舵角をつけた状態を想像してください。前輪はまっすぐ前を向いているわけじゃありません。

タイヤは転がり方向の直角方向に対して、摩擦力で抵抗しようとします。

前輪だけ見れば、このことは別にどうという意味も持ちません。しかし車には後輪というものがついています。

前輪と後輪が違う方向を向いていると、それぞれが違う方向に進もうとしていますよね?

これが抵抗になるんです。

この抵抗、小さいように見えて、コーナーリングを突き詰めて行くとかなり大きな影響になります。

ですから、スムーズに前進し、かつ、加速力を最大限に生かそうと思うと、舵角は可能な限り小さくなければならない、ということになります。

しかし、どうやればそんなことが可能になるか、と言う問題がありますよね。

そこには、前輪と後輪のスリップアングルのバランスが出てきます。

タイヤは必ずスリップアングルを持つ、というのは前回お話した通りです。重要なのは、このスリップアングルを適切に制御することです。

さて。

車が横Gに抵抗する力は、当然、タイヤが生んでいますよね? それは前輪と後輪の抵抗力の合計でもあるわけです。

覚えておいて欲しいのは、スリップアングルが大きいタイヤほど、横方向のGに対して大きく抵抗している、ということです。このあたりはまぁ、イメージできればいいですけど、できなくても、そんなもんだと思っておいてください。

もし前輪だけで横方向のGに抵抗しようとすると、前輪のスリップアングルはすごく大きくなります。ステアを切ってもあまり曲がらない、ということになりますね? いわゆるアンダーステア状態です。

そうすると、ステアをどんどん切り足さないといけません。

こうすると、ステアリングブレーキが強く出てしまいます。

それに、ちょっと考えればわかると思いますが、この状態ではタイヤの性能の半分しか使っていません。前輪の力しか使っていないんですよね。後輪がまったく無駄になってしまいます。

ここで、後輪にも仕事をさせてみましょう。

そうすると、前輪の負担が減ります。前輪のスリップアングルも減り、舵角は少なくなります。

後輪のスリップアングルが増えると、車体はインを向き、若干オーバーステア傾向になりますから、なおのこと舵角が減ります。言ってみれば、スリップアングルを前後のタイヤに割り振る、という感じでしょうか。

こうしてみると、舵角は後輪のする仕事を測る、一つの目安であることがわかりますよね。

その意味では、舵角を減らす、と言うよりは、舵角が少なくなる走り方をする、と言ったほうがいいかもしれません。

そして三つ目の理由です。

それは駆動力に関係します。

みなさん、アイスレースって知ってますかね? アメリカなんかで流行ってますが、冬場にやるレースです。

これはすごいですよ。圧雪路とか分厚い氷の上をスパイクタイヤを履いて走るんです。

スパイクタイヤでも、なにしろ相手は雪や氷ですから、全然グリップしません。このとき車はどうやってコーナーリングすると思います?

それは、車体をインに向けてしまうんです、完全に。こんな感じです。

タイヤが横方向にグリップする力はもう、ほとんどあてになりません。なので、駆動力で曲がるんですよ。

アクセルを踏むと当然、車は前に進もうとしますよね。この力を遠心力に抵抗するために使う。実はこのほうが速いんです。

ターマック、つまり舗装路面では、タイヤは十分なグリップ力がありますから、ここまで極端なことをする必要はありません。でも、駆動力を使って曲がる、という概念は、アイスレースを見ればなんとなくわかると思います。

そうです、前進する力を、コーナーリングフォースとして使ってしまうんです。

このためには、車体はインを向いている、つまりオーバーステア傾向でないといけません。

四駆なんかだとこの傾向は強くて、コーナーの頂点をすぎたらもう、車体が進行方向を向いている、なんて走り方をしますね。

この状態だと、オーバーステア傾向ですから、舵角は少ないですよね。ドリフトなんかだとカウンターをあててるくらいです。

つまり、舵角が少ないと、駆動力をコーナーリングフォースに転換する効果が高い、ということになります。

とりあえず、雰囲気はわかりました?

よく、ゼロカウンターなんて言い方をしますね。コーナーリング後半ではもう、ステアが正面を向いている、ってヤツです。

実を言うと、2番目の理由、前後のスリップアングルのバランスをとってやる、という目的を考えると、すべての場合でゼロカウンターが速い、というわけではありませんし、車のセッティングによっては若干ステアがインを向いているほうが、前輪のグリップ力を生かすという意味でも都合がいい場合もあります。

それに、コーナーの形状によっても、敢えてゼロカウンターを使わない方がいいこともあります。特に短いS字の場合とかですね。リアを流す関係でコーナーインでの減速が大きいですから、あとにそれを取り戻せるだけの直線区間がないとあまり意味がなくなってしまいます。

でも、ゼロカウンターというのは一つの基準として頭に入れておいていいと思います。

リアを流し、オーバーステア傾向でアクセルを踏み、ステアは正面を向いている。

そのまま加速しながらコーナーを脱出する。

この姿勢を基準に、修正を加えて行けばいいと思います。

では、どうやってこの状態を作り出すか、ですが、もちろん、適切な車速、適切な荷重移動、そういったものでオーバーステア方向に振ることができます。

そうしたものはもう、皆さんは理解されてると思います。だから、あえてここで再度お話しする必要はありませんよね。むしろ、これまで身につけてきた技術を生かして、ここでご紹介した状況に車を持ってゆく研究をされるのがいいと思います。

これを見ていると、みなさまの中にはこんな言葉を思い出す人がいるかもしれません。「ドリフトよりもグリップのほうが速い」って。

この言葉は、まぁ、必ずしも間違っているわけではありません。正確に言うなら、「観客に見せる走り方をしたドリフトよりもグリップのほうが速い」ですけどね。

これはしかたがないことなんです。大きく角度をつける「見せるドリフト」は、かなりの速度のロスになりますし、姿勢をたてなおすのにタイムラグが生まれます。このことはドリフト派の人も認めますし、実際、どうやってもタイムを縮めることはできないんですよ。

でも同時に、この言葉が一つの誤解を生んでいるわけです。それは、タイヤを滑らせて走ると遅くなる、という「伝説」です。

いま私は「伝説」と言いましたけど、実際、これを主張する人がけっこういるんですよ。

でも、真実じゃないんです。そのことはたぶん、理解してもらえると思います。

こうしたスライドの有効性は、車体の重量や車速に対して路面のグリップ力が不足するほど強調されます。このあたりは前回も、簡単にお話しましたね。

タイヤを横に滑らせることは抵抗になりますが、グリップ力が低いほど、この抵抗は少なくなります。一方、滑らせることによる利点、たとえば駆動力をコーナーリングフォースに変換する効率などが残ります。

逆に、グリップ力が高いと、滑りにくいものを無理に滑らせていることになります。無理矢理滑らせることは単なるロスにしかなりません。こうなると、スライドによる利点が打ち消されてしまいます。

最近の車はタイヤの性能も向上していますし、車体のメカニカルグリップもそうです。

空力を利用して、ダウンフォースでグリップ力を稼いでいる面もあります。

こうしてグリップ力が向上した結果、ターマックでは大きなスライドという挙動があまり重視されなくなくなりました。しかし、全く無視して良いわけではありません。

単に滑らせる量が減っただけのことで、特に箱車では、やっぱり多少は滑った状態をきちんと制御するべきなのです。

滑らせすぎてはいけない、でも足りないとアクセルが踏めない。ここらの最適値を見つけるのはかなり難しい話です。

シチュエーションによってはアンダーぎみに曲がったほうが速いケースもありますし、よけいに難しいんですよね。

まぁ、研究し甲斐のあるテーマでもあります。少し頑張ってみてください。

ところで、どうせですから今日は、ステアリング操作の新しいワザを一つ、ご紹介しましょう。

このワザはけっこう、使いどころが多いから念入りに研究してみるといいですよ。

それは、いわゆる「バキ切り」です。

一度、話を少し戻したいと思います。

私は本講の最初のほうで、ステア操作は丁寧に、滑らかに、と説明しました。

それから、最初のうちはゆっくりでいいが、いずれ「ゆっくり」からは卒業する、とも。

とりあえず皆さんに思い出して欲しいのは、ゆっくり操作することの意味です。

よくあるんですが、舵角が大きすぎると、強いアンダーを出したり、逆にスピンモードに入って言ったりします。

また、ステア操作が乱暴でも似たような状況になってしまいます。

これは車のヨーイングを考えればわかりますよね。

ステアを急激に切り込むと、車もそれだけ急激に旋回します。

急激に旋回する、ということは、ヨーイングモーメントもたくさん発生します。実はこのヨーイングモーメントというのは、かなり無視できない存在なんですよ。

みなさん、車が曲がるというのは、ラインの曲率の最大値だけで考えてしまいがちですが、実は、曲率の変化量、つまりステア操作の速さも車の挙動に大きな影響を与えるんです。

多すぎるヨーイングモーメントはリアタイヤに負担を与えますから、オーバーステアに入りやすくなります。

それに、この講義の前半で紹介しました、滑らかな曲線を描いたコーナーリングをするには、急激なステア操作はできませんよね。じわっ、と切り込んでいかないとダメです。こうすることでヨーイングモーメントを減らすことができます。

もちろん、ステアを戻すなんて問題外です。コーナーリング中にできるだけ均一にかけたいのに、その横Gを一度減らしてしまったら、別の場所で取り戻さないといけませんから。

だから、舵角は一発で決める、というのも重要な話です。

ステア操作の上級編は、この段階を卒業してから始まります。

いま卒業、と言いましたけれど、コーナー全体でゆっくりステアリング操作をしているだけでは、実はダメなんです。

この話は主に、コーナーインで重要になってきます。

この図をちょっと見てやってください。

Aのラインがステアリングをじわっ、と切ったライン、Bが急激に切ったラインです。

普通に考えればAのラインのほうが優れてるように思えますよね。

では、こうなったらどうでしょう?

さっき、舵角を減らす理由の2番目と3番目で、若干オーバーステア気味で曲がったほうがいい、と言いましたよね。Bのラインの位置をずらしてやると、Aのラインの位置の上で、コーナーインからすでにオーバーステア状態に入りますよね。

そしてステアを戻し、アクセルを踏んでオーバーステア気味に脱出してゆくと、単になめらかに入った時よりもよりアクセルを踏みながらコーナーを脱出してゆけます。こんなふうに、ですね。

もちろん、いろいろな要素が絡むんですが、この曲がり方、実は舵角を減らすのにかなり使える技術なんですよ。

しかも、恐ろしく手前からアクセルを踏んでゆけます。

繰り返しになりますが、この方法論がうまくいくかどうかは、とにかく状況次第です。

しかし、急激なステア操作、いわゆるバキ切りがスピンモードを誘発するなら、これを利用してオーバーステアに持ち込むことも簡単だ、ということになりますよね?

このバキ切りをブレーキ残しのフロント荷重の間にやってしまえばさらに効果的です。

ただ、先に申し上げておきますが、バキ切りでリアを流せるのは速度が乗っている場合です。低速域では単に車の挙動を乱すだけで、リアは流れず、減速の原因にすらなります。

そうすると、この技術の恩恵を得るためには二つの方法をとるしかない、ということがわかります。

一つは高速コーナーで使うことです。

これまでコーナーの後半でアンダー気味でアクセルを踏めなかったコーナーで、あえてバキ切りを使ってみると、鼻がきれいにインを向くかもしれません。

もう一つは……わかりますか?

そう、車速を上げることですよ。

バキ切りでリアが流れない場合、これまでより車速を上げてコーナーインすれば、きちんとオーバーステア気味になることがあります。

あくまで、そういうことがあります、という範囲ですけどね。

どちらにしても、この曲がり方は一つの特徴があります。コーナーインで車体を回すと、フロントはステアリングブレーキが働き、リアはスリップアングルが増加して、どちらも車を減速させようとします。

それじゃダメなんじゃないの? と思った方。ちょっと考え方を変えてみてください。

車が減速する、ということは、それだけブレーキ時間を削れる、ということですよ。別の言い方をすると、高い車速でコーナーインできるわけです。

半分ドリフトっぽい曲がり方かもしれませんが、実際のところ、このほうが速いんですよね。 これまでコーナーインで、ブレーキを残しからステア操作開始で車の向きを変えてゆくのに長い時間がかかった人は、この方法で急激に向きを変え、あとは駆動力を使ってコーナーを脱出してゆく方法を覚えると、急に視界が開けるかもしれませんよ。

どちらの場合も注意して頂きたいのは、自らオーバーステア方向へ、もっと言えばスピンモードの前半へ入り込んでいることです。

この走法は、一歩間違えると壮大なスピンを起こしてアウト側につっこんでしまう恐れがあります。

もう一つ注意して頂きたいのは、オーバーステア状態でのコーナーリングは、アウト側に余裕が必要になる、ということです。

これまでと同じ位置でステア操作を開始し、それでバキ切りをすると、そのままアウトに突き刺さるかもしれませんよ。バキ切りが効いてくるのは、それまでよりずっと手前から操作した場合です。

上級者は、こんなに手前から? と言うほど手前からステア操作を開始していると思います。その秘密はここにあります。

さらにもう一つ。

足回りの柔らかくて反応が鈍い車の場合、バキ切りをするとコントロールを失ってどこかに飛んでいってしまうことがあります。

反応がシャープな車はよく、入力も丁寧にしないといけない、と言いますが、ステア操作の速さ、という面で見た場合、乱暴な操作が許されてしまう部分があります。

車の足回りが柔らかい人は、あまり激しい操作は避けたほうが無難ですね。もちろん、ちょうどいい加減というものがあるので、いろいろ試してみてください。

同時に、足回りを固めたら、またステア操作を試してゆく必要もありますね。これまでの感覚とは大きく変わってしまうことがありますから。

そして最後に。

初心者にみられる、乱暴な操作というのと、中級者の段階で覚えるバキ切りとは、見た目は似ていても中身は全然違います。

前者が、加減というものをわからずにアンダーやオーバーを誘発するだけの、はっきり言ってしまえば下手くそな運転なのに対して、後者は確信のある操作です。

ですから、その後の車の挙動を予測していないといけません。

もちろん、舵角もきちんと加減してやらないと話になりません。バキ切りがいいからと言って、盛大にステアを切ってしまうと、それこそ完全にスピンしてしまいますよ。最初は「少しだけ」でかまわないのです。

舵角が多くても、フロント荷重が足りなくても、アンダーステアになってしまうかもしれません。こうなるともう、本末転倒ですよね。

とにかくこの操作はですね、安全な場所での練習が欠かせないでしょう。

最初は高速コーナーで試してみてください。コーナー手前で一気にステアを切ってしまう。

初めのうちは、オーバーステア気味にアウト側にふくらんでいくかもしれません。でも、その挙動が理解できてきたら、ステア操作を始める地点をどんどん手前に持って行ってください。

大げさですけど、インの壁につっこむくらいの勢いでやってやる。そうすると、だんだんとブレーキを踏む量が減り、場合によってはアクセルオフだけで曲がったり、それこそアクセル踏みっぱなしになったりするかもしれませんよ。

場所が高速区間だけに、一気にタイムを縮めることができると思います。

たぶん皆様は、自分がブレーキを踏んで曲がっていたコーナーを、上手な人がブレーキなしで曲がってゆく、なんて言うのをみているかもしれません。

この操作方法を覚えると、これまでなぜ彼らがブレーキを必要としなかったかが見えてくると思います。

車の姿勢作りでコーナーリングフォースを稼ぐのはもちろんですし、同時に、車を減速させるのはブレーキだけではない、ということでもあるわけですよね。

さて……どうですかね。

もしこれまで、車輪を全く滑らせずに走ってきた人たちは、こういう話題には戸惑うかも知れません。

でも事実なんですよね。

よく、ドリフトを練習するとグリップにも生かせる、と言います。これは、こうしたスライドとか、四輪流しなどの車体コントロールは、まさにドリフトの技術そのものだからです。

むしろ、大角度をつけたまま車体をコントロールできるドリフターにしてみたら、少しだけ流して前に進むことは簡単なワザでしょう。

ただ、純粋に角度をつけることだけを練習してきたドリフターだと、どのくらいの角度なら速くコーナーを抜けられるかがわからないと思います。ドリフトの人がグリップの勉強をするのは、このあたりを知るためですね。どうやったら、より素早く車体を前に進められるかがわかれば、ドリフト角度の調整も上手になるわけです。

だから、機会があったらドリフトの練習をするのもいいかもしれませんね。まぁ、グリップ走行に必要なのはかなり角度の浅い流し方ですから、もしかしたら、本格的にやる必要はないかもしれません。でも、ドリフトがちゃんとできれば、その技術は間違いなく、グリップでタイムを縮めるのに大きく役立ちますよ。

それから、こうしたスライドを活用し始めた人は、一つの事実に気づくと思います。それは、車速が十分に出ていないと、逆にコーナーを曲がりにくくなる、ということです。

低速で適切にスライドさせるのはかなり大変だし、スピードのロスになりますけど、でも、スライドさせないと案外、タイトコーナーを抜けにくかったりするんですよね。

だから、手前のコース形状の関係でどうしても車速が乗ってこなくて、次のコーナーもダメ、なんてことが発生したりします。まぁ、そのあたりはそのうちゆっくり理解して頂くとしましょうか。

この「スライド」の話は、基礎的とも言えるし高度とも言える、ちょっと微妙な位置づけのテクニックです。いずれは身につけないといけないですけど、ちょっと練習してすぐに、というのは絶対に不可能でしょう。

でも、走っているうちになにか見えてくると思うんですよ。それに、だんだんと車速が上がってくると、どうしてもこうした、四輪を流す動作を入れざるを得なくなります。

と言うより、スライドの話というのはですねぇ、車をある程度乗りこなして限界点に近づいてくると、ある日突然、閃きのように見えてくるようなものだと思うんですよ。そのとき戸惑わないよう、とにかくスライド、という動作について意識だけは持っておいてください。スライド量を調整する練習を本格的に始めるのは、その閃きがあってからでも遅くないと思います。

では……こんなところですかね。そろそろ時間も迫ってきましたね。

みなさん、この講義の内容も少しずつ高度になってきました。練習は是非とも、安全な場所でやってくださいね。

それでは、これで終わります。また。

第九講: ライン取り、後編

みなさま、おはようございます。前回と前々回はかなりすごい話だったと思いますけど、今回はもう少し、基本的なところに立ち返りますからね。

え~、講義に入る前に、みなさまには一つのことをお話ししておきます。

前回までの講義の内容は、あくまで、車というのはどうすれば上手にコントロールできるか、という内容でした。言い換えれば、自分が想定したラインに、どうやって上手に乗せてゆくか、ということですね。

でも、それだけじゃダメなんですよ。つまりですねぇ、ラインを想定するのはいいけれど、じゃあ、どんなラインを作っていったらいいのか、という話が抜けているんです。

それを今回からお話ししますね。

このラインづくりの話というのは、単純に車をコントロールする話とは少し別の次元にあります。これはあくまで、コンマ1秒の世界で、どんなふうに走っていけばタイムが削り取れるか、という、かなりシビアな世界です。

もちろん、最低限のテクニックがないとこんな話をしても無駄なんですけど、みなさんはもう、車の挙動についてのイメージはつかんでいるわけですよね?

でも今回は、具体的にどんなふうにすればいいか、というお話は全くできません。よく「理想のライン」という言い方をしますが、この理想のラインを実際に探すのはみなさまなんですよ。

私ですか? 私自身も一応、方法論はあるし、「こうかな?」と思ったラインもあって、それを走るようにしています。でも、もしそれが本当に「理想のライン」であって、私がそれを発見していたのであれば、いまごろ私はプロのレーサーになっているでしょうね。

私の方法論はきっと間違っているし、間違っているからこそ、今でもヘタクソなんでしょうね。

それでも、ラインを探す方法、となると、これは、ほとんどの部分で誰でも共通なんです。

もう話が見えてきましたか? 今回のお話は、ラインを探ってゆく方法論だ、ということですね。

それ以後は、どうぞ、みなさま自身が研究してください。私は何のお手伝いもできません。あとは、いかに研究熱心かによって運命が分かれることでしょう。

では講義に入りましょう。

最初にお話しするのは、加速と減速のバランスについてです。

よく言いますが、車というのは、減速するのは簡単だけど、加速するのは大変なんです。

例えば、よく教習所で、時速100キロから停止するまで100メートル、なんて言われますね。チューンした車ならもっと短距離で停まるかも知れませんが、逆に、とんでもないドラッグカーでも持ち込まない限り、100メートルで時速100キロにするのはそうそう難しいですよ。

実際に加減速のGを計ってみると、普通の車は減速のGのほうが遙かに強いです。

それに、加速と減速ではもう一つの問題があります。減速時にはフロントに荷重が乗っていますから旋回しやすいですが、加速時にはリアに荷重が乗っていますから、当然、減速時よりも旋回能力が落ちることになりますよね。

とすると、実際のコーナーリングでは、減速側を短く、かつ鋭い旋回をさせ、加速側は長く、緩い旋回をさせるようにしないといけないわけです。

次は、コーナーリングに関係する二つの速度についてです。一つは、コーナーリング中の最低速度、つまりコーナーリング速度、もう一つは、コーナー脱出時の速度、つまり脱出速度です。

実はこの二つは、ある程度の範囲でトレードオフの関係にあるんです。

コーナーインで頑張ってコーナーリング速度を稼いだ場合、そのまま車体はコーナーの外に膨らんでゆきます。この状態では、なかなか加速できません。タイヤはもう限界いっぱいだから、迂闊にアクセルを踏むとコントロールできなくなりますからね。

逆に、コーナーリング速度を犠牲にして、ラインの頂点を通過した後にアウト側に余裕を持っていた場合、タイヤには余裕がありますから、簡単に加速できます。アクセル踏んでアウトにふくらんでいっても大丈夫ですからね。うまくやれば、コーナーリング速度の低さによって生まれたロスを脱出後に跳ね返すことも可能なんですよ。

この脱出速度が特に重要になってくるのは、その後に長いストレートが控えている場合ですね。

数百メートルもあるストレートだと、始点でどのくらいスピードが出ているかによって、タイムがかなり変わってきます。こういう場合、多少コーナーリング速度を抑えても、脱出速度を稼いだ方がよかったりします。まぁ、やりすぎると加速しきれずに、結局タイムロスになるんですけどね。

ここらへんはとにかく、色々研究していいところを探すしかないですね。

これによって、ラインの頂点、つまり、一番旋回率が大きくて、速度が落ちている状態をどこらへんに置くのか、という話が変わってきます。

それではここで、「加速側を重視した」ラインを表した図をお見せしましょう。あ、最初にお断りしておきますけど、これはかなり強調した図ですから、ほんとにこの通りに走らないでくださいね。実際のラインはもっと、以前お見せした単純なクロソイド曲線……この言葉、覚えてますよね? 忘れちゃった人は教科書を読み直しておいてくださいね、とにかく、以前の図にもっと近いと思ってください。

こんなふうですね。

この図では、クリッピングポイントを通過するときにはもう、加速が始まっています。コーナーの構成や車のセッティング、その人の癖などによってはやっぱりニュートラルで通過する場合もあるでしょうけど、どちらにしても加速開始地点は手前のほうになります。

それから、車の描くラインの頂点もクリッピングポイントより手前ですし、クリッピングポイントはやや奥の方になりますよね。

要は、さきほど説明したとおりです。減速側は距離を短くしてより強い旋回をさせ、加速側は長く、緩い旋回をさせる、です。この頂点をどのあたりに持ってくるかによって、コーナーリング速度重視か脱出速度重視かが変わるわけです。

この、加減というのはとにかく、いいところを探すしかありません。

コーナーリング速度が低すぎると加速しきれないし、高すぎると全然アクセルを踏めなくなります。ようは、こんな感じですね。

まあ、この表もかなり大げさですけどね。

とりあえず、コーナー内での最低速度が低すぎると脱出速度も下がってしまいますが、ある領域では、最低速度と脱出速度にトレードオフの関係が働くわけです。

ある領域までは、最低速度が高いほどコーナー通過時間が短くなるかわり、脱出速度が下がります。続くストレートの状態によって、コーナー自体でタイムを削るか、あとのストレートでタイムを削るかを選択する必要があるわけです。

こうしてみると、ただの単一コーナーでも、どんなラインで走ったらいいか、というのも単純に言えないことがわかってもらえると思います。だからこそ、ライン取りにはみんな苦労するし、プロであってもそこに悩むわけですよ。

でも、とにかく研究をしてゆくしかないですね。全てはそこに行き着くと思います。そのとき、他の人の走り方を見て、自分と違うラインを走っているとしたら、それにどんな意味があるのだろう、ということを考えてみてください。特に自分より速い人のラインはそうですね。

自分から見たときに「つっこみすぎて出口が苦しい」とか「減速しすぎで無駄」とか感じられたとしても、案外、前後のつながりを考えたらそちらのほうがよかったりすることもあります。

え~、どうですか。頭に入りました?

じゃぁ最後に、複合コーナーの話をしておきましょうか。これは簡単ですね。

具体的な話に入る前に、複合コーナーとは何か、というお話から始めたいと思います。

複合コーナーというのは、単純に言えば、複数のコーナーが短いストレートでつながっているとか、コーナーの途中から曲率が変わっているとか、そういうのですが、共通するのは、

最初のコーナーでの姿勢変化が消える前に次のコーナーがやってくる、ということです。

このイメージはわかりますよね? 車が左右どちらかにロールしていると、車の挙動が変化する話は以前しました。コーナーを完全に脱出するまでは車はまだロールしているわけです。

このロールが収まりきれば、次のコーナーは単一コーナーとして扱えるんですが、コーナー間が短いと、一つのコーナーでの姿勢変化が消える前に次のコーナーがやってくるわけですよ。

姿勢の変化はほとんどの場合、タイムロスにつながります。このロスをいかに無くすか、というのが、複合コーナーでの走り方だと思っておいてください。

こうした観点で見ると、複合コーナーというのはすぐには分類できなくなります。普通のアンダーパワーのノーマル車では単一コーナーの連続になる場所であっても、ハイスピードでコーナーを抜けてくるチューンドカーにとっては複合コーナーになることもあります。

あるいは、その人の走り方次第では、前後のコーナーの挙動をつなげて複合コーナーにしてしまうこともあるでしょう。

それでは、複合コーナーにおける一般則をお教えしましょう。

それは、

手前よりも後のコーナーを重視したほうが、よりタイムを縮められる

ということです。3つ以上の複合コーナーの場合、最後のコーナーですね。

全てのコーナーで必ず適用できるわけではありませんが、まぁ、たいがいのコーナーではこの一般則に従っておいたほうがいいでしょうね。

場合によっては、手前のコーナーをブレーキを踏みながら通過し、次のコーナーをアクセルを踏みっぱなしで通過する、完全に1つのコーナーにまとめてしまうこともあります。茂木のロードコースの1、2コーナーと3、4コーナーなんかがそうですね。

というのも、前を重視しようが後ろを重視しようが、コーナー自体を通過しているタイムの合計はあまりかわらないんです。でも、脱出時の速度が低いとその後のストレートでタイムのロスになりますから、最後のコーナーを高い脱出速度で抜けた方がよい、というわけです。

そんなわけで、複合コーナーの典型的なラインについて紹介しましょう。三つほど図を書きますね。

赤が減速、黄色がニュートラル、青が加速です。

このように、最初のコーナーを低速で抜けておき、次のコーナーの進入時の速度を調整します。進入速度が高すぎる、つまりコーナーリング速度が高いと脱出速度が下がる、というのは、さっき言ったばっかりですね。

一番頭が痛いのは、途中でコーナーの曲率が強くなる場合でしょうね。二番目の図です。普通はこんなふうに、後半のコーナーの入り口でインにつけるような走り方をするようですね。コーナーインでの旋回が緩くなってしまいます し、加減が難しいので、少し走りにくいのは確かです。

つくばサーキットのTC2000なんかが有名で、ホームストレート直後の第一コーナーがちょうどこんな感じなんですよ。みんな苦労しているみたいですね。

とりあえず、複合コーナーというのはラインの組み立てが複雑です。いくつもの要素が絡んできますからね。実際、よ~く見ていると人によってラインが違ったりしていて、なかなか面白いですよ。

その上で、コーナーの先でコースがどうなっているかによってもラインが変わってきますからなおさらです。

逆に言うと、腕と研究量の差が出やすい場所でもありますね。複合コーナーを上手に抜けられるようになれば、その人はライン取りについての考え方がしっかりしている、ということになりますね。

さて、今回はけっこう曖昧な話になってしまいました。まぁ、これは仕方がないことですね。本当の意味でのコーナーの理想的な抜け方なんて、正直言って私にはわからないです。とにかく、そのコーナーを何度も、ラインを変えながら走りまくるしかないです。

でも、コーナーを素早くクリアするためには重要な話ですから、とにかく、練習するときは常に意識のどこかに置いといてくださいね。それに、研究しがいがあって面白いでしょうね。

みなさんも、最低限の技術が身についたら、こういうライン取りの研究をどんどんやってみてください。こうした研究、実際始めると面白いですよ。

じゃぁみなさま、今までお疲れ様でした。閉講挨拶でお会いしましょう。

閉講挨拶

さてみなさま、改めて、これまで長い間お疲れ様でした。ようやくこの「ドラの穴」本講義も終わりました。

ここまでの講義の中で、みなさまには様々な理論について紹介してきました。ここまで真面目に練習してきた人はきっと、そのあたりの初心者相手には負けないくらいの腕になっているでしょう。

でも、きっともう、気づいているかもしれません。本当の上級者には手も足も出ないことに……。

そうです、この講義でお話ししたのは、ドラテクの世界で道を進んでいくための、最低限の知識なんです。実際には、紹介しなかった特殊な技術もいくつかありますし、タイムを徹底的に削り取るための「理想のライン」については、探し方を紹介しただけです。

でも、これから先進んでいくための知識については、それなりにお話しできたと思います。

だから、あとは練習次第です。もっと微妙なラインで車をコントロールし、もっと徹底的にライン取りを研究し、基本をふまえた上での特殊なワザを身につけ、そうやって上級者の後ろを追いかけていくしかありません。

それだけが、本当の意味で「速く」なることができる、本当に唯一の道なんです。

最後になりますが、みなさまには一つ、お願いしたいことがあります。

こうやって私は、様々な理論について説明してきました。その理論と練習法に沿って、練習してきていただいたと思います。

でも、一通りできるようになったかな、と思ったら、一度理論を、全て忘れてください。

どうしてかって? それは、ドラテクというのは究極まで行けば、やっぱり身体で覚えるしかないからなんです。そのとき、理屈にコチコチに固まっていたら、絶対に上達しません。

この講義では、なにをすればなにが起きるか、ということを説明しましたし、それを体感できるようにメニューを組んだと思います。ということは、車が遭遇する状況とその挙動については、充分なイメージをつかんでもらったはずなんです。

このイメージだけがあればいいんです。それらをどう使っていくかは、理屈をこねてもダメなんですよ。

とにかく、徹底的に走り込んでください。バカになってとにかく走ってください。理論を無視して走ってください。そうすればある日、様々な理論がどういう意味を持っているのか身体で感じるようになるはずです。

理論によれば……と考えながら走っているうちは、その人にはその技術が「自分のモノになっていない」ですよ。本当に走り込んでいけば、自然と理論通りの走り方になっているはずなんです。むしろ理論は、身体でワザを覚えていく過程で行う様々な「研究」の手助けをするだけです。

身体が勝手にラインを選び、身体が勝手にそこに車を持っていくようになったら本物なんです。これを常に忘れないでくださいね。

それでは、終わりに。

本当にお疲れ様でした。そして、これからも熱心な研究と練習を続けてください。

いつか、上級者の仲間入りをしたら、そのときは私に自慢しに来てくださいね。私を悔しがらせるほどの凄腕が一人でも増えたら、私もうれしいし、走り屋の世界にとっては大きなプラスになると思いますから。

むしろ、口先だけの私のようなタイプから見れば、そういう人こそがこの世界に必要なんだと思うんですよね。

では最後に。これまでご静聴、本当にありがとうございました。

相談室だより 第1号

- 車選び -

Q: 私は初心者なのですが、どうしても欲しくて高性能四駆を買ってしまいました。

やはり乗り換えたほうがいいのでしょうか。このまま練習を続けることがすごく不安です。

A: 正直に申し上げますが、大変に難しい質問です。

あなたが、本気でドラテクを勉強し、何年かかろうと、どんな努力をしようと、いつかは車をちゃんとコントロールできるようになりたいと、心から願っていることを前提にしてお話ししたいと思います。

お答えする前にまず、ドラテクを磨いて行くとき、どんなことが起きるかを簡単にご説明しましょう。

本当に速く走るためには、当然ですが、車をコントロールしなければなりません。これができない限り、先に進めないことはおわかりですね。

最初のうちはどなたでもベタグリで走っていると思います。これは当然のことですし、この状態で学ぶことはたくさんあります。むしろ、この段階を修了してから次に進む、と言っても過言ではありません。

しかし、ずっとベタグリで走り続ければ、いずれ限界に達します。車輪が滑った状態がきっちりコントロール出来ない限り、本当に速くなれないのです。

ドラテクに限らず、ワザの世界にはいくつもの壁がありますが、そうした状態をコントロールしてゆく技術は最大の壁の一つと言ってもいいと思います。

しかし、このコントロールというのは、初心者にとっては難しい面が多いのです。

ここで、車の性能の話に戻りましょう。

車輪が滑った状態をコントロールする技術を磨く、ということは、当然ですが、車輪のトラクションやその変化を感じ取るセンサーを磨くことと同時に、滑った状態を経験することも必要です。

センサーは、しばらく走っていれば身に付きます。むしろ、これができなければ、ベタグリであってもまともに走れないと思いますよ。

しかし、滑った状態を経験し、かつ、それを冷静に分析し、その状態から車を制御して行こうとなると、そう簡単に行かないことがあります。

高性能車の問題は、この「滑った状態」がかなり高い次元でないと発生しないことです。当然ですが、高速度域での車体のコントロールは上級者でもたいへんですから、初心者にはとても無理です。こんな状態で限界領域に足を踏み入れるわけですから、なかなか冷静になんかなれないし、そのまま事故を起こしてしまうことすら考えられます。

それどころか、その領域に足を踏み入れることすらできず、壁を越えられずに走り屋をやめてしまう人だっているでしょう。

ましてや、四駆はアンダーやオーバーを「適切に」処理するために、ちょっとしたコツが必要な駆動方式です。特にオーバーステアがそうです。カウンターの当てかたが、FRのような感覚的なものと違って、先を読んだり、アクセルワークと組み合わせたりしなければいけません。安全な場所での丹念な練習が欠かせません。

私が初心者に高性能車、特に四駆をお勧めしないのは、そのあたりに理由があります。

では、本当にそうした車に乗ってはいけないのか、ということです。

明確な答えがあるか、と聞かれれば、はっきり言って、存在しません。なぜなら、最初から高性能四駆に乗って、そのまま上手になって行く人もちゃんといるからです。

私の話から少し推測できることもあるでしょうが、高性能車はけして、ドラテクが学べない、ということはないのです。丹念に練習していれば、身につくものもちゃんとあります。

変な話ですが、車なんてのは車輪が四つついていればみんな一緒です。途中経過は色々あるでしょうが、たどり着くところはみな同じなのです。

その意味では、もう車を買ってしまった、あるいは、どうしても欲しい車があって、それが高性能四駆だった、という人がどんな選択をするかは、その人の考え方次第だと思います。

繰り返しますが、高性能車は、最初はよくてもいずれ苦労します。高い壁をなかなか越えられなくて悩む時期が必ず来ます。しかし、その苦労を押してゆける、そして壁に突き当たってもそれを乗り越えて行くだけの熱意を持って取り組めるだけの自信があれば、その向こうに行けると思うのです。

あとは、どのくらいその車が好きか、その車に乗りたいか、ということです。

あなたがどうしてもその車に乗りたいなら、それはあなたが選んだ道です。その道を突き進むことこそ、あなたにとって最前の選択となるでしょう。

ただし、後で文句を言わないでください。車が高性能であることを言い訳にして、壁の向こうに行こうとする努力を怠らないでください。熱意さえあれば、どんな車でも上達できます。

公道でその練習ができないならサーキットに行けばいいのです。悩みが解決しないなら身近な凄腕の人に教えを請えばいいのです。どんなことでもする、その熱意があればいいだけの話なのです。

どちらにしても、少しでもはやく、確実にドラテクを身につけたい、というなら、私は迷わず、限界が適度に低く、かつ、バランスの取れたスポーツカーを、ノーマルで乗ることをお勧めします。

ただそれは絶対的な話ではありません。敢えて違う道を進むことまでも否定するつもりはありません。

最後に一つ、別のことを申し添えておきます。

もし練習用に車を買い換えたい、あるいは車を別に持ちたい、そう考えている人は、ちょっとの間だけでかまいませんから、踏みとどまってみてください。

買い換えや二台目を持つことは、様々な出費があります。車本体もそうですが、税金も駐車場代も倍ですし、ほかにもいろいろな出費や手間があります。案外、めんどくさいものです。

それに私は、そういう「繋ぎ車」はあまりお勧めしません。いつも他の車に浮気しているようでは、練習にもメンテにも身が入りませんし、それはけして良い結果を生みません。

あなたが愛せる車に乗ることが、上達への最大の近道です。

それでも練習用車が欲しい、と感じたなら、それもあなたの選択でしょう。ただ、それが本当に自分のためになるかどうか、じっくり考えてからでも遅くはないと思います。

相談室だより 第2号

- より上を目指す -

Q: しばらく走り屋を続けていて、腕のほうはそれなりに自信があるのですが、どうしても友人に勝てません。

相手よりもパワーもありますし、そのほかの条件も悪いとは思いません。

自分としてはこれ以上の速さで走れる自信がないのですが、どうしたらよいのでしょうか。

A: 壁というのは、ほとんどどんな人にでも訪れます。

より上に行くためには、この壁をどうやって乗り越えるかでしょう。

しかもこの壁は、やっかいなことに、本人には感じ取れないこともあるのです。

お話から察するに、きっとあなた自身は、この壁に行き当たっているように思えます。

あなたは、自分の車がこれ以上速く走れるようには感じていないのかもしれません。もしかしたら、このところタイムも伸びていないのではないのでしょうか。

ここで、一つのお話をしましょう。

速く走るためには、二つの技術が必要だ、ということです。

一つは、言うまでもなく、車を振り回す技術です。

これはグリップでもドリフトでも共通ですね。車の挙動を感じ取り、次の挙動を予測し、そのために適切な操作をする、その技術が無ければ、速く走るなど全く不可能です。

しかし、多くの人が見逃しているのですが、もう一つの技術がなければ本当に速くなれません。そして、トップドライバーとそうでない人の最大の差がここだと言っても過言ではありません。

そのもう一つの技術とは何か。

それは、どうすれば速く走れるかという、「思想」です。

実はあなたは、固定観念にとらわれているのだと思います。

コーナーのどこから進入し、どこでアクセルを踏むか、そのタイミングについて、一つの思いこみがあって、それにそってしか車を動かしていないのかもしれないのです。

そうしたタイミングは、あるレベルまでは車を振り回す「ワザ」ですが、あるラインを越えると「思想」そのものになって来ます。あなたにはまだ、この「思想」が不足していると思えるのです。

ちょっと考えてみてください。

重要なのは、トータルのタイムを向上させることです。違いますか?

しかし多くの人が、コーナーという、コースの一部に意識を奪われ、トータルのタイムに目が向いていないようです。

また、コーナーだけに限っても、あなた自身が速いと思っていても、実は遅い走り方をしているかもしれません。

ドラテクは、あるレベルに達したら、あとは固定観念との戦いです。あなたが速いと思いこんでいる走り方が、実は速くないからこそ、上へゆけないのです。

固定観念を打ち破り、より速く走るためには、自分の知識を崩し、新しい知識を貪欲に求め続けることが重要です。

そのために、余計なプライドは捨て、その友人がどんな走り方をしているか、その人の後輩になったつもりで丹念に勉強することも重要です。

また、より速い人に教えを請うのも一つの手段です。

速さの理由が何であれ、その人にはちゃんと実績があるのですから、学ぶことはたくさんあります。

あなたから見て「間違っている」ように思える走り方も、実は重要なヒントを隠しているかもしれません。

ときどき開催している、プロのドライビングレッスンに参加するのもいいでしょう。そして、自分の思いこみを捨て、そこで教わったことを素直に吸収することが重要です。

どのような場合でも、自分が「こうだ」と思ったことを、いちど否定してみてください。

あなたの知識の大半はきっと、正しいのでしょう。しかし、間違ったものが入っているからこそ、速くなれないのです。

そしてあなたには、どれが間違った知識なのかわからないはずです。わかっていれば、もう苦労はしていないはずです。

だから、です。

繰り返しになりますが、どんな人の言葉も、大先輩の言葉だと思って素直に聞いてみてください。

そして実践してみてください。

あらゆる考え方を試してみてください。

そうして、あなたの「速さ」に対する思想を組み直してみてください。

また同じことを申し上げますが、ドラテクの向上は、常に固定観念という壁との戦いです。

そのためには柔軟な心が必要です。あなたにも、これまでがんばってきたというプライドがあるでしょうから、もしかしたら難しいかもしれませんが、いちど初心者の気持ちに帰ってみるのもいいでしょう。

がんばってください。

相談室だより 第3号

- ドリフト -

Q: 私は将来、草レースでも構わないので、レースをやりたいと思っています。

先日、先輩から「ドリフトをやっておけ」と勧められました。

私としては、速く走れれば構わないので、わざわざドリフトをする必要を感じないのですが、どうなのでしょうか。

A: 結論から申し上げます。

もし、ドリフトと、いわゆるグリップとを同時にできる環境があるなら、ドリフトをやっておいて損になることはありません。

よく、グリップ走行時に挙動が乱れたとき、そこからのリカバリーに応用できるから、と言う人もいます。

確かにそうなのですが、それはグリップを続けていればいずれは身に付きます。

私としては、もっと積極的な理由でお勧めしたいと思います。

ドリフトは、車の挙動を自分の意志でコントロールする技術を極限まで引き出した競技です。その意味では、あなたのドラテクの幅を大きく広げてくれます。

もちろん、車を振り回すという意味では、ジムカーナも役立ちます。実際、ジムカーナの速い人はグリップでも速いです。

だからジムカーナでも構わないと思いますが、私としてはどちらかというとドリフトをお勧めしたいです。

それは、ドリフトのほうが速度域が高いからです。慣れてくれば3速全開、時速100キロオーバーは当たり前ですし、中にはツクバ2000最終コーナーを4速全開、流しっぱなしで走る人もいます(これは本当の熟練者ですが)。

だから、レースの高速度域での挙動を学ぶにはドリフトのほうが良いと思うのです。

もちろん、ドリフトだけに熱中してはダメです。ジムカーナが役立つのは、ジムカーナがスピード競技だからです。ドリフトは純然たるスピード競技はありませんから、グリップに必要な、よりタイムを詰めるための思想、という面ではどうしても詰めが甘くなりがちです。

しかしそれは、グリップを続けることで磨いて行けば良いでしょう。

むしろ、あなたが作れる車の挙動に幅を持たせ、より速く走るための選択肢を広げることは、いろいろとプラスに働きます。

あと、レースをされるということですが、実はレーサーがドリフトをやっておくと、いいことがあります。

レース中は緊迫した状態ですから、全くノーミスという訳にはいきません。また、突然の天候変化に見舞われ、車のセッティングが崩れてしまうこともあるでしょうが、レースとなればそれでも走らなければなりません。

そうした理由でアンダーステアやオーバーステアを出してしまったと考えてください。

走行会ならば、とりあえずコース内に収まり、体勢を立て直してから、ゆっくり再スタートすればいいでしょう。しかし、レースではそういうわけには行かないでしょう。

減速を最低限に抑え、その状態から姿勢を変化させて走り続けるためには、ドリフトが大変に役立ちます。

ときどき、ドライでは速いのにウェットになるとボロボロに遅いレーサーを見ますが、ドリフトの経験を積んで、どんな挙動が出ようと車をコントロールする自信ができれば、ウェットで弱い、なんてことは起きなくなるはずです。

ドリフトの達人になれとは言いませんが、せめて3速クラッチ蹴りあたりまではできるようになっておけば、色々と得なことがありますよ。

もっとも、環境が許さないならば話は別です。

ドリフト用の車が無いのに、無理に車を買ってドリフトしたりする必要はありません。私の先輩たちにも、グリップを何年も続けているうちに、いつのまにかドリフトができるようになった人がいますから、こういう選択肢もあります。

むしろ、ドリフトに金をかけすぎて肝心のグリップができないようでは、本末転倒ですから。

だから、このあたりはあなたの経済状態と相談して決めてもいいかもしれませんね。

デフのはなし

デファレンシャルとは

デファレンシャルは、日本語では差動発生装置などと呼ばれていますね。教習所でも習いますが。

略称は「デフ」です(走り屋の間では、デフというとイコール、LSDを指すようですが、ここでは普通の(オープン)デフのことを指すものとします)。

まず、なぜデフが必要なのかを説明します。

車というのは直進するばかりではありません。曲がらなければなりません。

曲がると、左右のタイヤで行程が違いますね。と言うか、転がって行く長さが違います。インのほうが行程が短く、アウトが長いです。

これがわからん人は、小学校の算数からやりなおしましょうね。(^-^;

とすると、タイヤの転がる回数(回転数)も違わないとマズいわけです。

昔の馬車のように、左右のタイヤが1本のアクスル(車軸)で直結している場合、当然、左右の回転数は一緒です。もしこの状態で小さな円を描いて曲がろうとすると、左右どちらかのタイヤを滑らせてやらないといけないわけです。

しかしこれを現代的な自動車でやろうとすると、カーブのたびにどちらかのタイヤが滑ってるわけで、安全上も、快適性上でも、もちろんタイヤの摩耗上も、非常に不利。

左右のタイヤが別々に車体に取り付けられてるような場合(FF車の後輪とか)なら、別に問題はないわけです。それぞれ別個に回転しますから、それこそ、左右のタイヤを逆回転させてやったって何も困ることはない。

しかし駆動輪はそういうわけには行きません。エンジンは一つであり、一つのエンジンから左右(四駆なら四輪)にトルクを伝えるためには、左右の(四つの)車輪が車軸でつながっていないとどうしようもありません。

そうすると、何か工夫をしてやらないと、左右の駆動輪は、昔の馬車の車輪のように、片方を滑らせてしまうことになるわけですよ。

駆動輪だけに、こういう事態は避けたいわけですね。

この問題を解決するために、100年も前にデフが開発されました。デフのついている位置は下の図を見てください。

エンジンの駆動力はプロペラシャフトを通じて駆動輪(図では後輪)に伝えられ、デフを介して左右の車輪に伝わります。

FF車でもだいたい、仕組みは似たようなものだと思ってください。

デフは3つのギアから構成されるわけですが、詳しい仕組みは省きます、本でも読んで下さい。(^^;

デフの作動原理は、より抵抗の少ない方により多くのトルクを配分することです。

これでなぜ差動が解消されるかを説明しましょう。

今、右コーナーにさしかかったとします。右サイドがイン、左サイドがアウトですね。エンジンは加速状態で、駆動輪を前に進めようとしています。

イン側のタイヤは行程が短いですから、転がる回数が少く、前に進もうとする力に抵抗します。アウト側は長いから、転がる回数は多く、抵抗は少ないです。

デフはこの場合、抵抗の少ないアウト側に多くのトルクを配分します。

トルクの配分が左右で一定の比率になったとき、左右輪からの抵抗も同じになります。

デフはこの状態を、たった3つのギアで自然に作り出すことができるます。非常にシンプルかつ完成された、すばらしい仕組みです。

考えた人はとても偉いです。

というわけで、現在の車は、100年間にわたって同じ仕組みをずっと使い続けているわけです。それくらい、このデフは完成されたシステムなのですよね。

ちなみにこのデフですが、二輪駆動の場合は左右の駆動輪の間に一つだけついています。でも四輪駆動の場合、行程差は4輪とも違うわけですから、この吸収する必要があります。

このため、左右の前輪の間、左右の後輪の間に加えて、前輪と後輪の間にも一つ、デフがあります(これが「センターデフ」です)。

こうして、より快適なドライブを保証しています。

ところがデフには、一つ大きな問題がありました。

より抵抗の少ないほうにより多くのトルクを配分するということは、こんな問題を起こします。

それは、片輪だけぬかるみにはまってしまったような場合です。

この場合、片輪が滑ります。別の言い方をすると空転します。

空転したタイヤは、駆動力に対してあまり抵抗しません。抵抗すべき摩擦力が無いから、当然の話ですね。

抵抗が少ないということは、デフは、空転しているタイヤにたくさんのトルクを配分してしまいます。極端な言い方をすると、片輪を持ち上げて片輪を地面につけ、車をしっかり押さえつけて、片輪の抵抗を無限大、片輪の抵抗を0にしてやると、エンジンの発生するトルクは全て、持ち上がったほうの車輪に配分されてしまうわけです。

あ、これは極端な話ですが。(^^; 現実には、タイヤの抵抗は摩擦力が限界と考えていいですし、車輪を持ち上げても機械的な抵抗(内部の摩擦)やタイヤの慣性力なんかがありますので……。

まぁ、それはいいとしましょう。

もし自動車が泥道を走っているとしましょう。砂利でもいいから何か舗装された道なら、少なくともある程度は摩擦力があるので普通は大丈夫です。が、道無き道を進んだり、砂地を進んだりするとそういうわけには行きません。

ちょっとぬかるみにはまると、車が前に進まなくなってしまいます。なぜなら、ぬかるみに入ったほうのタイヤだけが回転し、入ってない(ちゃんと地面をつかんでる)タイヤにはトルクが伝わらなくなってしまうからです。

これは、舗装路を、スリップしないで走ることを前提とした普通のデフの落とし穴でした。

この問題はそれでも、ある程度は無視されていました。普通の人が車に乗るような環境では、そこまで極端な空転がなかった(一応は舗装された道路を走っている)からです。

しかし、戦争となると話は別でした。普通の道ばかりを走るわけに行かない戦場では、ひどい悪路を車で物資を運ぶことなど日常茶飯事でした。

この問題を解決するために開発されたのがLSD、ミリテッド・スリップ・デファレンシャルでした。

LSDとは

LSDは、日本語では、差動制限機構つき差動発生装置、となるでしょうか。

LSDも、基本的には普通のデフと同じような働きをします。左右輪の行程差を吸収し、それぞれのタイヤがちゃんと地面をつかんでいるようにします。

その意味で、LSDはデフの一種なわけです。

しかしLSDは、どんな状況になっても、全てのトルクが片輪に行ってしまうようなことはありません。必ず、左右のタイヤにそれぞれトルクを伝えます。

例えば、イン側3対アウト側7、とかみたいにですね。もちろん、この配分は、LSDの仕組みや仕様、その場の条件によって変わります。直進時は5対5ですしね。

この機構があると、片輪がぬかるみに入っても、反対側のタイヤで脱出できます。

LSDはさまざまな仕組みがありますが、大まかにイメージするなら、左右の車輪の間にクラッチ板が入っているようなものです。片方が高速で回転すると、その回転力がクラッチ板(のようなもの)を通じて反対の車輪にも伝わるわけです。

LSDの登場は、自動車の悪路踏破能力を飛躍的に向上させました。このため今でも、所謂クロカン系の車や雪道を走ることを前提とした車、そして農作業などで使用される軽トラなどに採用されています。それらはみな四駆ですが、こういう車は、悪路で一輪がハマるだけで前進できなくなるようでは困るからです。

そして、この仕組みはスポーツカーでも使われています。

スポーツカーは、コーナーリング中にも加速する必要があります。と言うか、それができないとタイムはがた落ちになり、レースでも相手に勝てなくなります。

コーナーリング中は、行程差が発生するだけではありません。遠心力で内側の車輪が浮き、地面をつかむ力が弱くなります。このため、LSDのないスポーツカーで、コーナーリング中にアクセルを踏むと、イン側のタイヤが滑って空転してしまいます。

これをインリフトと呼びます。

インリフトすると、加速できなくなります。これは大変な問題です。

また別の問題として、高速で空転しているタイヤが再び地面をつかんだ瞬間、突然、タイヤの慣性力(回転モーメント)が車に伝えられることになり、車はあらぬ方向に飛んでいってしまいます。

もちろん、インリフトさせない乗り方、というのもあります。横Gを調整し、大きな横Gがかかった状態でアクセルを踏むことを避け、踏むときも微妙に調整する。

しかし、より速く走ることを考えた場合、ドライバーがアクセルをゆるめてインリフトを防いでいるより、機械的にインリフトを防いだ方が有利なのは確かです。

現在のレースの世界ではLSDは必ず使いますし、スポーツ走行でもデフはほぼ必須とまで言われています(違う意見の人もいますが)。

LSDの問題点

LSDは、快適な走行に必要な要素である「差動」を自ら制限してしまうわけですから、当然、問題も発生します。

まずタイヤが減りやすくなります。特にイン側に過剰なトルクが配分され、交差点を曲がるごとに少し滑っている状態になるわけです。

乗り味にも影響します。LSDは左右の回点差を制限しているわけですから、当然、車体をまっすぐ進ませようとする働きもします(左右輪の行程を同一にしようとするわけですから。行程が同一になる軌跡とは、直進のことです)。このため、曲がるときに抵抗になります。素人がLSDを入れると曲がれなくなる、と言われる所以ですね。

イン側のタイヤが滑りやすくなるので、雪道など、少しでもグリップ力を稼ぎたいときは、駆動輪が流れやすくなります。LSDは、前進する力を稼ぐには都合がいいのですが、左右方向のグリップ力の限界は(少しですが)下がってしまうのです。

そして、これが最大の問題点ですが、LSDは高価なのです。(^-^; 少しでもコストダウンを要求される商業の世界で、無意味に高価な部品を入れる理由はどこにもありません。だって、普通の車は、よく舗装された路面を、スリップしない状況で(少なくともスリップさせながら加速する、なんてことはしないで)走るものなのですから。

そういうわけで、普通の車にはLSDは採用されないわけです。

LSDの方式

1way、2way、1.5way

1wayは、駆動力が前方向に働いているとき(普通は加速時)にだけ働くLSDで、それ以外の時は普通のデフと同じです(差動を発生します)。

2wayは、駆動力が前後どちらに働いているときでも(普通は加速時とエンジンブレーキ使用時)働きます。駆動力が働いていないとき(クラッチを切ったときなど)は普通のデフと同じです。

1.5wayは1wayと2wayの中間で、加速時には普通に働きますが、減速時は少ししか聞きません。

回点差感応式、トルク感応式

左右の車輪に回転差が発生してから初めて働くのが、回転差感応式です。おわかりの通り、必ず回点差が発生します。実際に効き始めるのが遅いという特徴があり、快適性をさほど損なわずに悪路踏破性を確保したい場合などに都合がよいと言えますが、片輪の空転を防ぎきることができず、スポーツ走行には向いていないと言われます。

トルク感応式は、エンジン側からトルクが入力され、それに対する反力が一定量になるとロック機構が働き、左右の差動を制限します。イメージ的には、アクセルを踏む(あるいはエンジンブレーキをかける)とロックされ、力が抜けるとロックが解除される、という感じです。

言ってみれば、空転する前に先回りして効くわけで、効き初めは非常によいと言えるでしょう。このため、スポーツ走行には向いていますが、タイヤの摩耗は大きいですし、快適性も今ひとつです。

トルク感応式で、どのくらいのトルクが加わったらロック機構が働くかを表現するときによく聞くのが「イニシャルトルク」です。これは、デフが効果を発揮するためには一定のトルクがかかる必要があるわけですが、予めトルクをかけておくことで、外から入力されるトルクが少なくても聞き始めるようにするのがイニシャルトルクの目的です。

こうしたデフでは、一定以下のトルクでは、普通のデフと同じです。このため、雪道などでトルク反力が得られない状況では効かないという問題点があります。

LSDの機構

ビスカス

「両輪の間にクラッチが入っている」イメージに一番近いのが、このビスカス式でしょう。デフの内部に高粘度のシリコンオイルなどが入っていて、左右の回点差が大きいほど、オイルの剪断抵抗でその回点差を少なくしようとします。回転感応式の代表です。

デフオイルに硬いものを使ったり、シム増しをしたりして、デフロック(デフがない状態。左右の回転差はゼロ)に近づけることができ、お金をかけずに強いLSDを導入したい場合にこの裏技(?)が使われることがあります。

メンテナンスも普通のデフ程度でいいようです。その手軽さもビスカス式の魅力ではあります。

ヘリカル

ヘリカルギアと呼ばれる歯車を利用して差動を制限するものです。トルク感応式です。構造が単純で、メンテナンスは簡単な部類に入ります。

ただし、他方式と比べるとやはり効きは甘いようです。後述するトルセンよりも効き始めがマイルドで扱いやすいですが、いかにもLSDらしい挙動が(やや)出にくいため、トルセンのほうが人気があるようです。

トルセン

ウォームギアを使ったもので、思想的にはヘリカル式に似ていますが、機構はもう少し複雑です。トルク感応式で、非常に完成された形と言えます。

と言うか、トルセンとは「トルクセンシティブ」の略ですので……。

効き具合や効き始めるまでの様子もスポーツカー向けで、最近のスポーツカーにはトルセンLSDが標準装備になっているものがあります。

機械式と比べるとほぼメンテナンスフリーと言われ、安価で有能なLSDとしてしばしば使われますが、あとから効きを調整できないのが最大の難点です。もちろん、メンテが楽と言ってもオイル交換くらいはしましょう。

また、それなりに効くようですが、モータースポーツの世界で要求されるほどの性能はないようです。

機械式

ヘリカルもトルセンも、機械式と言えば機械式ではありますが、所謂「機械式」と言うと、機械式クラッチ板を使ったものを指します。

やはりトルク感応式で、一定のトルクがかかるとクラッチ板に力がかかり、左右の車輪の差動を制限します。

他の方式よりも効きが強く、しかもイニシャルトルクや実際の効き(差動の制限力)を自由に調整できるのが魅力です。その反面、クラッチという消耗品を使っているため、定期的なメンテナンスに加え、頻繁にオイル交換をする必要があります。

なお、LSDの効きとしては、ビスカス、ヘリカル、トルセン、機械式の順に強くなっていくと言われます(一般的には)。

電子式

内部のクラッチ機構などをコンピューターで監理する、まさに最強のLSDです。効き始めるタイミングも、効きも、走行に最適な形で調整できるため、ちゃんと調整すれば欠陥のない性能を発揮します。いえ、それどころか、単なるデフを超えた恐ろしい効果を持ったりもします。

うらやましい限りです。

もちろん、非常に高価です。

ちなみに、電子式LSDのはしりに、日産のアテーサ機構があります。センターデフの前後のトルク配分を電気式に調整し、普段はFR、後輪が滑り始めると4WDになるという、あのGT-Rの方式ですね。

最近はランエボのAYCなどがあります。あれも電子式LSDの応用なわけです。

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